折りたたみスマホの登場で身近な存在となった“曲げられるディスプレイ”。その先進的な技術を応用したノートPC「ASUS Zenbook 17 Fold OLED UX9702AA」がASUS JAPANから登場した。
最大の特徴は、折りたためば12.5型のモバイル端末に、広げれば17.3型の大画面タブレットになる変幻自在の有機ELディスプレイだろう。12月1日に発売した本機をいち早く試すことができたので、その外観や使い勝手、パフォーマンスなどを詳しく紹介していこう。
大画面&折りたたみの強烈な個性を持った2in1 PC!
ASUSの公式サイトでは、ASUS Zenbook 17 Fold OLEDを「17.3型フォルダブル有機ELノートパソコン」と呼んでいるが、カテゴリー的には2in1 PCに分類できるデバイスだ。しかし折りたたみディスプレイを採用したことで従来の2in1 PCの範疇にとどまらない製品になっている。
希望小売価格が649,800円することもあってか、製品の梱包はかなり厳重にされている。外箱を開けると緩衝材に包まれたひとまわり小さな化粧箱が入っており、その中に本体が収められている。
箱の中にはそれ以外にも、BluetoothキーボードとUSB Type-C to Type-Aケーブル、ACアダプターなどのアクセサリー類が入った箱とマニュアル類、専用スリーブケースなどが同梱されており、まるでマトリョーシカ風のサプライズボックスのよう。ひとつひとつ開けて取り出していくだけでワクワクが止まらない。
本体は、17.3型の有機ELディスプレイが採用されており、広げた状態だと幅378.5×奥行き287.6×高さ13.3mm、閉じた状態だと幅287.6×奥行き193.5×高さ23.1~34.4mmとなる。本体のみの質量は約1.53kg、本体とBluetoothキーボードの組み合わせでは約1.83kgとなっている。
インタフェースは、本体を折りたたんだ状態の前面にThunderbolt 4が、右側面に電源ボタンとマイクロホン/ヘッドホン・コンボジャック、Thunderbolt 4が各1基ずつ搭載されている。
また、ディスプレイ上部にはWindows Hello対応の491万画素のWebカメラが内蔵されており、顔認証ログインやオンライン会議などに使用することができる。
6モードで使い分け、付属のBluetoothキーボードも活躍
17.3型の有機ELディスプレイは、解像度が2.5K(2,560×1,920ドット)でアスペクト比が4:3、色域がDCI-P3カバー率100%、応答速度が0.2msというスペック。
有機ELだけあって漆黒から極彩色まで美しく再現してくれる。DisplayHDR 500 True Black対応のため、HDRコンテンツの制作や鑑賞にも向いている。
ディスプレイは中央で折り曲げられるが、ヒンジに余裕を持たせていることもあって曲げた際も折り目はゆるいカーブ状になる。そのためくっきりとしたシワにはなりにくいようで、試用機の場合も中央付近に微かに波立って見える部分はあったが、画面を点灯すると見分けがつかずタッチ操作に支障が出ることもなかった(ASUSによれば、ヒンジの開閉テストは30,000回以上をクリアしているとのこと)。
この折りたたみディスプレイと付属のBluetoothキーボードを組み合わせることで、ASUS Zenbook 17 Fold OLEDはさまざまなモードに変形して使用することができる。
17.3型の大画面で使うタブレットモード
そのひとつが、完全に画面を広げて17.3型の大画面タブレットとして使う「タブレットモード」。
このサイズだとさすがに手に持って操作するのはたいへんだが、本体背面にキックスタンドが搭載されているため、机の上に置いて使用することも可能。キックスタンドは0~60度の間で無段階で調節できる。
キックスタンドで立てかけるデスクトップPCモード
キックスタンドで机に設置した状態でBluetoothキーボードをつなげると「デスクトップPCモード」になる。キーボードにはタッチパッドが内蔵されているため、空きスペースが少ない机でも操作しやすいのがありがたい。
本体もキーボードもバッテリー駆動のため、コンセントが近くにない場所でも使用できるのは、一般的なデスクトップPCにはないメリットだ。
コンテンツが読みやすいリーダーモード
タブレットモードの状態から少し本体を折り曲げると、「リーダーモード」になる。12.5型の画面が左右にふたつ並んだ状態になるため、電子書籍がとても読みやすい。
電子コミックは見開きで表示してもセリフの文字が小さくなりすぎず、拡大・縮小しなくてもスムーズに読み進めていくことができる。
ソフトウェアキーを使うノートPCモード(+タッチキーボード)
リーダーモード時に縦向きにして机に置くと、「ノートPCモード(+タッチキーボード)」になる。
画面の下半分にソフトウェアキーボードが表示されるため、タブレットモードやリーダーモードで使っている最中にSNSでさくっとレスを返したいときなどに便利。
