日産自動車が新型「セレナ」を発表した。Mクラスのミニバンでは2022年1月にトヨタ自動車「ノア/ヴォクシー」、5月にホンダ「ステップワゴン」がフルモデルチェンジを果たしており、いよいよ売れ筋の3車種が出そろうことになる。新型セレナはどう変わったのか。一足先に日産のテストコースで試乗してきた。
新型はエルグランド顔?
テストコースの日産グランドライブで新型セレナを見て、「おっ、エルグランド顔だ」と思ったのは私だけではないらしい。「他の方からもそういわれました」と語るのは、日産 グローバルデザイン本部プログラムデザインダイレクターの入江慎一郎氏だ。左右のフロントヘッドライトが縦3段のヒドゥンタイプになっていて、同じ縦2段のエルグランドを彷彿させる。ちょっと上級になったイメージだ。水平のクロームで「V」の字を描く「Vモーション」により、夜間でもすぐにセレナだとわかるという。
顔つきがアグレッシブなトヨタ、すっきりしたホンダに対し、セレナはちょうど中間といえるデザインで、3社のすみ分けがきっちりとできている。短いボンネットに箱型の広いキャビンという普遍的なデザインが共通するミニバンの中で、差をつけるとすれば大事なのは顔だ。セレナもつかみはOKである。
1991年の初代から始まって今回で6代目となるセレナは、日産の販売構成比のうち約15%を占める人気車種。モデル別のブランド力(知名度と考えればよさそう)では「GT-R」「フェアレディZ」「スカイライン」に次ぐ4位で、日本市場では「重要なコアモデル」という位置づけだ。ミニバン市場のシェアでは常にセグメントトップを争い、歴代モデルで販売台数を着実に伸ばしてきたという。
「BIG、EASY、FUN」という3つの要素を徹底的に磨き上げ、「限られた家族時間を思い切り楽しめるミニバン」をコンセプトにしてきたセレナ。今回の新型では「家族との遠出を最大限に楽しむためのミニバン」を目指した。
室内は広々、視界も良好!
新型のボディサイズは全長4,765mm、全幅1,715mm、全高1,870mm~1,875mm、ホイールベースは2,870mm。それぞれの要素を見ていくと、まず「BIG」の面では有効室内長2,720mmという広々とした室内を実現しており、ニールームはミニバンNo.1の広さとなっているそうだ。3列目シートを前後にスライドさせられるのはセレナだけ。タテにもヨコにも簡単にシートを移動させられるウォークスルー機構を備えていて、多彩なシートアレンジが可能なところも嬉しい。ハイブリッドの「e-POWER」搭載モデルに8人乗り仕様が追加となったのもニュースだ。
乗り込むとダッシュボード上端のラインが一直線で前方視界がすばらしく、さらにウエストラインがとても低い位置にあり、グラスエリアが広いことに気がつく。3列目シートに子どもが座っても閉塞感を感じず、車酔いにもなりにくいよう工夫したそうだ。前出の入江氏によると、視界のためにガラス面を広くしすぎると外から丸見えになってしまうので、ギリギリのところに設定するのが意外と難しいのだという。
「EASY」の面では、シフト操作が従来のレバーではなくボタン式に。ダッシュに並ぶ「P」「R」「N」「D/M」のボタンを押すだけでシフトが選択できる。ミニバン初装備の「プロパイロット2.0」(最上位グレードのルキシオンに標準装備)は日産自慢のシステムで、全車速域でハンズオフドライブが可能。メモリ機能つきプロパイロットパーキングも使えるので、慣れない場所や白線のない自宅の駐車場など、多くのシーンでサポートが受けられそうだ。
狭い場所では気になる長くて重いバックドアの開閉については、従来通り上半分のハーフバックドア(ガラスハッチ)があるのでとても便利。ガラスハッチが低いところから開くため、床まで手が届くところも特徴だ。普段のモノの積み下ろしは、これだけで十分に間に合うだろう。
電気の走りは日産ならではの機能が充実
「FUN」の面では、エンジンで発電してモーターで走る唯一無二のシステム「e-POWER」が第2世代に進化している。発電専用の「HR14DDe」型1.4Lエンジンは出力16%アップの72kW(115PS)/123Nmを発揮。走行用モーターは120kW(192PS)/315Nmで出力が20%アップしており、大柄なボディを活発に走らせてくれる。
テストコース内では結構な速度まで加速してみたが、車内は圧倒的に静かなまま。遮音材などの追加でキャビンへの音の侵入が少なくなっているだけでなく、専用エンジン自体の剛性アップやバランサーシャフト、高剛性クランクシャフト、フレキシブルフライホイールの使用などにより、エンジン音自体も低く抑えられているようだ。
ワンボタンで始動する「e-Pedal step」(いわゆるワンペダル走行)の滑らかな加減速も他社が真似できない領域に達していて文句なし。エネルギーマネジメントも最先端で、車両状態や路面状態だけでなく、ナビと連携してエンジン作動のタイミングを制御する仕組みまで入っている。
ナビで目的地を設定すると、到着地点の周辺で静かにEV走行できるよう先読みして充電量を増やしたり、坂道では登りであらかじめEV走行して放電し、下り坂に入るとフル回生して燃費に貢献する動作を自動的に制御したりもしてくれる。「先読み充放電制御」と呼ばれるこの方式、EV開発の長い日産ならではのシステムだといえる。
このように、先代モデルから明らかな進化を遂げている新型セレナ。あちこち見たり触ったりしていて見つけた唯一の欠点は、3列目シートの折りたたみ方だ。跳ね上げ式で両サイドに固定するのだけれど、跳ね上げただけでは自動的にロックされず、手動でシートからフックを引き出し、壁面に固定しなければならない。フックの長さを調節しないとグラグラしたままなので、それもまた面倒。先代そのままの方式で、ここだけは進化していなかった。
気になる価格は最上級の「e-POWER ルキシオン」が479.82万円、「e-POWER ハイウェイスターV」が368.61万円、2.0Lガソリンの「ハイウェイスターV」が326.92万円。最も安いのはガソリンエンジンの「X」で276.87万円だ。