冒頭からの“おことわり”で恐縮至極でございます。この記事はタイトルにもあるようにHPのキーボードのお話です。にもかかわらず、のっけから競合他社のキーボードについて言及するところから始まります。筆者にとってキーボードの使い心地とは、ThinkPadの延長線上にあるためで──。
で、何のお話でしたっけ。
そうそう、競合他社のキーボードのお話です。競合他社なんてまどろっこしい表現してないでずばり言いなさいよ、という声が画面の向こうから聞こえてきます。というか、賢明な読者の皆さんは競合他社がレノボ、つまりThinkpadであることをすでに(見出しから)察知されていることでしょう。
そのThinkPadに乗っかっているキーボードがとにかくタイプしやすく、気に入っているのです。ここで“かった”と過去形にしたい古参ユーザーの方が少なからずいるのは心得ておりますが、とりあえず個人的には、現役ノートPCの中ではまだまだタイプしやすく、少なくとも長文を入力しようという気にさせてくれるキーボードだと思うのです。
なお、ここで、「キーボードとポインティングデバイスとして載せているトラックポイントの組み合わせこそがThinkPadの真価であって、これを上回るマンマシンインタフェースなどない」という意見には深く賛同するところでありますが、しかしいまとなっては、この組み合わせを知っているユーザーが少数派となりつつあることを認めざるを得ない状況も、また受け入れなければならない事実でありましょう。
改善されつつあるPCメーカー各社のキーボード
でも、そのことはひとまず置いておいて(おいとくんかい!)、キーボードのタイプ感に話を戻すと、やはりThinkPadのキーボードは「うーん、なんか最近のモデルはちょっとなんだかな」とは思いつつも、まだまだ突出しているよねと個人的には思って“いました”。
おっと、なんとここで過去形です。仕事柄いろいろなノートPCに触れる機会があるのですが、最近「おおっ!」と特に思わされたのが日本HPの「HP Elite Dragonfly G3」と、富士通クライアントコンピューティングの「LIFEBOOK UH-X/G2」でした。LIFEBOOK UH-X/G2は同業者の間でも評価が高く、また、それ以前にも評価で使ったことのある「FMV Zero LIFEBOOK WU4/F3」も同様にキーボードが大変使いやすいと評価していました。
HP Elite Dragonfly G3はまだ登場したばかりのモデルなので、周りの評価というものはまだ聞こえてきませんが、個人的には「HP製ノートPCのキーボードはちょっとね」という印象がありました。ふと気になってこれまで掲載してきたレビュー記事を読み返してみると、案の定キーボードに関するコメントは割と“淡泊”です。
それが、HP Elite Dragonfly G3のキーボードをタイプした途端に「お、これは打ちやすい!」とはっきり感じられたのです。HP Dragonfly G3ではキーボードの機構に変化があったのでしょうか。HPのWebページや製品リリースでは特にキーボードに関する訴求はありません。私が長年気づいていなかっただけなのでしょうか。そうなっていくると、ノートPCに打ちやすいキーボードが載っているなら、それをデスクトップPCでも使いたくなるというのが人情でしょう(そ、そうか?)。
これはThinkPad関係者も同じことを考えていたのか、ThinkPadに載っているキーボードをそのまま抜き出したようなデスクトップPC用キーボードとして「ThinkPad トラックポイント・キーボード」をリリースしています。これがThinkPadを愛するユーザー、特に日本のユーザーから熱く支持されて後継の新モデルまで登場しています。
HPでも同じような話があった……とは特に聞いていないのですが、HP Elite Dragonfly G3のキーボードと同じような快適さでタイピングを行えるデスクトップPC用のキーボードがあります。前置きが果てしなく長くなりましたが、これこそが今回紹介する「HP 970 Programmable ワイヤレスキーボード」(以下、HP 970)なのです。
ああ、このように書くと「HP Elite Dragonfly G3ができてそのキーボードユニットを使ってHP 970ができたのかな」と受け取られそうですが、HP 970は2021年11月からすでに販売されています。なので実際には「HP 970のキーユニットをHP Elite Dragonfly G3向けにカスタマイズした」可能性のほうがが高いのかもしれません。
ちなみに、「Made in Tokyo」の品質を訴求する日本HPですが、HP 970は中国で生産しています。もっともHP Elite Dragonfly G3も東京生産モデルと海外生産モデルがありますから、そんなに大きな問題とはならないでしょう。生産国によらずHP 970もHP Elite Dragonfly G3も同じような感触でタイプでき、どちらも同じように「この快適さなら、長い文章の入力にも全然使えるな」思えたことに違いはありません。
なお、ThinkPad トラックポイント・キーボードは幅306×奥行き164×厚さ14mmの重さが440gとギリギリ持ち運びも可能なサイズですが、HP 970は幅429.72×奥行き117×厚さ12.2mmの重さが676gと、サイズ・重量的には家のデスクにしっかり据え付けて用いるほうが向いているように思われます。シルバーのカラーリングとその重さから金属製かと思いきや、一部にリサイクルに配慮した再生可能プラスチックを取り入れた樹脂素材が採用されていました。
対応OSはWindows 10以降とmacOS X 10.10以降で、PCとの接続はBluetoothか同梱のUSB Type-A対応の2.4GHz帯無線通信、そして、USB Type-Cに接続する有線ケーブル接続を含めて3つの接続方式で利用できます。これらの接続は並列に行われるので、1台のHP 970を3台のPCに接続して切り替えて使うことも可能です。
さらに、本体には照度センサーや近接センサーを搭載し、部屋の明るさやユーザーの着座状況を検知できます。製品名の通り20キーにショートカットを割り当てられる“プログラマブル機能”も備え、用途やスタイルに応じた多彩なカスタマイズに対応します。
と、カタログスペックとしても魅力的な要素を数多くそろえているHP 970でありますが、それよりもなによりもキーボードとして「そこは絶対外せないでしょ」なタイプ感において、ThinkPad トラックポイント・キーボードに並ぶ選択肢として十分考えるべきモデルとして評価してもいいんじゃないかなと感じられたのでありました。