クラムシェル型っぽいノートPCモード(+Bluetoothキーボード)
その状態で画面の下半分にBluetoothキーボードを置くと、「ノートPCモード(+Bluetoothキーボード)」になる。キーボードがマグネットで本体に固定され、物理的なキーボードを備えたクラムシェル型の12.5型ノートPCのように使用することが可能。
ディスプレイの半分がキーボードで隠れてしまうため、ちょっともったいない気がしないでもないが、それでもフルHD以上の解像度(1,920×1,280ドット)は確保されている。キーボードもキーピッチが約19mmあってタイピングしやすいので、文書作成やメール作成などにはとても使いやすい。
大画面とキーボードを組み合わせた拡張モード
ノートPCモードの際にBluetoothキーボードを本体から離して置くと「拡張モード」となる。縦に長い画面を見ながら作業できるので、ビジネス文書を作成したり、Webページを閲覧するのには便利そうだ。
利用シーンに合わせてスタイルを変えられるのは、思った以上に便利。PCに使い方を合わせるというより、自分の使い方にPCを合わせられるのは大きい。折りたたみという異次元のギミックに注目が集まりがちだが、使い勝手の面でも異次元を目指して工夫が施されているのは好印象だ。
“マルチ”な環境で使いやすいのが魅力的
実際にさまざまなシーンで使ってみて便利に感じたのが、他の機器につなげて使うとき。たとえば外付けディスプレイにつなげてマルチディスプレイ環境にした際の使い勝手がとてもよかった。
一般的なノートPCだと、内蔵ディスプレイと外付けディスプレイを並べると画面の位置やサイズの差があって視線の移動が大きくなり見づらいことがある。しかし本製品のデスクトップPCモードの場合はその差が小さいうえ、キーボードを好きな位置に置けるため、ふたつのディスプレイを見ながらの作業が捗った。
ちなみに、本体に搭載されているふたつのThunderbolt 4ポートは、両方ともUSB PDと映像出力に対応しており、最大8K(7,680×4,320ドット)まで出力することができる。4Kまでのディスプレイなら同時に2台つなげて3画面のマルチディスプレイ環境を実現することも可能だ。
もうひとつ“マルチ”な機能が、付属のBluetoothキーボード。最大2台までのデバイスのマルチペアリングに対応しており、ファンクションキーのF9とF10キーを押すことでデバイスを簡単に切り替えられる。複数のPCで作業するような場合にとても便利だ。
10コア12スレッドの第12世代Core搭載、性能は?
Zenbook 17 Fold OLEDは、CPUに第12世代のインテル Core i7-1250Uプロセッサーを採用している。同CPUは高性能なPコアが2つ、高効率なEコアが8つ搭載された10コア12スレッドのモバイル向けプロセッサーで、動作周波数は最大4.7GHzとなっている。
コア数の多さから推測される通りマルチスレッド性能が高く、複数のアプリを同時に実行しても動作が重くなりにくいのが特徴だ。
プロセッサー・ベース電力が9Wという低消費電力タイプのCPUのため、動画編集のような負荷の高い用途よりも、ビジネス文書作成や動画視聴、Web閲覧などの日常的な用途に適している。
とはいっても前世代からはパフォーマンスが大きく向上しており、写真編集やちょっとした動画編集ならそれほどストレスを感じることなくこなせるはずだ。
グラフィックスはCPU統合型のインテル Iris Xe グラフィックスで、メモリは標準で16GB(LPDDR5-5200)、ストレージはPCI Gen4×4接続の1TBのSSDなどとなっている。一般的なタブレットや2in1 PCなどに比べるとかなり高性能で、ハイエンドなノートPCと比べても引けを取らない構成だ。
ASUS Zenbook 17 Fold OLEDの主な仕様
- OS:Windows 11 Home 64bit
- CPU:Intel Core i7-1250U
- メモリ:16GB LPDDR5-5200
- ストレージ:1TB SSD(PCI Express 4.0 x4接続)
- グラフィックス:Intel Iris Xe graphics(CPU内蔵)
- 光学ドライブ:―
- ディスプレイ:17.3型 OLED(2,560×1,920ドット)
- 通信:Wi-Fi 6(IEEE802.11a / b / g / n / ac / ax)、Bluetooth 5.1
- インタフェース:Thunderbolt 4 (Type-C) ×2、マイク/イヤホンジャックなど
- サイズ:W378.5×D287.6×H13.3mm(本体のみ)/W287.6×D193.5×H23.1mm~34.4mm(キーボード装着時)
- 重さ:約1.53kg(本体のみ)/約1.83kg(キーボード装着時)
- 生体認証:顔認証
- バッテリー駆動時間:約12時間
