政府は国民年金の納付期間を5年延長するプランの検討を始めました。現在は20歳以上60歳未満の40年間保険料を納め、原則65歳から年金が支給開始されますが、納付期間が5年延びて45年間になるとどのような影響があるのか、自営業者、会社員、専業主婦、パートタイマーなど、それぞれの立場ごとに見ていきたいと思います。さらに、5年延長になった時の対策もお伝えします。

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■納付期間5年延長を検討

政府は国民年金(基礎年金)の保険料の納付期間を、現在の40年間から5年延長し、45年間とする改正案を検討しています。2024年に結論を出して、2025年の法改正を目指しています。

この背景には深刻な少子高齢化があります。日本の年金制度は、その時に働いている現役世代が負担する保険料を財源にして、高齢者に年金を給付する賦課方式です。そのため、現役世代が減り、高齢者が増えると年金の給付水準が維持できなくなり、保険料の負担を増やすか、年金の給付水準を下げるか、対処せざるを得なくなります。

今回の納付期間5年延長は保険料の負担を増やすものですが、この改正が実施されたとしても、年金の給付水準が下がっていくことは避けられないでしょう。

納付期間が5年延長されると、新たに60歳から65歳の誕生日の前月まで保険料を支払うことになるので、2022年度の国民年金保険料で試算すると、「月額1万6590円×5年間=99万5400円」、約100万円負担が増えることになります。

もちろん、納付期間が長くなれば、その分が年金に反映されて年金額も増えると考えられます。単純計算すると、納付1月で増える年金額は「77万7800円(2022年度の満額)÷480月≒1620円」なので、5年で9万7200円増えることになり、満額の年金額は87万5000円になります。

およそ10年で、追加で負担した分が取り戻せる計算になります。ただし、これは現時点での試算であって、実際はマクロ経済スライドの給付水準の調整によって、年金の給付水準は徐々に低下すると思われます。

■働き方による影響

国民年金は20歳以上60歳未満のすべての人が加入します。自営業者やフリーランスなどは国民年金第1号被保険者となり、基礎年金のみ受給できます。

会社員や公務員などの厚生年金加入者は同時に第2号被保険者という国民年金の加入者でもあり、基礎年金とその上乗せである厚生年金の報酬比例部分が受給できます。

専業主婦など第2号被保険者の配偶者は国民年金の第3号被保険者となり、基礎年金のみ受給できます。これらを踏まえて、国民年金の納付期間5年延長がそれぞれの立場にどのように影響するのか見てみましょう。

*自営業者・フリーランス

現状は、60歳以降も働いたとしても、国民年金の納付期間は20歳から60歳未満までなので、60歳からは保険料を納める必要はありません。これが改正され納付期間が5年延長されると約100万円の保険料負担が発生します。ただ、年金額も増えるので、一概にデメリットとはいえません。

<対策>

60歳以降も仕事を続けることで、保険料を支払えるようにしましょう。自営業者やフリーランスはその気になれば、何歳でも仕事を続けることができるのはメリットです。年金は基礎年金のみなので、年金以外の収入を確保することで老後の生活が安定します。

*65歳以降も働く会社員

65歳以降も厚生年金に加入して働く場合は、原則70歳未満まで保険料を支払います。そのため、国民年金の納付期間が5年延長になったとしても、国民年金の保険料は厚生年金の保険料から拠出されているので、負担が増えることはありません。むしろ、これまで支払っていたのに、基礎年金の受給額に反映されるのは59歳までだったことを考えると、保険料は同じで基礎年金の受給額が増えるのでメリットになります。

*60歳で退職する会社員

60歳で退職をすると、厚生年金の被保険者ではなくなりますが、国民年金は60歳未満までなので、保険料が徴収されることはありません。しかし、国民年金の納付が5年延長となった場合には、無職であっても国民年金の保険料を64歳まで支払わなければなりません。

<対策>

国民年金の保険料は1万6590円(2022年度)です。そのため60歳で退職し、その後無職であれば、5年間で約100万円の負担が発生します。

一方、退職後にパートやアルバイトなどの短期間労働者として働き、再び厚生年金に加入した場合は、月額18万5000円未満であれば、厚生年金保険料の方が安くなります。2022年4月から厚生年金の対象者が拡大されて、月額8.8万円以上であれば、厚生年金に加入できる可能性が高くなりました。

仮に月9万円の給料であれば、厚生年金保険料は8052円なので、国民年金保険料のおよそ半分で済むことになります。さらに、60歳から65歳に達するまで、要件を満たせば、「高年齢雇用継続給付金」あるいは「高年齢再就職給付金」を受け取ることができます。退職後、しばらくのんびりしたあとに、短時間だけ働くという選択肢はメリットが多いといえます。

*専業主婦

会社員(第2号被保険者)に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者は、第3号被保険者となり、保険料の負担はありません。国民年金の納付が5年延長となった場合には、配偶者の働き方によって負担が発生するかどうかが決まります。

会社員の夫の場合、60歳以降も継続して働いていれば、厚生年金の被保険者であるため、そのまま第3号被保険者の状態が65歳まで続くと思われます。その場合は、保険料の負担は発生しません。会社員の夫が60歳で退職した場合は、第3号被保険者ではなくなるため、保険料の負担が発生します。この場合、夫婦2人とも国民年金第1号被保険者となるため、2人分の保険料が徴収され、5年間で約200万円の負担になります。

<対策>

夫が60歳で退職し、保険料の負担が発生した場合の対策を考えてみましょう。国民年金には保険料免除制度があります。収入が低下したことで、保険料の納付が難しい場合、申請することで、全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除が認められることがあります。

また、先述した短時間労働者への厚生年金の適用拡大によって、パートやアルバイトでも厚生年金に入りやすくなったことを受けて、仕事を始めてみるのもいいでしょう。厚生年金の加入によって年金が増えるメリットは大きいと思います。

■おわりに

ここまで読んで気付かれたと思いますが、国民年金の納付期間が5年延長となった場合に、取るべき対策として一番いい方法は、「働き続ける」ことです。これは、働き続けることがメリットとなる制度作りを政府が行っているからです。

現在は経過措置期間となっていますが、2025年4月から65歳までの雇用確保が「高年齢者雇用安定法」によって義務付けられます。さらに70歳までの就業機会の確保が努力義務とされるなど、高齢者の雇用・就業対策を積極的に行っています。今は働き続けることがメリットになっていても、いずれはそれが"あたりまえ"になってくるのではないかと思います。

一方で、そんなに長く働きたくない、あるいは体力的に長く働けない人もいるでしょう。この場合は、まとまった老後資金を作って老後の生活を安定させましょう。老後資金を作るには、iDeCoや企業型DC 、つみたてNISAなどを活用して、早いうちから積立を開始するのが効果的です。年金は賦課方式ですが、積立は将来の自分への仕送りです。そう思うと頑張れるのではないでしょうか。