最新の一太郎やATOK Passportの新機能を披露するジャストシステムの取り組みは年末の風物詩。

今回の注力範囲として、「2022年2月にはオンラインとリアルが融合したハイブリッドな一太郎2022を提供したが、多様化する社会でも人と人は言葉やテキストでつながっている。重要な言葉をどのように正確かつ分かりやすく相手に伝えるかに焦点を当てて、今回『一太郎2023』を開発した。ATOK Passportは“わたし”の世界に深く入り込んだ自分だけのATOKを目指して、変換精度向上にインパクトを与える」(ジャストシステム ソリューションストラテジー事業部 企画マーケティンググループ 西良治氏)と、概要を説明した。

  • 一太郎2023、一太郎2023 プラチナ、ATOK for Windows Tech Ver.33の新機能をご紹介

校正機能をさらに強化した一太郎2023

まずは一太郎2023に加わった機能から紹介しよう。

文化審議会(文化庁)が新たに「公用文作成の考え方」を取りまとめ、読み手に合わせた分かりやすい文章を積極的に認める「解説・広報等」を約70年ぶりに改定したことを踏まえつつ、「日本語文章は『伝わる』目的に配慮しながら、時代とともに変化している。読み手に分かりやすく伝わる、誤解なく正確に伝わる文章を無意識で作成できることをコンセプトに機能強化を図った」(ジャストシステム ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループ 佐々木孝治氏)と述べた。

具体的には、文書校正機能に「解説・広報等」を追加し、「狙い」は「ねらい」、「若しくは」は「もしくは」と読み手に応じて分かりやすく単語をひらがなに変更する機能を搭載(蛇足だが、ジャストシステムの「Just Right!7 Pro」でも同様の変更を加えている)。

また、読み手の誤解を招く不確実な表現を指摘する校正機能も加わった。たとえば「高い確率」は数字による表現、「9時ごろに到着する」は日付や時刻による表現をうながす。校正機能に関しては、既存の誤字脱字の過剰な指摘抑制や外来語のまちがいを指摘する機能、住所表記や前株・後株の表記、表記ゆれの検出精度も強化している。

「あいまいさを排除して、読み手へ明確に伝わる文章の作成が可能。文章作成の目的は多岐にわたるが、情報を伝える目的は同じ。だが、伝えるために作成した文章も伝わらなければ価値がない。伝えるだけではなく、伝わることまでを意識するのが重要」(佐々木氏)と一連の機能を紹介した。

  • 一太郎2023の新たな校正機能

    一太郎2023の新たな校正機能

一太郎シリーズにて、規程や指針、会則や契約書の改訂を行う場合、改訂前後の違いを一目で把握することは意外と難しい。そこで一太郎2023では、相違点の比較表を自動作成する機能を搭載した。編集済みのファイルを開いた状態で変更前のファイルを選択すると、比較表を生成する。開発者にはおなじみのdiffコマンドに類する機能とも言える。

  • 同じく新機能の相違点比較表

文書のレイアウトに関する新機能も加わった。連番の文字列を整えるため、連番の数字が一桁の場合は全角、二桁の場合は半角にする機能を搭載。また、既存機能の「まとめて改行削除」には、約物(いわゆる記号)の後に続く複数の改行を維持する機能を加えている。

たとえば文末に疑問符や感嘆符、長音や三点リーダーがある場合、「一太郎2022」は改行を保持していなかったが、一太郎2023はこの点を改善した。さらにPDFファイル出力時のレイアウトミスを防ぐため、空白が多いページのチェックや単独ページの場合はページ番号を自動で無効にする機能も加えている。

  • 新機能の連番修正と「まとめて改行削除」の変更内容

一太郎2023はATOK Passportとの連携強化も特徴の一つ。既存の「辞書引きツールパレット」を強化し、新たなツールパレットとして「ATOK Passportパレット」を追加した。