- カラー:テックブラック
今回性能チェックのため、「CINEBENCH R23」「PCMark 10」「3DMark」「CrystalDiskMark」などのベンチマークソフトでスコアを測ってみることにした。いずれもプリインストールされているユーティリティ「MyASUS」でファンモードを「パフォーマンス」に設定して計測している。
まず、CPUの性能を測る「CINEBENCH R23」は、次の結果になった。
CINEBENCH R23 | |
---|---|
CPU(マルチコア) | 8059pts |
CPU(シングルコア) | 1674pts |
前世代のCore i7-1185G7と比較すると、シングルコアは1割程度、マルチコアは2~3割ほどもアップしている。モバイル向けのプロセッサーとしてはかなりパワフルで、よほど負荷の高い処理でない限り性能不足を感じるシーンは少ないと思われる。
続いて、PCの総合的なパフォーマンスをチェックするため「PCMark 10」を実行してみた。
PCMARK 10 | |
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総合スコア | 4899 |
Essentials | 9871 |
Productivity | 6858 |
Digital Content Creation | 4714 |
快適に動作する目安は、基本性能を示すEssentialsが4100、ビジネスアプリのパフォーマンスを示すProductivityが4500、クリエイティブアプリのパフォーマンスを示すDigital Content Creationが3450となっているが、本製品はいずれも大きく超えている。普段使いはもちろんのこと、画像編集や映像編集などもある程度快適に行えそうだ。
次に、グラフィック性能を測るため「3DMark」も試してみた。
3DMARK Time Spy | |
---|---|
Time Spy score | 1472 |
Graphic score | 1300 |
CPU score | 5926 |
3DMARK Fire Strike | |
---|---|
Fire Strike score | 3607 |
Graphic score | 3645 |
Physics score | 16377 |
Combined score | 1605 |
3DMARK Night Raid | |
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Night Raid score | 13057 |
Graphic score | 16606 |
CPU score | 5906 |
CPU内蔵のグラフィックスとしてはなかなかの好成績で、軽めのオンラインゲームなら十分楽しめそう。画像編集や動画のちょっとした編集などには十分なパフォーマンスだ。
加えて、ゲーム系のベンチマークソフトも試してみた。
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト | |||
---|---|---|---|
品質 | 解像度 | スコア | 評価 |
低品質 | 1920×1080 | 9923 | とても快適 |
標準品質 | 1920×1080 | 8135 | とても快適 |
最高品質 | 1920×1080 | 8070 | とても快適 |
ドラゴンクエストX程度の軽いゲームであれば、そこそこ快適にプレイできそうだ。
最後に、「CrystalDiskMark」でストレージの性能も測ってみた。試用機には1TBのNVMe対応M.2 SSD(PCI Gen4×4)が搭載されていたが、シーケンシャルリードが規格上の限界である7,000MB/sに迫る数値で、その高速さがわかる結果になった。
CrystalDiskMark | ||
---|---|---|
1M Q8T1 | シーケンシャルリード | 6840.36 |
1M Q8T1 | シーケンシャルライト | 5133.75 |
1M Q1T1 | シーケンシャルリード | 3900.36 |
1M Q1T1 | シーケンシャルライト | 3104.29 |
4K Q32T1 | ランダムリード | 370.42 |
4K Q32T1 | ランダムライト | 350.77 |
4K Q1T1 | ランダムリード | 81.09 |
4K Q1T1 | ランダムライト | 139.79 |
いくら大画面でもPCとしての基本性能が低ければ魅力は減ってしまうが、Zenbook 17 Fold OLEDは現状で折りたたみPCに期待できる最高の性能をしっかり盛り込んでいる印象だ。
そのぶん649,800円と容易には手を出せない価格だが、その突出した個性に価格以上の価値を見出す人も中にはいるだろう。時代を先取りしたPCに興味がある人にはぜひ注目してほしい製品だ。