日本代表が再び歴史を作った。中東カタールで開催中のサッカーW杯のグループE最終戦で、優勝候補の一角スペイン代表を2-1で撃破。ドイツ代表に勝利した初戦に続く番狂わせを起こし、2つのW杯優勝経験国と同居した「死の組」を1位で突破した。コスタリカ代表との第2戦で敗れてから4日。チームの立て直しに奔走したキャプテンのDF吉田麻也(シャルケ)は、代表人気の低迷が指摘されて久しい、日本サッカー界を取り巻く状況にも胸を痛めてきた。だからこそ、起爆剤となりうる2つの大金星と2大会連続4度目の決勝トーナメント進出に、34歳のベテランは何を思ったのか。スペイン戦直後を含めて、吉田が残した言葉とともにその胸中を追った。
記憶の糸をキャプテンのDF吉田麻也は必死にたどっていた。ドイツとの初戦に続いてスペインとの最終戦でも大金星をゲット。カタールW杯のグループEを1位で通過した、ドーハ郊外のハリーファ国際スタジアムの取材エリアで、日本代表の歴史を脳内検索し始めた。
「日本が2勝して次へ進んだこと、いままでありましたかね。僕が出たW杯では初めてですよね」
即興で呼び起こされたデータは間違っていなかった。日本がW杯のグループステージを突破するのは通算4度目。2002年の日韓共催大会は2勝1分けで、10年の南アフリカ大会は2勝1敗でそれぞれ突破しているが、ともに吉田がA代表に招集される前の大会だった。
一転して吉田が初めてW杯に臨んだ14年ブラジル大会は、1分け2敗の最下位で無念の敗退を喫した。そして、4年前のロシア大会では1勝1分け1敗の2位で突破した。しかし――。
「(前回大会で)コロンビアに勝ったときは、開始早々に相手に退場者が1人出ていたので。勝ったけれどもそれがあったから、みたいなのがあったので、ちゃんと勝ったのは(今大会が)僕的には初めてですね。2つ勝てたこととあわせて、シンプルにうれしいですね」
しかも勝利した相手が、W杯優勝4度のドイツと同1度のスペイン。国際親善試合を含めて、過去にひとつも勝てていなかった世界の列強国を劇的な逆転勝ちの末に連破した。
その間にはコスタリカとの第2戦で一敗地にまみれている。ドイツに勝ったのだから――という楽観ムードが漂うなか、日本時間の日曜日、それもゴールデンタイムの午後7時にキックオフされた国民注目の一戦で敗れた。決勝点は吉田の判断ミスから献上していた。
自陣のゴール前で先に間合いに収めたはずのこぼれ球を、クリアではなくパスを繋ごうと判断。前方にいたボランチの守田英正(スポルティング)への浮き球のパスは落下地点がずれ、高さも中途半端なものになった。守田が失ったボールを、コスタリカの選手に決められてしまった。
「僕個人としても日本代表チームとしても、たくさんの批判が起きると理解しています。こういう大きくて注目される大会で批判というものは特につきものだし、それをマネージできなければここには立てないと思っている。何よりも、ここですべてを投げ出すにはまだ早すぎる。自信と勇気を持ってもう一度立ち上がり、スペインに挑まなきゃいけないと思っています」
コスタリカ戦後に吉田が語っていた悲壮な決意に、スペイン戦を翌日に控えた11月30日には別の思いも加わっていた。それは日本サッカー界の未来に対する危機感でもあった。
「このような大会をきっかけにして、いろいろな層のサッカーファンに楽しんでもらいたい。それは間違いなく未来につながると思っている。日本代表が注目されている状況に関しては、正直に言って非常にうれしい。ここ最近は地上波でなかなかサッカーが放送されず、サッカーを身近に感じられる機会が少なかった。だからこそ、ここでグループステージを突破できるかどうかが、日本サッカー界にとって非常に大きいし、将来を左右するものだと思っています」