「辞書引きツールパレット」は、「ATOK Passport [プレミアム]」契約者が参照可能なATOKクラウド辞典を、一太郎2023から参照する機能だ。調べたい単語にカーソルを移動させてから「Ctrl」キーを押すだけで、「広辞苑 第七版」「大辞林4.0」「ウィズダム英和辞典 第4版」「ウィズダム和英辞典 第3版」「三省堂 故事ことわざ・慣用句辞典 第二版」「敬語のお辞典」を参照できる。「ATOK Passportパレット」は後述する「ATOKアトカラ」と連携する。

  • 「ATOK Passport [プレミアム]」契約者向けの「辞書引きツールパレット」

ジャストシステムは、Webブラウザー上で行われるコミュニケーションにも着目したといい、Webブラウザー上で文章校正を行う「JUSTチェッカー」を紹介した。メールやチャット、Webページの入力フォームに文章を入力するときに、一太郎の文章校正エンジンを用いて誤字脱字や表現を即時チェックする機能である。Google ChromeとMicrosoft Edgeに対応し、それぞれ拡張機能として導入する仕組みだ。

とはいえ、送り手に応じて校正内容は異なる。そこで本機能は、自治会やPTA向けの「カジュアル」「論文・レポート」、メールやチャット向けの「ビジネス」、公用文作成向けの「公用文」「公用文(解説・広報)」、小説執筆向けの「小説」、Web記事作成向けの「Web記事」を用意し、さらに独自のカスタマイズを加えた8種類の校正モードを用意。各モードはユーザーが変更できるが、Webサイトの利用用途や特性に合わせて自動的に切り替える「オートスイッチ」も備え、文章作成に集中できる。

  • 「JUSTチェッカー」の概要

プラチナ版は「三省堂国語辞典 for ATOK」に注目

ここからは、上位版となる「一太郎2023 プラチナ」固有の機能を紹介しよう。まずは書体(フォント)だ。今回は、イワタ明朝体オールドに代表される16書体を搭載。ユニークなのは、一太郎専用書体として「GRUNGE(グランジ)書体」「ゆらぎ書体」の2書体を含んでいる点だ。前者は事前に汚れ加工を施したフォント、後者は活版印刷のかすれ文字を再現したフォント。フォント好きには気になるポイントだろう。

  • 一太郎2023 プレミア専用書体

個人的に関心深いのは、三省堂国語辞典 第八版を電子辞典・電子辞書化した「三省堂国語辞典 for ATOK」だ。過去を振り返ると、「一太郎2015 プレミアム/スーパープレミアム」が三省堂国語辞典 第七版の三省堂国語辞典 for ATOKを搭載していたのだが、今回、三省堂国語辞典 第八版の全面改訂に合わせて一太郎2023に含む電子辞典も更新した。

三省堂国語辞典 第八版は日常生活で使われる新語や新語義3500語を増補し、収録項目数は約8万4,000語を数える。辞書は出版社によってクセがあり、同じ単語を調べるだけでもその差は大きい。筆者はATOKに複数の電子辞典をインストールして日々の執筆に活用しているが、確認したところ三省堂国語辞典は未導入だった。ジャストシステムのオンラインショップで単独購入できるか現時点では不明だが、個人的には購入を考えている。

  • 三省堂国語辞典 第八版に更新した「三省堂国語辞典 for ATOK」

続いて周辺ツールだが、まず音声合成でテキストを読み上げる「詠太13」は、新語や俗語、略語、アルファベットなど日常的な語彙の拡充と、読み上げ精度を向上させた。図解やレイアウト図、フローチャートの作成に用いる「花子Personal」は、今回注力した標準案内用図記号を含めて2万3,800点のイラスト部品を搭載。

オフィススイートの「JUST Office 5 Personal」は、Microsoft Wordと互換性を持つ「JUST Note 5」、Microsoft Excelと互換性を持つ「JUST Calc 5」、Microsoft PowerPointと互換性を持つ「JUST Focus 5」を内包する。PDFファイルの作成や編集を行う「JUST PDF 5」にも複数の改良を加えている。

