第81期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)6回戦は稲葉陽八段―菅井竜也八段戦が12月7日(水)に関西将棋会館で行われ、192手で菅井八段が勝利しました。この結果、今期成績は勝った菅井八段が4勝2敗、敗れた稲葉八段が3勝3敗となりました。

四間飛車の相穴熊

本局は、後手の菅井八段が四間飛車に組んで幕を開けました。先手の稲葉八段が居飛車穴熊に組んだのを見て、菅井八段も自玉を穴熊の堅陣に収めます。戦型は四間飛車対居飛車の相穴熊に決まりました。6筋の歩突きを保留する得意の駒組みを見せたあと、3筋の歩を守るために左金を力強く上がったのも菅井八段らしい一手。序盤は菅井八段が個性を主張する展開になりました。

盤上では、相穴熊らしい間合いの計り合いが続きます。菅井八段が6筋に飛車を回れば、稲葉八段も同様に飛車を回って相手の狙いを摘み取ります。受けに回る時間が続く稲葉八段ですが、6筋を守る飛車を2筋に戻したのが中盤の分岐点でした。これは次に角交換からの飛車先突破を見せて菅井八段からの仕掛けを誘っている意味があります。これに対し菅井八段が歩をぶつけたことで本局は本格的な中盤戦に突入しました。

稲葉八段が受け続けて優位に立つ

角交換を果たした菅井八段はさっそくこの角を敵陣に打ち込んで馬を作ります。局面は「菅井八段の攻め対稲葉八段の受け」という構図で進展していきますが、稲葉八段も馬を作り返して形勢は互角を維持しています。稲葉八段が飛車を2筋からさばいたときに、菅井八段が馬を引いて馬交換を迫ったのが中盤の勝負手でした。先手が素直に交換に応じて桂得を果たすと、数手後に菅井八段の方から飛車を捨てる鬼手が用意されており後手有利になる仕組みです。

菅井八段の狙いを看破した稲葉八段は、駒得を急がずに丁寧な受けを続けます。ここまでの粘り強い辛抱が実を結び、形勢の針はすこしずつ先手の稲葉八段に触れ始めました。ジリ貧を嫌う菅井八段は続いて9筋の端攻めに攻めの手段を求めますが、稲葉八段も「一手は一手」と着実に守りの手を重ねて崩れません。局面は終盤戦に突入し、おたがいに相手の穴熊を直接攻める手を繰り返します。

白熱の終盤戦を菅井八段が制する

時刻はついに深夜0時を過ぎました。主導権を握られた菅井八段ですが、迫力満点の攻めの手を連発し、勝負勝負と迫ります。8筋と6筋への二度の香打ちはいずれもタダで取られてしまう場所への着手ですが、この捨て身のアタックが徐々に盤上の雰囲気を変えていきました。この連続の香打ちを見た稲葉八段も思わず頭に手をやって対策を考慮します。

一局を通じて正確な受けを続けていた稲葉八段ですが、菅井八段の迫力ある追い込みを前に一つのミスが出ます。前述の6筋への香打ちに対して8筋の香を歩で取ったのがそれで、ここは利かされのようでも金を逃げて面倒を見る手が優りました。金を手にした菅井八段は、6筋の空いた空間に持ち駒の飛車をねじ込む鬼手を用意していました。これもまたタダで取られる位置ですが、これを取ると詰めろ金取りの決め手が待っており、先手はこれを取ることができません。この手は先に稲葉八段が8筋の香を取った手をとがめており、結果的に菅井八段はここで体を入れ替えることに成功しました。

終局時刻は0時59分、飛車捨ての鬼手から稲葉八段の玉を寄せ切った菅井八段が勝利をつかみ取りました。勝った菅井八段は次局で糸谷哲郎八段と、敗れた稲葉八段は次局で斎藤慎太郎八段と顔を合わせます。

水留啓(将棋情報局)

  • 注目の同門対決を制した菅井八段

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