藤井聡太竜王に広瀬章人八段が挑戦する第35期竜王戦七番勝負(主催:読売新聞社)は、第5局が11月25・26日(金・土)に福岡県福津市の「宮地嶽神社貴賓室」で行われました。結果は133手で広瀬八段が勝ち、シリーズ成績を2勝3敗としました。
広瀬八段用意の自陣角
先手となった広瀬八段は相掛かりの戦型に誘導します。後手の藤井竜王がこれに追随した結果、40手目まで進んだ局面はひと月前の竜王戦第3局とまったくの同一局面になりました。終盤に一失がありこの一局を落としていた広瀬八段ですが、このときの中盤の進行に手ごたえを感じて本局への研究を用意してきたことがうかがわれました。盤上では両者ともに中住まいの囲いに構えます。
先述の第3局では持久戦を志向して自玉の整備に手をかけていた広瀬八段は、本局では積極的な攻めを見せました。4筋の位を取ったあとで▲5七角の自陣角を放ったのがそれで、この角は盤面左方からの端攻めと右方からの拠点作りを両狙いにしています。広瀬八段の用意の作戦を見た藤井竜王は、持ち時間を投入して慎重に対策を練ります。藤井竜王が1時間以上の長考を数回重ねた結果、持ち時間の差は3時間ほどに広がりました。
藤井竜王が辛抱から反撃へ
左右両方からの攻めを見せられた藤井竜王は、丁寧に受けに回る方針を採りました。自身の飛車の利きを止める歩打ちや2筋の垂れ歩を受け止めるための自陣二段目への歩打ちなど、しばらくは先手からの攻めを受け止めるための辛抱が続きます。局面は「広瀬八段の攻め対藤井竜王の受け」という構図で進みますが、藤井竜王が見せた△3三桂が悪い流れを断ち切る好手でした。この手は遊び駒の桂をさばきつつ、狙われている銀の逃げ場所を作る一石二鳥の手です。
藤井竜王の受けの好手を見た広瀬八段は大長考に沈みます。80分を消費した結果、広瀬八段はそのまま次の一手を封じ手としました。形勢は互角ながら、順調に攻めていたはずの広瀬八段としては変調の感が拭えません。局後、広瀬八段が残した「(実戦の進行は)うまくいっている感じはしなかった」という感想がこのことを裏付けています。
難解な終盤戦を広瀬八段が抜け出す
いったん開始した攻めを止めるわけにいかない広瀬八段は開き直って右辺からの攻めを継続しますが、ここから藤井竜王の反撃が始まります。先手玉を守る要の銀をタタキの歩の手筋でそっぽに追いやってから端に角を打ったのが急所の攻め。続いて藤井竜王は2枚目の角を盤上に放って広瀬八段の飛車と金を質に入れました。この一連の反撃が厳しく、局面の主導権は藤井竜王に移りました。
自然な攻めを継続する藤井竜王ですが、広瀬八段もうまく追随して決め手を与えません。それどころか藤井竜王が飛車を取って広瀬陣に打ち込んだとき、広瀬八段は自陣桂の受けを用意していました。この受けの好手により一気に広瀬玉の耐久度が上がり、継続の攻めが見えなくなったのが藤井竜王の誤算でした。局後、藤井竜王はこのあたりの手順が攻め急ぎだったと振り返りました(手順中、角で飛車を取る手に代えて金の方を取れば藤井竜王優勢という将棋ソフトの形勢判断が示されましたが、その後の後手からの攻めが細く選びづらいという両対局者の一致した感想があることを念頭に解釈する必要があります)。
このあとも難しい局面は続いたものの、「攻め切って勝ち」という構想を描いていた藤井竜王にとって一度傾いた流れを引き戻すのは容易ではありませんでした。最後は手にした2枚の角を使って広瀬八段が再度の反撃に転じ、鋭く藤井玉を寄せきって勝勢を築きました。終局時刻は18時34分、勝った広瀬八段は竜王奪取に望みをつなぎました。
注目の第6局は12月2・3日(金・土)に鹿児島県指宿市の「指宿白水館」で行われます。
水留啓(将棋情報局)