日本HPの「HP Elite Dragonfly G3」(以下、Dragonfly G3)は、13.5型ディスプレイを搭載するクラムシェルスタイルのノートPCだ。前モデルはフリップスタイルの2-in-1 PCだったが、最新モデルではオーソドックスなクラムシェルスタイルに戻ったことになる。

  • 従来モデルの2-in-1からクラムシェルスタイルに戻った「HP Elite Dragonfly G3」

  • カラーリングにはオフィス利用でも違和感がないスレートブルーを採用した

  • 背面中央と天板に設けた製品刻印とロゴがデザインのアクセントとなっている

3:2ディスプレイ搭載で縦に広い!

携帯利用を重視するモバイルノートPCのディスプレイサイズは13.3型が主流だったが、最近では画面の横縦比を3:2にしたモデルが続けて登場している。Dragonfly G3も3:2のディスプレイを採用しており、解像度は1,920×1,280ドット。Dragonfly G2のディスプレイが13.3型で1920×1080ドットであったのと比べると、縦方向に200ドット広がったことになる。

  • 横縦比3:2と従来主流の16:9や16:10と比べて縦方向に情報量を増やしたディスプレイを載せている

ただし、これは対角サイズの話であってディスプレイの横方向サイズと縦方向サイズで比べてみると、縦方向はさすがに長くなっているが(Dragonfly G2の16.56㎝に対してDragonfly G3は19.02㎝)、横方向は約1cm短くなっている(Dragonfly G2の29.44㎝に対してDragonfly G3は28.63㎝)。

横方向の解像度は共に1920ドットなので、同じフォントの表示サイズで比べるとDragonfly G3では文字が細かくなる。ただ、実際にディスプレイを見てみると表示が明瞭なのでスペックで予想していたほどに見づらくない。フォントはくっきりと表示され、色彩も鮮やかなので、表示されている情報の視認は比較的容易だ。

また、色彩表示機能として独自の「HP Adaptive Color」をDragonfly G3から導入している点もポイントだ。これは周りの照明の状態にかかわらずディスプレイに表示する色を再現する機能で、本体に搭載したセンサーで照明の状態を検知して自動的に画面を微調整するという。

また、周囲からののぞき見を防ぐ「HP Sure View Reflect」が従来モデルと同様に利用できる。この機能を有効にするとディスプレイの左右視野角が狭まり、電車やカフェ、コワーキングスペースといったオフィスでの利用において画面表示の盗み見リスクを低減する。

  • ディスプレイ上のベゼルには5MP画素のWebカメラと顔認証用IRカメラを組み込んでいる

なお、今回用いた評価機材のディスプレイはタッチパネルを組み込んだ光沢タイプで、最大輝度は1,000cd/平方メートル、さらに「HP Sure View Reflect」対応だった。CTOカスタマイズでは非光沢パネル、最大輝度400cd平方メートル、HP Sure View Reflect非対応の構成も選択できる(発表時資料には、最大解像度3,200×2,400ドットモデルも記載されていたが、現在Webで確認できる構成には含まれていない)。

本体サイズは幅297.4×奥行き220.4×厚さ16.4mm。ディスプレイのアスペクト比が変化したのに伴い、奥行き方向に20mm近く増えて幅方向は7mm近く減っている。フットプリントは若干大きくなったものの、重さは最軽量構成で0.99kgとDragonfly G2と同等だ。(ただし、現在Webで確認できる最軽量構成は1.0kg)。

  • 評価機材の重さは実測で1107gだった

堅牢性は十分。キーボードとタッチパッドがとても良い

軽量な薄型ノートPCということで堅牢性が気になるところだが、Dragonfly G3はMIL-STD-810Hに準拠した工場出荷時テストをクリアしている。HPが設定したテスト条件はWebで紹介されているが、その中には高さ122cmから5cmの合板の上に合計26方向の落下(非稼働時)や6方向から3回、計18回の衝撃(OS稼働時)、6時間の粉塵環境と90分砂塵環境の動作(OS稼働時)などが挙げられている。

本体の幅がDragonfly G2から狭くなったことで、キーボードの使い勝手が気になるところ。キーピッチは公称値で18.7mm、キートップサイズは実測で16.5mm、キーストロークは公称値で1.3mmを確保している。カタログスペックだけを見るとちょっと狭くて浅いと思うかもしれない。

