お~いお茶杯第64期王位戦(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は、予選の谷川浩司十七世名人対菅井竜也八段戦が11月30日(水)に関西将棋会館にて行われました。対局の結果、101手で菅井八段が勝利して挑戦者決定リーグ進出まであと1勝としました。

菅井八段得意の先手中飛車

振り駒で先手となった菅井八段は得意の先手中飛車に構えます。後手となった谷川十七世名人は角道を開けない超速(△6四銀型)を採用し、6筋で両者の銀が向かい合う銀対抗の構図が完成したのを見てから角道を開けました。ここ数年で定跡化が進んだ進行ながら、菅井八段としては後手に1筋の位を取らせて美濃囲いの完成を急いでいるのが工夫です。

谷川十七世名人が角道を開けたのを見た菅井八段は、このタイミングで5筋の歩の交換に出ました。次に▲3四飛と歩をかすめ取る手を見せることで、後手の対応を限定している意味があります。これを見た谷川十七世名人も数手後に飛車を5筋に転換し、飛車交換が行われる激しい将棋となりました。相手の言いなりにはなるまいというおたがいの主張がぶつかり合い、局面は風雲急を告げています。

ジリジリした中盤戦

両者とも手にした飛車を敵陣に打ち込んで本格的な中盤戦が開始しました。とはいえ飛車以外には敵陣に侵入している駒がいないため、飛車交換の激しい展開から一転して敵陣の駒を取り合う地味な展開になっています。2枚の香を入手した谷川十七世名人が立て続けにこれを5筋に打って敵陣突破を狙えば、菅井八段も自陣の駒を細かく動かして丁寧に相手の狙いを防いで崩れません。

数手のやりとりののち、菅井八段は谷川十七世名人が5筋に打った香のうち1枚を手に入れました。そしてすぐにこの香を後手の端角の前に打って反撃を開始します。菅井八段としては谷川十七世名人が序盤に取った1筋の位をうまく逆用した格好で、ここで菅井八段の優勢が明確になりました。

菅井八段が抜け出す

優位に立った菅井八段は、手にした桂香を盤上右方の1~2筋に放って谷川十七世名人の囲いを搦め手から攻め立てていきます。こうなるとせっかく谷川玉を守っていた金銀も守りの役に立ちません。金底の歩を打って自玉を安全にしたのち、一手勝ちを読み切った菅井八段は竜を見捨てて最後の寄せに出ます。終局時刻は18時21分、菅井八段の銀捨ての妙手で玉が即詰みの手順に入ったのを見て谷川十七世名人が投了を告げました。

勝った菅井八段はこれで予選トーナメントの決勝に進出。次局で挑戦者決定リーグ入りをかけて服部慎一郎五段と戦います。

水留啓(将棋情報局)

  • 谷川十七世名人のお株を奪う見事な寄せを披露した菅井八段

    谷川十七世名人のお株を奪う見事な寄せを披露した菅井八段