NHKの番組『映像の世紀バタフライエフェクト』(毎週月曜22:00~)が第70回菊池寛賞を受賞し、2日、都内のホテルで行われた贈呈式に、ナレーターの山根基世とプロデューサーの久保健一氏が出席した。

  • 山根基世

文藝春秋の創業者・菊池寛が日本文化の各方面に遺した功績を記念するための賞として1952年に創設した同賞。『映像の世紀バタフライエフェクト』は、世界各国から収集した貴重なアーカイブス映像で現代史をたどる人気シリーズに、1人のささやかな営みが連鎖し世界を動かしたという新たな視点を導入し、歴史の汲めども尽きぬ魅力を伝えているということで、受賞となった。

第1シリーズの27年前からナレーションを務めている山根は「ナレーターっていうのは、編集が上がった映像とか、書き終えた原稿とかを最初に目にする立場という意味では、第一視聴者でもあるんですね。その立場で申し上げますと、私は本当に楽しみなんです。ほぼ毎回『いやあ、面白いなあ。こういう視点があるのか』とか、『へぇ~こんな事実があったのか』っていう発見があって、感動したり驚いたりして、身内が言うのもなんですが、とても面白い、いい番組だなと思っているんです」と胸を張った。

続けて、「基本的にこの番組(『バタフライエフェクト』)は、1995年に『映像の世紀』として放送するために世界中から集めた映像が元になっているので、見慣れた映像もたくさんあるんです。でも、その映像がまた違う視点から編集され、その後発掘された新事実が加えられ、新しい命を得て、今という時代を生きている私たちの心に届く番組になっているように、私には思えるんです。しかも、番組1本1本を担当しているスタッフ全員の『もうちょっと誰もが幸せに生きられるようになってほしい』という願いや祈りみたいなものが感じられるんです」と語る。

そこに、“放送人の志”を感じるという山根。「私は15年前にNHKを定年退職した身ですけど、今の後輩たちの中に、放送人の志がちゃんと生きている、その思いはとても貴重なものに思います。1人1人の思いが積み重なって、“バタフライエフェクト”を起こしているのがこの番組であって、その思いを視聴者の皆さんにお伝えするのが、ナレーターとしての私の役割だと思うと、本当に責任が重くてとても緊張します。だから、収録の前の晩は『どうぞ伝えさせてください』と、お祈りしているような気持ちになります」と打ち明けながら、「でも考えてみれば、祈りたくなるような番組を担当させていただいていることが、今の私にとって本当に幸せなことだと思って感謝しています」と話した。

  • プロデューサーの久保健一氏

一方の久保氏は「身内を褒めるようで恐縮ですが、僕らは決して専門家の集団ではございません。担当のディレクターが『次はこのテーマでやろうか』と言ったら、もう2カ月くらいは顔を見せなくなり、どっかの部屋なり、図書館なり、自宅なりに大量の本と資料持って、受験生のように缶詰になって、フラフラとした状態で『こんな歴史の筋書きを見つけ出しました』という話をして、『じゃあ今度はそれに見合う映像があるんだろうか』と、日々世界中のアーカイブを探していくということで、本当にみんなが総力戦で作っている番組です」と紹介。

また、「世界中のアーカイブを集めるのに、今はデータでサンプルを送ってもらうことができるんですけど、(放送開始)当時はコピーもできず、プロデューサーが現地に行って、船便で運んできて、こっちでコピーするというようなことをしていたと聞いています」と苦労があったことを明かす。

その上で、「世界の歴史を映像で振り返ったところで、ただの教科書じゃないかという批判もあったと聞いてますけれど、映像で見るということにどれだけの意味があるのか。そのことを信じた志の太さみたいなものの結果が、30年経って膨大な財産としてそれを活用して、ウィークリーの番組を作れるとなっているので、30年前のスタッフ、そしてそれを受け継いできた人たちが、本当に素晴らしい仕事をしてくれたなと思っております」と感謝。

そして、番組作りの意識として、「僕らは見てくださる方々を舐めていたんじゃじゃないかと。もっと分かりやすく、分かりやすくみたいなことではなくて、もっと本物の、もっとガツンとした骨太なものを出してくれというだったのではないかと思いながら、日々作っています」と強調した。