日産自動車の純正カスタマイズカーにはどんな魅力があるのか? それを探るべく、「AUTECH」(オーテック)の公式オーナーイベント「オーテックオーナーズグループ(AOG)湘南里帰りミーティング」に潜入した。会場には気合の入ったカスタム車が大集結! 珍しいクルマも発見したのでお伝えしたい。
そもそもAUTECHとは
「そもそもAUTECHって何?」と思われる人もいるだろう。日産の最新車でカスタマイズカーを作るブランドのひとつだが、もともとは「オーテックジャパン」という会社で、日産車に手を加えた特殊な車両の開発生産のほか、市販車ベースのカスタマイズカー、福祉車両、商用特装車なども手掛けてきた。近年は「NISMO」ロードカーの開発も担当している。
オーテックジャパンは2022年4月1日、日産のモータースポーツ活動を統括する日産モータースポーツインターナショナル(NISMO)と統合し、日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)となった。現在は、かつてのオーテックジャパンがオーテック事業部、NISMOがNISMO事業部となり、それぞれの事業を継続している。
AOG湘南里帰りミーティングは、オーテックジャパン時代から現在までのクルマたちのオーナーに感謝を込めて開催されるイベントだ。前身となる2004年のイベントを含めると今回で15回目となる。3年ぶりの開催となる今年は例年よりも多くの参加希望があったそうだが、コロナ感染対策などの理由から台数を絞った結果、318台が集まったという。
会場には北は北海道、南は鹿児島からオーナーが愛車と共に駆けつけ、久しぶりの里帰りを楽しんだ。ちなみにイベントの名前に「里帰り」が入る理由は、オーテック事業部がある茅ヶ崎市と同じ湘南の大磯町を会場としているため。クルマが生まれた地に帰るという意味を込めている。
貴重な「マーチ」のカスタムモデルを発見!
会場で見つけた懐かしいオーテックジャパンのカスタマイズカーを一部ご紹介しよう。
1998年に登場した「スカイラインGT-Rオーテックバージョン40thアニバーサリー」は、日産の歴史的な名車「スカイライン」の誕生40周年を記念した特別な1台。当時のスカイラインGT-Rには存在しない4ドアだが、性能面でも2ドアのGT-Rに迫る内容となっており、ファンを驚かせた。
GT-Rがらみでは、1998年に発表となった「ステージア260RS」も目を引く存在だ。このクルマはステーションワゴン「ステージア」にGT-Rのパワートレインを移植した1台。いわば「GT-Rワゴン」と呼べる代物だ。新旧を含め、これほど高性能な国産ステーションワゴンは存在しないといっても過言ではない。
最後の1台は、オーテックジャパンが創業間もない1988年に製作した「シルビア コンバーチブル」だ。当時人気の2ドアクーペをオープンカーに仕立てたもので、電動ソフトトップを備えた贅沢な仕上がりだ。ターボエンジン搭載でAT車のみの展開だった。
ご覧の通り、「製造は難しいが個性的かつ魅力的なクルマ」を得意としてきたのがオーテックジャパンなのだ。その高い技術力は趣味性の強いクルマばかりではなく、幼稚園児専用車や保冷車などの特殊な商用車や、車イスのまま乗車可能な福祉車両などの開発製造にもいかされている。信頼性の高さが多くのファンをひきつける要因のひとつだ。
オーテックジャパンが高い技術を持ち、厚い信頼を得ている理由を考えるとき、同社の成り立ちは見過ごすことのできないファクターだ。初代社長は、若い人は知らないかもしれないが、日産の名車スカイラインの父と呼ばれた桜井眞一郎氏なのだ。彼はモノづくりに強いこだわりを持つ凄腕のエンジニアだった。
そんな桜井氏が率いた会社だけに、クルマや機械に情熱のある人物が集結した。さらに、桜井氏の後任となる2代目社長には同氏の愛弟子である伊藤修令氏が就任するなど、その哲学がしっかりと受け継がれていることも、顧客の強い信頼へとつながっているのだろう。
今も伝統が息づいていることを強く感じるのが、オーテックジャパン設立30周年を記念して2016年に発売となった「マーチボレロA30」(30台限定)だ。ハンドメイドの1.6Lエンジンに加え、レカロ製シートなど各部に専用装備が与えれたスペシャルモデルだった。まさに、マーチの皮をかぶったスポーツカーである。価格は小型車のマーチでありながら356.4万円もしたが、購入希望者が殺到し、抽選販売となったほどの人気を呼んだ。
高い技術力で生みだされたクルマを愛車にできること。それがオーテックの魅力だ。AUTECHやNISMOロードカーは標準車よりも高価だが、今でもファンがいるのはこうした魅力によるものだろう。
会場に集まったオーナーたちに話を聞くと、「走りの良さからNISMOロードカーを選んだ」とか、「歴代愛車はオーテックだけ」など、NMCへの強いリスペクトを感じる言葉をいくつも聞くことができた。彼らは日産車が好きなだけではなく、そのクルマをNMCやオーテックジャパンが手掛けたことに魅力を感じ、購入しているのだ。
こだわりのモノづくりに共感する人たちに支えられていることをNMCも自覚している。長年にわたりオーナーズイベントを続けているのもそのためだ。開会式で挨拶したNMCの片桐隆夫代表取締役社長は同イベントの継続を誓うとともに、今後も魅力的なクルマ作りに取り組んでいくことをファンの前で宣言していた。
オーテックの新たなファンも育っている。今回のイベントでは、全体の15%が初参加だったそうだ。新たなクルマの購買層として話題になることが多い「Z世代」の若者たちは、少々高価でも、自身が良いと判断したモノは購入する傾向が強いといわれる。量産車に生産ライン上で手を加えることで、高いコスパと付加価値を両立させたオーテックやNISMOロードカーの商品力を彼らに訴求できれば、今後もファンを増やしていくことができるのではないだろうか。新たなNMCの体制をいかした独自のクルマ作りにも期待したい。