テレビプロデューサーの佐久間宣行氏が、11月30日にオンラインで配信されたビデオリサーチ主催の「VR FORUM 2022」で、電通グループの澤本嘉光エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターと「コンテンツの力を最大限に発揮する」をテーマに対談し、近年起こっているテレビ番組の変化などについて語った。

  • 佐久間宣行氏

佐久間氏と澤本氏は、現在放送中のドラマ『エルピス ―希望、あるいは災い―』プロデューサー・佐野亜裕美氏(カンテレ)も含めた3人のグループLINEで、面白いと思った作品を紹介し合うという仲。昨年3月にテレビ東京を退社した佐久間氏は「Netflix、ラジオ、YouTubeもやって働けば働くほど、メディア間の視聴者の分断が激しいなっていう感じがしてます」と切り出した。

そして、現在のテレビの深夜番組のあり方について、「24時を過ぎると明確にスポンサーが付かなくなるので、何で残っていくかとなると、上(の時間帯)に上がるか、お金を稼ぐかになるんです。『あちこちオードリー』(テレビ東京)はそれをすごく感じて、半年分の制作費を回収しようというつもりでオンラインライブを始めました」と明かす。

このオンラインライブは、昨年84,000枚、今年も70,000枚以上のチケットを売り上げ、テレビ番組発の配信ライブとしては断トツの実績となっているが、その背景に前述の“メディア間の分断”があるという。

「昔だったら、テレビとのシナジーを考えてイベントをやったらそれをOAして、宣伝のためにもう1回流してパッケージを売るとか、翌年やるときに前年のものをOAするということをやっていたと思うんですけど、それが逆効果の時代だなと感じるんです。だから、『あちこちオードリー』のオンラインライブは、一切OAしないことを公言しました。正直、テレビ東京の人には『OAしたほうがいいんじゃないか』と言われたんですけど、ここではOAしない代わりに強いワードを言ってもらう。そしたら、2年目に爆発的に売れたんですよ。それがそのジャンルだけに特化することだなと思うんですよね。元々感じていたことが自分の中で立証された感じがあったので、この肌感をNetflixに持っていこうと思って『トークサバイバー!』をやったというのが、この1年でした」

  • 澤本嘉光氏(左)と佐久間宣行氏

また佐久間氏は、番組のCMタイミングなどの編集について、「引っ張ったり、隠したりっていうことは、もう2~3年前から一切やめて、アバン(オープニング映像)でも、何かを隠して引っ張るみたいなことはやめました。それは、視聴者との信頼のダメージが大きいなと。1回の毎分の(視聴率)の上がりよりも、視聴者との信頼関係の積み重ねが番組には必要だというふうになってきたと思っていて、そこを裏切らないように、見どころはちゃんと見せながら、気持ちいいところでCMを入れるようになりました」と紹介。

さらに、「最近ではCMを入れる場所は、ここまでヘビーだったから、一旦CMを見ながらみんな自分の気持ちを整理したいんじゃないかというところで入れるっていう感じになってきました」といい、具体的に特番『じゃないとオードリー』の例を挙げ、「感動的なシーンのときに、普通だったらその前に涙が流れるカットとか入れてCMに行くんですけど、一気に見せて、その後のエピローグ前にCMを入れたんです。そこでみんなSNSでつぶやいたり感想戦をするんじゃないかと思ったら、案の定SNSが爆発したんですよ。それは最近の1つ学びでした」と明かした。

それに加え、最近のドラマでSNSの爆発を狙ったサプライズ出演が増えていることに触れ、「SNSで実況されることを考えて、しかも見逃した人たちが配信を見てくれると考えてのことだと思うんです。結果的に先バラししてないから視聴者も楽しめるし、そういう視聴者の信頼の積み重ねが、結果的にドラマ自体のコンテンツを強化するということになってきてるんじゃないかなと思います」と分析した。

ここで澤本氏が、“信頼”がキーワードになっていることに言及。佐久間氏も同調した上で、「僕も昔は番組を編集してるときに、『そこあざとく行けよ』と言ってたかもしれないけど、『信頼を損なうなよ』と、どの番組でも何回も言うようになりました」と、改めて実感する。

澤本氏は、この“信頼”から、テレビの作り手も“記名性”が重要になってくるのではないかと指摘。佐久間氏は「それは徐々に増えてきてると思いますね。これからテレビのクリエイターは流動性が出てくると思うんです。会社との契約をそれぞれしてる人もいるし、聞いてるところでも、結構なクリエイターがフリーになったりするというのが行われていくけど、局とも良好な関係が続いていくと思うので、なおのこと名前が出てくるタイプのディレクター、プロデューサーが増えるんじゃないかなと思います。遅すぎたくらいだと思いますけどね」と見解を述べた。

この他にも、テレビでヒットコンテンツが生まれたときに、業界全体でより発信・流通させていくシステムが必要ではないかという話題に。澤本氏が「ギャラクシー賞とかは、賞をもらったことが一般の方にも届いて、その価値が分かって、みんなが見るという形になったほうがいいと思うんです」と話すと、佐久間氏は「ギャラクシー賞を獲った番組をゴールデンでもう1回流す日があったり、映画祭のようになっていくとか、TVerで全部が一括で見られるとか、そういうことで埋もれるコンテンツをできるだけなくすということは、クリエイターとは別にメディアがやっていくべきかなと思います」と主張した。

「VR FORUM 2022」は、きょう1日まで開催される。