しかし、実際に使ってみると意外と快適だ。キーボードを押す力をボディで確実に受け止めてくれるので、タイプした感触を明確に認識できる。キーボードを押し下げるときには静かにスッと押し込める。

  • キーボードは無理な運指を求めるレイアウトもなく快適にタイプできる。ただし、電源ボタンがDeleteキーの左隣にあることを気にするユーザーもいるかもしれない

  • 実際にタイプをするとカタログスペックにある1.3mm以上にキーストロークを深く感じる。それほどキータイプは快適だ

また、ポインティングデバイスのタッチパッドも使い勝手がとても良かったことも要チェックだ。サイズは120×80mmとかなり大きく、クリックのためにパッドを押し下げたときの感触はとても明瞭。個人的主観ではあるが、専用のクリックボタンを持たないタッチバッドはクリック操作に認識があいまいなモデルが多く、そのため操作を大変苦手としていた一方、Dragonfly G3のタッチパッドは「いやあ、これならマウスを持ち歩かなくてもいいかな」と思わせるほどに快適だった。

軽量薄型化が進む最近のモバイルノートPCでは本体に搭載するインタフェースの数と種類を絞る傾向にある。しかし、Dragonfly G3では最新規格でThunderbolt4にも対応するUSB4 Type-Cを2基(左右それぞれに1基ずつ)搭載しただけでなく、映像出力用のHDMI 2.0にUSB 3.2 Gen 1 Type-Aまで備えている。

  • 右側面にはHDMI出力にnanoSIMスロット、USB4 Type-Cを備える

  • 左側面にはUSB4 Type-CにUSB 3.2 Gen1 Type-A、ヘッドホンとマイクのコンボジャックを搭載する

無線接続では6GHz帯域のIEEE 802.11 axもカバーするWi-Fi 6EとBluetooth 5.2の他に、評価機材ではnanoSIMスロットを備えて5Gデータ通信にも対応していた。なお、SIMについてはスロットに差したSIMカードに加えてeSIMも利用できるデュアルSIM構成に対応する。

  • 正面

  • 背面

  • 180度開く

UシリーズCore搭載でも前世代モデルを凌ぐ高性能。バッテリーも長持ち

Core i7-1255Uは、処理能力優先のPerformance-cores(P-core)を2基、電力効率を重視したEfficient-cores(E-core)を8基組み込んでいる。P-coreはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては12スレッドを処理できる。

  • Core i7-1255Uの仕様情報をCPU-Zで確認。Dragonfly G3では、CPUに第12世代Coreプロセッサを採用した。載せているのはTDP 15Wと省電力を重視したSKU

動作クロックはベースクロックでP-coreが1.7GHz、E-Coreが1.2GHz。ターボ・ブースト利用時の最大周波数はP-coreで4.7GHz、E-Coreで3.5GHzまで上昇する。Intel Smart Cache容量は合計で12MB。TDPはベースで15W、最大で55Wとなる。グラフィックスにはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用する。

  • Iris Xe Graphicsの仕様情報をGPU-Zで確認

その他、処理能力に影響するシステム構成を確認すると、システムメモリは、LPDDR5-4800 32GBをオンボード搭載し、ユーザーによる増設はできない。ストレージは容量512GBのSSDで、試用機にはSK hynix製のBC711 HFM512GD3JX013Nを搭載していた。接続バスはNVM Express 1.3(PCI Express 3.0 x4)。

製品名 HP Elite Dragonfly G3
CPU Core i7-1255U (10コア12スレッド)
メモリ 32GB(LPDDR5-4800)
ストレージ SSD 512GB(PCIe 3.0 x4 NVMe、HFM512GD3JX013N SK hynix)
光学ドライブ なし
グラフィックス Iris Xe Graphics(CPU統合)
ディスプレイ 13.5型(1,920×1,280ドット)光沢
ネットワーク IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.2
サイズ / 重量 W297.4×D220.4×H16.4mm / 約1.15kg
OS Windows 11 Pro 64bit

Core i7-1255Uを搭載したDragonfly G3の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64を実施した。

