観賞と鑑賞の正しい使い分け方を訊かれると、答えに困ってしまうという方も少なくないかもしれません。
日本語には似た表現がいくつもあり、混同してしまったり使い分け方がイマイチわからないまま、なんとなく使われていたりするケースも少なくありません。観賞と鑑賞も読み方も同じで、似ていることもあり、混同されてしまいがちです。
ここでは、観賞と鑑賞のそれぞれの意味や使い方などについてくわしくご紹介します。
観賞と鑑賞の意味の違いは?
観賞と鑑賞は読みも同じであり、使い方もとても似ています。それだけに混同している方や、使い分けるにしてもそれぞれの意味や方法をしっかりと考えたことがない方もいるのではないでしょうか。しかし、観賞と鑑賞にはそれぞれ意味が異なります。そのため、使い方を間違えるとこちらの意図が正しく相手に伝わらず、誤解を生む可能性もあるのです。
ここではまず、観賞と鑑賞の意味についてくわしくご紹介します。
観賞の意味
観賞とは、「単純に何かを見て楽しむ」という意味を持ちます。「観」という字には「みる」という意味があることからわかるように、「目でみること」という意味合いが強くなります。単に「みる」というだけではなく、プラスして「楽しんだ」という意味を伝える際に使われる言葉です。
鑑賞の意味
鑑賞は対象を見聞きするのみでなく、「より深く理解して味わう」という意味を持ちます。「鑑」という字には「何かを見極める、品定めをする」といった意味があります。「鑑定、鑑別」といった言葉で使われていることを考えるとよりニュアンスを理解しやすくなります。
単に目でみるのみでなく、何かの意図を込めて作られた人工物などを理解しようとしたり、その価値を見定めたりするといったニュアンスで使われる言葉です。
決定的な違いを見極めるポイント
使い分けに迷ってしまった場合は、対象の芸術性に着目して考えてみてください。景色などと違って芸術作品などは何らかの意図を込めて作られています。そのため、単に目や耳で見聞きするのみでなく、その意図を理解しようとしたり見定めたりすることが重要です。そのため、芸術作品の場合は「鑑賞」が使われます。
一方で芸術性などがそれほどなく、単純に目で見て楽しむといったニュアンスが強い場合は「観賞」を選びます。
芸術作品以外でも「みる」のではなく「理解する、見定める」といったニュアンスが強いものを対象とするのであれば「鑑賞」、そうではないものについては「観賞」と考えることによってより使い分けしやすくなります。
音楽、映画や舞台はどちら?
それでは、より具体的な使い分け方をご紹介します。まず、音楽は「鑑賞」を使うのが一般的です。音楽は目でみるのではなく、耳で聞いて楽しみます。また、芸術性が高くその意図を理解する、場合によってその価値を見定めることもあるため、「観賞」ではなく「鑑賞」です。コンサートは目で見て楽しむという面がありますが、基本が音楽を聴いて楽しむことなので「鑑賞」が使われます。
映画や舞台なども芸術性が高く、制作者の意図、作品に込められた意味などを理解しながら楽しむため「鑑賞」を使います。
ただし、映画や音楽に関しては作品の質によって使い分けられることがあります。特にコメディ、喜劇作品などについては、込められた意味などを考えるのではなく、目の前にあるありのままのものを単純に見て楽しむといった側面が強いため、あえて「観賞」が使われるケースもあります。一方で、ミュージカルなどのより芸術性の高い作品は「鑑賞」が使われるのが一般的です。
テレビや花火、景色はどちら?
