東海テレビの松本圭右プロデューサーが、東海テレビ・フジテレビ系ドラマ『最高のオバハン中島ハルコ』(毎週土曜23:40~)の舞台を岐阜をした理由を語った。

  • 『最高のオバハン中島ハルコ』で主演を務める大地真央 =東海テレビ提供

――第一弾は愛知が舞台、今回はなぜ隣の岐阜が主舞台に?

やはり地元(東海テレビは愛知・岐阜・三重が放送圏)の魅力を全国に届けたいという思いが強かったです。第一弾で愛知を舞台にしたので、次は岐阜か三重か。調べる中で、岐阜には地元の方にもあまり知られていない色々な伝統や文化、祭りなどがあることが分かりました。鵜飼いなど有名なものでも、詳しく知られていないことも。このまま放っておけばなくなってしまうかもしれない文化や職人さんたちの思いを知り、今撮らなければと今回は岐阜を舞台にさせて頂きました。言葉は強いですが「絶滅危惧種の伝統文化」にスポットを当てるため、脚本の西荻さん(西荻弓絵氏:『妖怪シェアハウス』『民王』『SPEC』など)と相談しながらストーリー作りをしたのですが、台本作りはまず取材ありき。今回は全10話ですが、取材先は10件どころじゃなく、けっこう大変でした(笑)。でもリアルを知らなければ、エンタメに落とし込むこともできないので、必要な時間だったと思っています。

――地方を舞台にするメリット、デメリットは?

メリットは何と言っても絵力が格段に上がること。日本にはまだまだ素敵なロケーションがたくさんあり、映像を生業にしている身としては少しでも多くの景色を映像に残したいと思っています。別の作品でのことなのですが、物語制作の参考のために黒澤明監督の戦後すぐの作品『野良犬』『酔いどれ天使』を観たんです。さすがの名作でストーリーが面白いのはもちろんだったのですが、それ以上にスゴいと感じたのが、戦後すぐの日本の街並みが、映像として残っている事。記録映画としての観点から観ても素晴らしい作品だったんです。そこから、自分の意識も変わって……。

去年、放送させて頂いた『その女、ジルバ』は、主役の笛吹新が福島出身の設定で、ドラマでもどうしても福島の映像を撮りたく、制作会社のプロデューサーに無理を言ってロケを実現してもらいました。震災から10年という節目の福島をどんな形でもいいから映像として撮っておきたかったんです。たまたま相談したプロデューサーが福島出身で、同じような思いを持っていたのも心強かったです。ただ完全に制作者の自己満足ですし、自慢するような事じゃないですよね。ただ、何年か、何十年かしていつか誰かが『ジルバ』を観た時に、「これが10年目の福島か」と一瞬でも感じてもらえたら……そういう意味で、『最高のオバハン中島ハルコ』では「岐阜の今」をなるべく映像として残せるよう、いろんな場所に撮影でお邪魔しています。

デメリットに関しては、現場的な一番の負担はスタッフ・キャストの移動や宿泊に費用がかさむことです。今回のドラマも他の番組とほぼ変わらない予算の中で作っています。なので本来なら、地方ロケなんて出来るはずがない(笑)。でも、市や町の方々に協力を頂けることで、他でかかる予算を圧縮、何とか撮影を進めることができました。地元の方々の熱量が毎回すごくて……役所や地元の方のマンパワーが地方ドラマを支えてくれているのは間違いないですし、ご協力には感謝しかないです。

――今夜放送の第8話は愛知県幸田町が舞台。その理由は?

第二弾は岐阜編ということで、ほぼ岐阜県内で撮影をしていたのですが、もうひとつやりたいことが、第一弾でお邪魔した地域の1年後もドラマで登場させたいということでした。どんなドラマも一過性のものではなく、そこに生きている人や文化は、連綿と繋がっているということも表現したくて……なので第一弾で登場した愛知県蒲郡市と幸田町に今回もお邪魔しました。第二弾ということで地域の方との連携もスムーズで(笑)、もはや家族のような関係で撮影させていただけました。

幸田町は第一弾の最終章で、町おこし詐欺の舞台になったのですが、今回はそこから違う道を選んだ地域の新たな問題をテーマにしています。 あくまでフィクションなので、実際に起きている事とは違うのですが、全国的な問題になっている「空き家問題」をテーマに、「お金」についてハルコさんが持論を展開するストーリーになっています。もしかしたら今シリーズの中で観て下さる方にとっては一番身近なテーマかもしれないので、登場人物の誰かに感情移入しながら見て頂ければと思います。

――そんな地方発ドラマを楽しむコツは?

まずは監督、カメラマンがこだわりにこだわりぬいたロケーションと映像美を堪能していただくこと、でしょうか。コロナもあり、旅行を控えていた方も多いと思うのですが、だからこそ、民放のテレビ番組という簡単に手が届くメディアで旅行気分を味わってもらえるのも地方発ドラマの魅力だと思っています。あとは、地元の名産品を知ること。ネット社会だと自分の興味のあることしか知識として増えづらいと思うのですが、テレビなら興味がなくても目に入ってくる。

第一弾ではドラマに登場した名古屋のお菓子が放送直後からネットで話題になりました。(名古屋銘菓の生しるこサンド(松永製菓)がドラマに登場。一時完売する状況となった)。狙ったわけではなかったのですが、そういう楽しみ方ができるのもテレビドラマの魅力なのかなと再認識しました。今回も実在のお菓子や料理をふんだんに取り入れています。隠れた名産品はまだまだあるのでそこも楽しんでいただけたら嬉しいです。

あとは長期宿泊によるキャストスタッフの一体感が映像にも表れているので、そこも楽しんでいただければと。撮影の4カ月間、ほぼ合宿状態なので「普通ならそんな芝居思いつかない!」というような面白いシーンがいっぱい撮れています。大地さん演じるスーパーマダム・中島ハルコは第二弾でさらにパワーアップしているので、ぜひ楽しんでいただければ嬉しいです。