なお、比較対象としてCPUにCore i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。

ベンチマークテスト Dragonfly G3 比較対象ノートPC(Core i7-1165G7)
PCMark 10 5082 4615
PCMark 10 Essential 10691 9645
PCMark 10 Productivity 6061 6081
PCMark 10 Digital Content Creation 5498 4549
CINEBENCH R23 CPU 7420 4119
CINEBENCH R23 CPU(single) 1727 1380
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read 3557.93 3249.66
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write 2949.86 2679.52
3DMark Time Spy 1789 1149

同じIntel Core i7シリーズとはいえ、本機が搭載しているのは省電力を重視したTDP 15WのUシリーズ。それなのに比較対象のTDP 28Wモデルよりも、今回検証したDragonfly G3のほうが良好なスコアを出している。特に、マルチスレッド処理能力を測定するCINEBENCH R23とゲーミンググラフィックス描画処理能力を測定する3DMark Time Spyでその差は顕著だった。

なお、Dragonfly G3の公式スペックにおけるバッテリー容量は45Wh、PCMark 10のSystem InformationのBattery designed capacityでは45,617mAhとなっている。最近の1kg級モバイルノートPCでは5,000mAh程度が一般的なので、それらと比べるとバッテリー容量は標準よりはやや少なめといえる。

しかし、バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは11時間13分(Performance 5322)とかなり長い。軽量化のためにバッテリー容量をわずかながら控えめにしているにもかかわらず、バッテリーテストの結果は競合モデルと比べて長い部類に入る。重量対バッテリー駆動時間としてみた場合、Dragonfly G3は良好なモデルといえるだろう。

軽量でコンパクトなモバイルノートPCで常に気になる、ボディ表面の温度とクーラーファンが発する騒音も測定してみた。電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。

表面温度(Fキー) 39.9度
表面温度(Jキー) 35.8度
表面温度(パームレスト左側) 26.8度
表面温度(パームレスト右側) 25.7度
表面温度(底面) 43.7度
発生音 38.7dBA(暗騒音37.0dBA)

Fキートップで40度近くまで温度が上がったものの他のエリアは総じて低い。パームレストは30度にも達せず、底面も低温やけどのリスクがあるとされている44度を下回っている(日本創傷外科学会の「キズ・キズあと ガイドブック」より)。また、発生音についても40dBAを下回っている。実際、クーラーユニットから発する音はファンの回転数が早くなったことは認識できるものの「フーン」と穏やかな風切り音で、これなら静かな図書館やカフェで使っていても隣席に迷惑をかけることはないだろう。

  • 底面後端にはゴム足を備え、底面後部寄りにある給気スリットの効率を高めるようにしている

  • ACアダプタのサイズは88×53.5×21mmで重さは220g

HP Wolf Security for Business搭載でセキュリティの新基準をサポート

2-in-1 PCからオーソドックスなクラムシェルスタイルとなったDragonfly G3だが、そのおかげで“道具”として格段に使いやすくなった。画面サイズと見た目のコンパクトさに比して、前モデルでは「なんか重いよね」と思っていたユーザーもDragonfly G3ならば納得して選べるのではないだろうか。

さらに1つ付け加えるならば、ビジネス利用を重視する最近のモバイルノートPCで訴求することが増えてきた「NIST SP-800シリーズ」でのアドバンテージも挙げておきたい。NIST SP-800シリーズは 、NIST(米国標準技術研究所)でサイバーセキュリティ分野を担当するITL(情報技術研究所)が策定した情報セキュリティ管理に関するガイドラインドキュメント集で、日本でも防衛省の調達製品に対して準拠を求めるなどセキュリティ体制における新しい基準となりつつある。

HPではNIST SP-800シリーズへの対応に早期から取り組んでいており、その成果の1つとしとして「HP Wolf Security for Business」がDragonfly G3にも導入されている。OSの防御だけでなくファームウェアやハードウェア、PC外部のインタフェースを含めて多層的に保護できるほか、自動的に自己復旧するレジリエンス機能など、NIST SP-800シリーズでクライアントデバイスに求められる「NIST SP-800 193」の要求仕様を満たしていることは、モバイルノートPCのビジネス使用で大きな選択理由となるだろう。

  • HP Wolf Security for Businessが実現する多層防御