世界一周経験者をはじめ、コアな旅好きが「良かった!」と口をそろえるポルトガル。日本人にとってメジャーな旅先とは言い難いものの、「哀愁のポルトガル」と称されるこの国には、行った人にしかわからない魅力がぎゅっと詰まっています。
かく言う筆者も、60カ国以上旅する中で、すっかりポルトガルに魅せられてしまったひとり。ユーラシア大陸最西端、日本史との関わりも深い「遥かなる友人」の魅力に迫りましょう。
哀愁の国、ポルトガルへのいざない
ポルトガルを語る際、しばしば枕詞として使われるのが「哀愁」という言葉。行ったことがなくても「哀愁のポルトガル」という形容に、どことなくロマンを感じる人も多いことでしょう。
実際にポルトガルを訪れてみると、「哀愁」というワードがいかにポルトガルらしさを的確に言い表しているのかがわかります。
リスボンやポルトをはじめとする坂の多い町並み、剥がれかかったアズレージョ(装飾タイル)の外壁、路地にはためく洗濯物、民族歌謡ファド……これらひとつひとつに深い情緒を感じ、心打たれ、「確かに、この国には『哀愁』としか形容できないものが詰まっている」と感嘆するのです。
色彩豊かで美しい反面、整いすぎていない、陽光たっぷりで明るいけど、どこか陰がある。ポルトガルの街並みが持つそんな二面性は、住んでいる人々の息づかいが感じられるからこそ、旅人の心をとらえて離さないのでしょう。
はじめて見るポルトガルの風景は新鮮な驚きの連続であると同時に、不思議な居心地の良さと安心感をもたらしてくれます。
かつて、南蛮貿易や天正遣欧少年使節の派遣などを通して、深い交流のあった日本とポルトガル。西の果てと東の果て、お互い「端っこ」にある国だからこそ、通じ合える何かがあるのかもしれません。
大航海時代のロマンを感じる首都・リスボン
ポルトガルの首都リスボンは、今も大航海時代の栄華を色濃く残す大都市。「7つの丘の街」の異名をとるほど起伏の激しいリスボンの街は、エリアごとにさまざまな表情を見せてくれます。
リスボンきっての観光スポットが、ベレン地区に建つ世界遺産・ジェロニモス修道院。7つの海を制したポルトガルの黄金時代を象徴する建造物で、ロープやサンゴなど、大航海時代を象徴するモチーフが印象的なマヌエル様式の傑作です。
ヨーロッパに修道院は数あれど、立体感と躍動感に富んだジェロニモス修道院の装飾の美しさは格別。ポルトガルの明るい陽光もあいまって、ここに身を置くだけで、身体の奥から喜びが湧きあがってくるような感覚に包まれます。
ジェロニモス修道院があるベレン地区は、「ベレンの塔」「発見のモニュメント」など、大航海時代関連の遺産が目白押し。
観光の前後には、ジェロニモス修道院近くにあるナタ(エッグタルト)の名店「パステイス・デ・ベレン」に立ち寄るのもお忘れなく。
ベレン地区とは打って変わって、リスボン中心部に広がる旧市街は起伏に富んだ情緒豊かな街並みが魅力。とりわけ、大聖堂周辺に広がるアルファマ地区はリスボンで最も古い街並みが残るエリアで、ただ歩いているだけでフォトジェニックな風景の数々に出会えます。
時間に余裕があれば、市内中心部を横断する市電28番や、ビッカのケーブルカーに乗ってみるのもおすすめ。黄色い車体の市電と急坂、そしてテージョ川のコラボレーションが旅情を盛り上げてくれるでしょう。
物語の舞台にぴったりの世界遺産の街・ポルト
ドウロ川河口の丘陵に築かれた、ポルトガル第2の都市がポルト。有名な「ポートワイン」の産地であり、「ポルトガル」という国名の語源になった都市でもあります。
