街を歩いているとミニバンをよく見かけるが、中でもフロントマスクの押し出しが強い、俗に「オラオラ系」と呼ばれる車種の人気ぶりには目を見張るものがある。そんな中、日産自動車が発表した新型「セレナ」はすっきり系フェイスが印象的で、「ハイウェイスター」を名乗るグレードもそこまでいかつい顔ではなく、むしろ品がいい。作れば売れそうなのに、なぜ日産はオラオラ系セレナを用意しないのだろうか。
日産の社風も関係?
日産の新型セレナは上品な顔立ちをしている。現行型セレナはフロントマスクに銀色の「V」の字(Vモーション)が入っているが、新型ではVの字が短い銀色の横棒を等間隔に置いたデザインとなり、上の方はヘッドライトと一体化している。この顔、すっきりとしているし、どこか知的でハイテク感を覚えさせる表情でもあると思うのだが、どうだろうか。
新型セレナの事前取材ではデザイン統括の入江慎一郎さんに話を聞けたので、なぜオラオラ系を作らないのか率直に聞いてみた。
――ミニバンの世界では標準タイプとオラオラ系をラインアップするメーカーが多くて、しかもオラオラ系の方が人気が高いと聞くんですが、新型セレナの顔はすっきりしていますし、ハイウェイスターでもオラついた感じがしませんね。新しく登場した最上位グレード「ルキシオン」も上質系に振っているようです。なぜいかつい顔のセレナを作らないですか?
入江さん:日産自動車って、上品な会社なんですよね(笑)。
――なるほど(笑)。お答えとしてはこれで十分なのかもしれませんが、もう少し詳しく。
入江さん:さっきのは半分冗談で、半分は本気なんですけど、社風も関係していると思います。
当然、新型セレナの開発にあたってはミニバン市場をマッピングしていますし、オラオラ系から上品なクルマ、もしくはフレンドリーな方向のものなど、ラインアップがそろっていることは企画段階で勉強もしました。
確かに市場には押し出しの強いオラオラ系のミニバンもありますし、ホンダさんの「ステップワゴン」のようなユースフルな感じの車種もあります。そんな中で、セレナが代々継承していかなければならないのは、その中間にある層に共感してもらえるようなデザインです。ミニバンの王道、ファミリーカーの王道としてのデザインを狙っています。
入江さん:例えば父親に好まれる方に偏っても、母親に好まれる方に偏ってもいけなくて、ちょうど中間を目指しました。男性的とか女性的とか、かわいいとかカッコいいという風に偏るのではなく、ジェンダーレスで、年齢的にもどこかに偏らずという考えですが、これが結構、難しいんです。ある意味、どこかに寄せようと思えば簡単で、例えば「男性っぽく作ろう」という話になれば、いくらでもできます。ただ中間を狙うとなると、かなり絶妙なことをやらないと収まらないんです。
キーワードのひとつとしては上質さ/上品さを目指しました。これをしっかり作り込みつつ、少し押し出しの強いハイウェイスターも用意しました。ただ、「押し出し」といっても、新型セレナのハイウェイスターはハイテクでプレミアムな方向に持っていきました。
セレナはMクラスのミニバンですが、Lクラスのミニバン(日産でいえばエルグランド)のような、ひとクラス上の上質感を求められるお客さまもいらっしゃいます。なので、すっきりとしつつもテクノロジーやプレミアム感を感じる顔や、設えのよさなどにこだわりました。モノとしての価値を訴求するデザインにできたと思います。
入江さん:デザインが終わった後、「俺は絶対にセレナは買わない!」とおっしゃる方、いわゆるオラオラ系が好きな方にも来てもらって意見を聞いたんですが、そういった方たちからも「今度のセレナってよくない?」という声を頂戴しました。「ハイテクに見える」という意見や、「内装がスマホを連想させるような未来的な雰囲気だ」といったような意見もありました。スマホ世代にはスッと入っていただける、すんなりと受け入れていただけるインテリアになっていると思います。「ザ・コックピット」というよりは、ユーザーインターフェースを重視したコックピットの方が、今の時代は受け入れていただきやすいのではないでしょうか。