テレビは「観賞」が使われます。もちろん、テレビでは芸術性の高い作品が放送されることもあります。一方で、ニュースをはじめとするさまざまな情報を提供しており、その役割が非常に幅広いことから単純に「みる」という意味合いの強い「観賞」が使われるのが一般的です。
景色に関しても「観賞」が一般的です。美しい景色であっても、景色は何かの意図が込められているものではなく、ありのままを見て楽しむものであることから「観賞」が適切です。
一方で、同じ景色であっても何か人の手が加えられて芸術性のある風景になっている場合は「鑑賞」にあたります。具体的には、人の手によって整備された庭園などは芸術性が高いことから「鑑賞」が適切です。植物などでも、自然のありのままの姿をみるのであれば「観賞」ですが、盆栽やフラワーアレンジメントなどは芸術作品にあたるため「鑑賞」を使います。
しかし、「観賞」と「鑑賞」の使い分けを厳密に定義するのは困難です。対象の受け取り方が人によって異なるため、明確にこちらは「観賞」でこれは「鑑賞」と断言することはできません。例えば花火は人工的なものであり、芸術性が高いものの通例として「観賞」が使われています。そのため、どちらか迷った場合は通例を確認することも大切です。
観賞と鑑賞の類語
「観賞」と「鑑賞」にはそれぞれ違った意味・ニュアンスがあるため、しっかりと使い分けることが重要です。また言葉の意味を知るのみでなく、さらに類語を知れば表現の幅を広げてコミュニケーションをより円滑にできます。ここからは「観賞」と「鑑賞」の類語についてご紹介します。
共通する類語は「観覧」
「観覧」は「単に見物する」、「見て楽しむ」といった意味を持つ言葉です。ニュアンスとしては「観賞」の方が近いのですが、芸術作品の展示会などに足を運ぶことも「観覧」と呼ばれることから「鑑賞」の類語としても使用されます。
「観賞」と「鑑賞」のどちらを使うべきか迷ってしまったのであれば、「観覧」に置き換えるのもひとつの選択肢です。
「味わう」はどちらの類語?
「味わう」には「芸術作品などを理解して楽しむ」、「品定めをする」といった意味を持つことから「鑑賞」の類語・置き換え表現として使えます。同様に「味わう」と近いニュアンスを持つ「噛みしめる」、「浸る」も「鑑賞」の類語にあたります。
観賞と鑑賞の英語表現
「観賞」と「鑑賞」はそれぞれ意味や使われるシーンが異なることから、英語表現も異なります。ここでは、「観賞」と「鑑賞」の英語表現についてご紹介します。
appreciation
「鑑賞」を英語にすると「appreciation」です。「何かのよさがわかる」、「理解する」という意味のある言葉なので「観賞」というより「鑑賞」に近いニュアンスです。
enjoy
「単純に対象を見て楽しむ」という意味を持つ英語表現が「enjoy」です。こちらは「観賞」の英訳として使われます。
観賞と鑑賞の使い分け方は? 例文を使ってご紹介
言葉としての意味は理解できても、具体的にどのように使えばいいのかわからないという方もいるかもしれません。そこで、最後に例文を挙げながらより具体的に「観賞」と「鑑賞」の使い分け方をご紹介します。
観賞を使った例文
「観賞」には、「何かを単純に見て楽しむ」という意味があります。それでは、例文を挙げながら具体的な使い方をご紹介します。
・休日は主にテレビを観賞して楽しんでいます
・登山をして美しい景色をのんびりと観賞するのが趣味です
・その美しい自然の風景は観賞する価値があります
・コメディの舞台を観賞する
・夏の楽しみといえば花火を観賞することです
芸術性の高いものは「鑑賞」が使われますが、例外として「ありのままを眺めて楽しむこと」が前提とされているコメディの舞台、花火などに関してはあえて「観賞」が使われることがあります。
鑑賞を使った例文
「鑑賞」には単に対象をみるのみでなく、「より深く理解したり見定めたりする」といった意味合いがあります。それでは、具体的な使い方をご紹介します。
・休日は主に映画鑑賞をして過ごしています
・美術館で高名な画家の作品を鑑賞する
・先日鑑賞したミュージカルはとても素晴らしかった
・素晴らしい音楽を鑑賞すると心が落ち着きます
・美しい庭園を鑑賞していると心があらわれるようです
「鑑賞」は人の作ったものや芸術作品などに主に使われます。
観賞と鑑賞の意味を理解しよう
「観賞」と鑑賞」は同じ読みではありますが、意味には違いがあります。そのため使い分けを間違えると、相手に誤解を与えてしまう可能性があります。使い分けのポイントとなるのは芸術性です。芸術性が高いものは「鑑賞」、それ以外は「観賞」といった形で考えると理解しやすくなります。通例なども確認しながらうまく使い分けてみてください。