オレンジ屋根の建物が密集する旧市街はまるごと世界遺産。ドウロ川に沿ってカラフルな建物が段々畑のように連なる街並みは、『魔女の宅急便』のモデルになったとも噂されています。
リスボン同様、坂の多いポルトの旧市街は、さながら屋根のない博物館。街を歩けば、要塞のような重厚感たっぷりの大聖堂、外壁をアズレージョで彩った教会、誇らしげな宮殿など、数々の歴史的建造物に遭遇します。
近年ポルトで一大観光スポットとなっているのが、「世界で最も美しい書店」のひとつに数えられる「レロ書店(リヴラリア・レロ・イ・イルマオン)」。
びっしりと彫刻が施された天井や「天国への階段」と呼ばれる優美ならせん階段……本屋さんとは思えない幻想的な空間は、『ハリー・ポッター』の世界を彷彿とさせます。
絵はがきのようなポルトの街並みを見たいなら、ドン・ルイス1世橋を渡ってドウロ川の対岸へと渡ってみましょう。歴史が息づく重層的な街並みと、ドウロ川を行き交うボートを眺めているだけで何時間でも過ごせそうな気がします。
名産のポートワインを片手に、「何もしない贅沢」を楽しんでみませんか。
情緒あふれる港町・ナザレ
大西洋を臨むポルトガルは、心を満たすビーチリゾートも充実しています。
リスボンとポルトの中間に位置するナザレは、コスタ・デ・プラタ(銀の海岸)に面したポルトガル屈指のリゾート地。「リゾート地」といっても決して敷居が高いわけではなく、古くからの漁師町らしい素朴さを随所に残しているのがナザレの魅力です。
まぶしいほどの白壁とオレンジ屋根の家々が連なるナザレの路地裏は、どこか懐かしい雰囲気。リゾート地でも、やはり「哀愁」という言葉を意識せずにはいられません。
ナザレ最大のアトラクションともいえるのが、崖の上に築かれたシティオ地区の展望台からの眺め。美しい弧を描くビーチとオレンジ屋根のコントラストは、いつまでも忘れられない、心に残る風景です。
シティオ地区には、聖母マリアの奇跡に感謝して建てられたというメモリア礼拝堂や、ナザレの守護聖人を祀るノッサ・セニョーラ・ダ・ナザレ教会もあるので、のんびりと散策を楽しんでみましょう。
水の都アヴェイロとコスタ・ノヴァ
ポルトガルの「水の都」として知られるのが、ポルトの南に位置するアヴェイロ。「ポルトガルのヴェネツィア」とも呼ばれる運河の街で、「モリセイロ」と呼ばれるボートが行き交う風景はどこを切り取っても絵になります。
実際にモリセイロに乗って、船頭さんの説明を聞くと、アヴェイロの歴史や文化がぐっと身近に感じられます。運河クルーズに参加して、4つの運河をめぐってみましょう。
個性豊かな建物が点在するアヴェイロは、建築好きにもたまらない街。真っ白な外壁にブルーのアズレージョが目にも鮮やかな旧駅舎や、運河沿いに並ぶメルヘンチックなアールヌーヴォー建築は、見ていて飽きることがありません。
アヴェイロにやってきたら、近郊のコスタ・ノヴァにも足を運んでみてはいかがでしょうか。鮮烈なストライプ模様の建物が連なるコスタ・ノヴァは、近年SNSで人気が急上昇したビーチリゾート。
「パジャマタウン」とも呼ばれる独特の景観は、おとぎの世界に迷い込んだような気持ちにさせてくれます。
日本人にとって「メジャーな旅先」とは言い難いポルトガル。しかし、だからこそポルトガルの旅は「こんな風景があったんだ!」という驚きと感動の連続です。
美しくもどこか切ない景色の数々と温かい人々。そんな魅力にふれたとき、ポルトガルで過ごす時間はどうしようもなく愛おしいものになることでしょう。