6年ぶりの変換エンジンを刷新したATOK

サブスクリプション契約を結んでいるATOKユーザーは、2023年2月の更新で6年ぶりに刷新した変換エンジンを体験できる。ジャストシステムは新たに、ユーザーの入力傾向に応じて変換結果を最適化する「ATOKパーソナライズコア」を新規開発。「ATOKハイパーハイブリッドエンジン」として「ATOK for Windows Tech Ver.33」に搭載している。

「(ATOKハイブリッドエンジンは)入力を繰り返すことで継続的に進化し続け、使い込むほど変換精度を向上する。ユーザーの入力傾向に沿って最適化し、ディープコア2とパーソナライズコアを融合させたものがATOKハイブリッドエンジン」(ジャストシステム ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループ 國貞暁氏)

  • 新たな変換エンジンとなる「ATOKハイパーハイブリッドエンジン」

  • ディープコア2に個人の入力傾向を反映させたハイブリッド変換エンジンとなる

筆者もATOKパーソナライズコアの概要はつかみ切れていないが、ジャストシステムの説明によれば、たとえば業務で「単価」を多用しながら、一時的に「担架」を変換すると、これまでは前回選択した「単価」に変換されていた。ここに入力傾向と入力中の文章を参照し、適切な候補を判断して提示する。つまり、ほかの確定単語に応じて変換候補を最適化する仕組みのようだ。

  • ATOKパーソナライズコアの具体例

  • 入力内容に応じて変換最適化は変化する

そして今回、ジャストシステムは「ATOK変換改善パートナー」の募集を開始した。ATOK Passport契約者を対象に、入力内容や誤変換結果、期待した結果をジャストシステムにフィードバックし、内容をATOK開発チームが分析。その結果をATOKに反映させるという取り組みだ。

少々煩雑に感じるが、ジャストシステムは入力・変革・確定データを収集しておらず、ユーザーの間で発生している誤変換を把握し切れていなかった。一見すると面白い取り組みだが、反映タイミングが気になるといえば気になる。ジャストシステムは「定期的にユーザーへ変換改善として還元する」(國貞氏)と説明しているが、2023年2月のアップデート時はフィードバック内容を反映させる以上の情報は提示しなかった。ひとまず2023年いっぱいくらいは、評価を判断するポイントとなる。

  • ユーザーのフィードバックを受け付ける「ATOK変換改善パートナー」

文章入力時にATOKからの提案を後から参照するATOKアトカラも新たに加わる。見逃した訂正学習の指摘やATOKパーソナライズドコアからの最適化報告、ATOKのアップデート通知をパネルから確認する機能だ。筆が乗っている場面で各種の提案は煩雑に感じるが、文章を書き終えた後に確認できるのは便利そうに感じる。

  • 後から各種通知を確認できる「ATOKアトカラ」

一部のユーザーにとって最大の改善点と言えるのは、「ATOKパレット」の復活とダークモード対応だ。WindowsのTSF(Text Services Framework)に対応し、テキストサービス有効時でも「ATOKでは入力できない」場面を改善した。また、下図にもあるとおり、Windows 11の設定に応じて「白」「黒」に切り替わる。右から数えて3つめのアイコンはATOKアトカラの新着通知を表示する箇所だ。

  • 復活したATOKパレット

提供日は2023年2月10日

一太郎2023、および一太郎2023 プラチナは、通常版のみ店頭販売。特別優待版、バージョンアップ版、アカデミック版はジャストシステムのオンラインショップから購入できる。

ATOK Passport [プレミアム]の年間プラン契約者は、一太郎2023を4,950円、一太郎2023 プラチナを2万6,950円で購入可能だ。また、月間プランでも直近12カ月の利用者も対象に含まれる。

  • 一太郎2023/一太郎2023 プラチナの価格

  • 一太郎2023の機能一覧表

以上が、新しくなる一太郎2023、および一太郎2023 プラチナ、ATOK for Windows Tech Ver.33の概要だが、長年のATOKユーザーとしては2023年2月10日の更新が楽しみだ。現在は一太郎2022を使っているユーザーも、一太郎2023に移行すれば、校正機能の強化によってより良い文章を作成できるだろう。