マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、年末年始の相場について解説していただきます。
2022年も残すところ1カ月となりました。この時期、金融市場の参加者が減少するので、資金の流れや金融商品の取引量、いわゆる市場の流動性が低下すると言われています。流動性が低下すると、相場に方向感が出にくい一方で、小さな材料で相場変動が増幅されるケースも出てきます。
ホリデーシーズン
米国では11月下旬のサンクスギビングデー(感謝祭、今年は24日)から本格的なホリデーシーズンに突入します。欧州やその他の国でも12月に入ると、投資家の動きは鈍くなります。今年すでに十分な利益を上げた投資家、とりわけ金融機関のトレーダーたちは早く休暇に入ります。また、過去2年間は大なり小なり新型コロナの制約があったので、今年は帰省や旅行などで金融市場から離れる投資家は例年以上に多くなるかもしれません。
サッカーW杯カタール大会
そして、今年はサッカーW杯カタール大会が11月20日に開幕。12月3日からは決勝トーナメント(ノックアウトステージ)が始まります。サッカーに興味のない投資家は「だから何?」と思われるでしょうが、実は金融市場にも影響する可能性があります。これからの各試合は日本時間の24:00(午前0時)か28:00(午前4時)にキックオフされます。これはまさに、欧州(ロンドン)時間の終盤と米国(ニューヨーク)時間の全般に重なります。多くの投資家がサッカーの試合に集中しようとすれば、短期のポジション(持ち高)を落として、思わぬ損失を被らないようにするかもしれません。そうすれば、金融市場の流動性が一段と低下するかもしれません。
欧州中央銀行の分析
以上は仮説にすぎませんが、面白い実証分析を見つけました。2012年にECB(欧州中央銀行)の研究論文として発表された「ピットよりもピッチ: W杯の試合中、投資家は気もそぞろ(筆者訳)」というもの。「ピット」は取引ブースのことで、ピッチは言うまでもなくサッカー場のことです。
2010年のW杯南アメリカ大会では、多くの試合が株式市場の取引時間中に開催されました。ECBの研究者は15カ国の取引所の分刻みのデータを用いて、以下の3つの発見をしたそうです。
第1に、当該国の代表チームの試合中に株式の取引数は45%減少、取引量は55%減少した。
第2に、相場動向は試合内容にも左右された。ゴールが決まると、取引量はさらに5%減少した。
第3に、第2の発見は通常のランチタイムにもみられる現象に類似している。しかし、試合中は当該国の株価と世界の株価との相関性が20%超低下したが、ランチタイムにはそうしたかい離はみられなかった。
ここでの分析は株式市場についてではありますが、金融市場全般で同様の傾向があるとしても不思議ではないでしょう。
さて、カタール大会決勝トーナメントですが、1回戦8試合のうち4試合、準々決勝4試合のうち2試合、準決勝の2試合が平日開催です(決勝戦を含め残りは土日開催)。どの国の代表がトーナメントを勝ち進むかによっても金融市場への影響は異なるでしょうから、試合日程は要チェックでしょう(なお、本稿執筆中に、日本代表のトーナメント進出が決まりました!!)。
2019年のフラッシュ・クラッシュ
クリスマス前後にも、市場の流動性は相当に薄くなりそうです。そして、年明け早々の相場にも要注意かもしれません。2023年1月2日の月曜日から欧米市場では通常取引となります。一方、わが国の仕事始めはほとんどの公官庁・企業で1月4日。東京証券取引所の大発会も4日です。欧米市場で2日に起こったことに日本で対応できるのは早くて4日。その真空地帯を突かれたのが2019年1月3日のフラッシュ・クラッシュでした。日本時間の1月3日午前7時30分ごろにわずか5分程度の間に米ドル/円が4円近く急落。前日に米国アップル社が業績見通しを下方修正したことが一因ではないかとされていますが、詳しい原因は不明です。
年末年始、相場変動に用心するに越したことはないようです。