具体的には、リュウグウ試料の水溶液化が行われ、パリ・シテ大学地球物理学研究所のマルチ検出機付きICP質量分析装置により銅および亜鉛の同位体組成の精密測定が行われた。

その結果、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の銅および亜鉛同位体組成は、分析誤差の範囲内で一致したとする。この結果は今までに行われたリュウグウ試料のチタン・クロム・鉄および酸素同位体分析の結果と整合しており、難揮発性元素から中程度の揮発性元素、揮発性元素に至るまで、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石がほぼ同一の同位体組成を持っていることを示しているとしており、研究チームでは、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石のもととなる天体は、誕生したタイミングや場所、形成過程などに関して多くの共通性があり、両者は親戚関係にあるといえると説明している。

また、イヴナ型炭素質隕石は全隕石の中で最も始原的かつ、太陽に最も近い化学組成を持つことから、リュウグウ試料の銅および亜鉛同位体組成は、太陽の銅・亜鉛同位体組成の最適な推定値であると考えられるともしている。

さらに、リュウグウの原子核合成に由来する亜鉛同位体異常の解析が行われたところ、地球の亜鉛同位体組成を説明するためには、太陽系の内側(地球に近い領域)に存在していた物質に加え、太陽系外縁部のリュウグウ的な物質も必要であることが判明したという。

  • 太陽系内側物質(Ureilites、NC iron、Ordinary、Enstatite)、炭素質隕石(Carbonaceous、Carbonaceous iron)、リュウグウ試料および地球物質の核合成起源亜鉛同位体異常(ε66Zn)を示す図

    太陽系内側物質(Ureilites、NC iron、Ordinary、Enstatite)、炭素質隕石(Carbonaceous、Carbonaceous iron)、リュウグウ試料および地球物質の核合成起源亜鉛同位体異常(ε66Zn)を示す図。リュウグウ試料と炭素質隕石は正のε66Zn値を持つ一方、太陽系内側物質は負のε66Zn値を持つ。地球のε66Zn値(~0)を説明するには、リュウグウ的組成を持つ亜鉛が30%、太陽系内側物質の組成を持つ亜鉛が70%必要である ((c) Paquet et al., 2022より引用) (出所:東工大プレスリリースPDF)

計算の結果、地球に存在する亜鉛の約30%はリュウグウ的物質、残りの約70%は太陽系の内側物質であることが推察されたとする。リュウグウ的物質は太陽系内側の物質と比較し、亜鉛のような中程度の揮発性元素に富んでいることを勘案すると、地球の形成に寄与したリュウグウ的物質は、地球質量の約5%であることが予測されたとしている。

研究チームでは、リュウグウは、たとえるなら太陽系の化学組成を知るための「ロゼッタストーン」だとしており、今回の研究は、そのようなリュウグウが生まれた太陽系外縁部の物質が、地球形成にも関わっていたことを示すもので、その質量は地球質量の5%であるが、リュウグウ的物質は揮発性元素に富んでいるため、地球に存在する揮発性元素の相当量(亜鉛の場合、約30%)が太陽系の果てからやってきた、と推察されるとしているほか、地球の形成に寄与した5%のリュウグウ的物質がどのようにして地球形成領域にやってきたのか、また、リュウグウ的物質からやってきた亜鉛以外の揮発性元素はどのくらい地球に取り込まれたのか、今後の研究により明らかにされることが期待されるとしている。