フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)が、YouTubeに進出した。1,000以上のアーカイブの中から名作・話題作の10タイトルを選出し、ダイジェスト版を制作。新たに開設した『FUJITV GLOBAL CHANNEL』で世界配信されている。
この約10分尺の英語ナレーション版『THE NONFICTION 10mn』の語りを担当するのは、元アナウンサーで、現在はグローバル事業部で活躍する秋元優里氏。自身の経験に重ねて共感し、「私も感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました」という作品があったそうだ――。
■「最近使っていなかった脳を久しぶりに使いました」
収録を終えて、「英語でのナレーションはアナウンサー時代含めて初めての経験だったので、新しい発見と工夫があり、とても新鮮でした」という秋元氏。「私は英語を話すとき、日本語に比べて、若干声が低くなります。日本語で録るナレーションと音域が異なるため、英語の発音・読みをしっかりすることに加えて、抑揚や音の出し方に英語ナレーションならではの工夫が必要になりました。どのくらいの音がいいか、どうやったらより伝わるか、最近使っていなかった脳を久しぶりに使いました」と、その技術を引っ張り出した。
10タイトルの中で特に印象に残ったものとして挙げるのは、熱血和尚と傷ついた子どもたちの魂の触れ合いを11年にわたり記録した『おじさん、ありがとう~ショウとタクマと熱血和尚~』(2019年6月2日放送)。放送当時、リアルタイムで見ていたそうで、「“おじさん”の笑顔が強く印象に残る作品でした。様々な環境の子ども一人ひとりに真剣に向き合い、決してあきらめない姿勢に、多くの子供たちが救われたのだと改めて感じました」と、今回の収録でも心を打たれた。
さらに、自身の経験に重ねて、共感する点があったと語る。
「『おじさん、ありがとう』にあるのは、“人の温かさ”と“結局は自分が自分と向き合うしかない”ということ。生きていると、失敗したり、道を見失ったり、間違えたり、大小さまざまですが、皆それなりにあると思うんです。自分で起き上がれるときは自ら反省してまた歩き出せばいいのですが、事の大きさによっては、自力では再び地上に這(は)い上がれないほどボロボロになることもあります。でも結局のところ、自分が自分と向き合わない限り再生はできない。つらい状況を誰かが代わってくれるわけではないんですよね。
“おじさん”は子供たちに、時には叱りながら、決して見捨てない、あきらめない、そして時には、何も言わずに寄り添う。子供たちはその“温かさ”に支えられながら少しずつ落ち着いて冷静になり、そこで初めて自分を見つめ直す心を持てるようになるんじゃないかと思うんです。代わりに何かをやってあげるのではなく、子どもたちが自分を見つめ直せるような環境を与えようとする“おじさん”の姿に、苦しい時に支えてくれる家族や友人の姿が重なり、私も感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました」
■人に媚びず、迎合せず、現実をしっかり伝える究極の形
改めて、『ザ・ノンフィクション』に感じる魅力を聞くと、「キラキラした笑顔や人が憧れるような生活などのいわゆる“映える写真”でSNSがあふれるこの時代。スクロールしているだけで『あなたにおすすめの~』がどんどん提供され、何も考えずにただ好きなもの、耳ざわりのいいものだけを見ていることもできると思います。でも、それって自分がどんどん偏っていく気がして、どこか不安になりませんか?」と問いかける秋元氏。
「そんな時代にこそ、時に見ていてもどかしかったり、どこか曖昧だったり、決して映えない究極のリアルを伝えることが重要性が、ますます高まっていると感じます。見慣れている見心地のいいものを見ているだけでは、それ以上の広がりはないけれど、耳ざわりの良いことではないこと、もしかしたら見ないふりをしてしまいたくなるようなことをある種見せられることで、新しい気付きが生まれ、視野が広がり、バランスが取れるのではないかと思うのです」とした上で、「様々なメディアが乱立する昨今、テレビの存在意義を考えたとき、人に媚びず、迎合せず、現実をしっかり伝えていく、『ザ・ノンフィクション』はその究極の形なのではないかと思います」と強調する。
■『ザ・ノンフィクション』が発するメッセージは国境を越える
現在、海外事業を担当しているが、「海外のクライアントからは、ドキュメンタリー番組を購入したいというリクエストがよくあります。世界的に需要は常にあると感じます」と、セールスの鉱脈を予感。
それを踏まえ、「『ザ・ノンフィクション』が発するメッセージは国境を越えて普遍的なものが多いと思うので、海外の方が見ても伝わると思いますし、観光などで分からない日本の側面が詰まっていると思うので、見応えもあると思います。日本と海外のコンテンツビジネスを活発化させる上でも、『ザ・ノンフィクション』を通じてまだ伝わっていないかもしれない日本のリアルを発信していくことには、大きな意味があると感じます」と可能性を感じており、「ディテールを10分にギュッと濃縮し、また英語ナレーションを付けたことで、よりたくさんの人に見てもらえたらうれしいです」と期待を述べた。
配信10作品の地上波版の情報は、以下の通り。
・『片付けられない部屋~ゴミに埋もれた思い出~』(2022年7月24日放送)
…ゴミだらけの部屋で暮らす東大卒・みずきさんが物を捨てられないワケ
・『しっくりくる生き方』(2017年2月12日放送)
…借金450万円・人生どん底の地下アイドル・きららさんの人生
・『ジャンクビジネスな人々』(2005年5月22日放送)
…覆面パントマイム・路上の小銭を拾う「地見屋(じみや)」 日銭を稼ぎ生きぬく人々
・『禍の中でこの街は…~新宿2丁目のコンチママ~』(2020年10月11日、10月18日放送)
…新宿二丁目で最も長い歴史を持つショーパブ コロナ禍であえぐ人々の苦悩
・『泣き虫舞妓物語 2022~夢と希望と涙の行方~』(2022年7月10日、7月17日放送)
…京都の花街で憧れの舞妓になりたい、ひとり故郷を離れた少女の夢の行方
・『孤独死の向こう側~27歳の遺品整理人~』(2020月6月21日放送)
…「孤独死は誰にでも…」 現場をミニチュア再現する27歳・女性遺品整理人
・『犬と猫の向こう側』(2018年6月3日、6月10日放送)
…犬猫の「殺処分ゼロ」を目指して闘う人、多頭飼育崩壊の現場
・『私が踊り続けるわけ~53歳のストリッパー物語~』(2021年2月7日放送)
…国内最高齢のストリッパー・星愛美(53)が舞台に立ち続ける理由
・『女装と家族と終活と~キャンディさんの人生~』(2021年8月1日放送)
…69歳の女装愛好家の終活、やりたいことを貫くキャンディさんの人生
・『おじさん、ありがとう~ショウとタクマと熱血和尚~』(2019年6月2日放送)
…熱血和尚と傷ついた子どもたち、魂の触れ合い・11年間の記録