マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、トルコと南アフリカの金融政策について解説していただきます。


11月24日、TCMB(トルコ中央銀行)とSARB(南アフリカ中央銀行)が政策会合を開催しました。同じ日に開催されたのは単なる偶然ですが、決定された金融政策は真逆でした。

TCMBは大幅な利下げ、SARBは大幅な利上げでした。いずれもある程度事前に予想されていたので、金融市場の反応は限定的でした。政策決定の経緯を詳しくみてみましょう。


トルコ中央銀行は大幅利下げを継続

TCMBは1.50%の利下げを決定しました。利下げは8月以降4会合連続で、政策金利は14.0%から9.0%になりました。インフレ率が80%を超えるなかで(10月消費者物価上昇率は前年比85.51%)、TCMBが利下げを継続したことは極めて異例と言えるでしょう。

世界的に高インフレが続くなか、エルドアン大統領は「利下げをすればインフレは落ち着く」という経済理論と真逆の主張をしており(※)、TCMBに対して22年中に政策金利を一ケタにするよう要求してきました。TCMBはそれを実現した格好です。

※21年のインフレ率は概ね10%台でしたが、同年9-12月にTCMBが大幅な利下げを実施したことでトルコリラが急落(後述)。世界的なエネルギー価格や原材料の高騰もあってトルコのインフレ率は21年終盤から急激に加速しており、収まる気配はありません。

今回の利下げ発表時の声明で、TCMBは「現在の政策金利は適正であり、8月に始めた利下げサイクルの終了を決断した」と表明しました。もっとも、23年に大統領選挙を控えたエルドアン大統領が、改めてTCMBに対して利下げを要求する可能性もなくはないでしょう。

トルコリラの下落が小幅にとどまっている背景

TCMBは今年8月から4回連続で計5.00%の利下げを敢行しました。その間、トルコリラは対米ドルで最安値を更新するなど、ジリジリと下落しています。それでも下落幅はトータルで小幅にとどまっています。それに対して、今回と同様に昨年9-12月に4回計5.00%の利下げを行った局面では、トルコリラは対米ドルで約半分の水準まで下落しました。

今回の局面で、高インフレ下での利下げ、政治介入による中央銀行の独立性侵害といった材料にも関わらず、トルコリラの下落が小幅にとどまっていることは、トルコリラが為替市場で自由に取引されていない、いわゆる官製相場になっている証左とも言えそうです。

  • トルコリラの対米ドル市場

トルコリラは投資に適さない通貨?

今年8月にTCMBが利下げを開始して以降、トルコリラの対米ドルでの下落率は3.6%にとどまっています。政策金利は下がったとはいえ9.0%あるので、トルコリラへの投資を検討してもおかしくはないかもしれません。もっとも、現在のトルコリラが当局によって人為的にサポートされており、当局がそれを放棄する可能性があるならば、トルコリラには急落のリスクがあると言えるでしょう。安易に手を出してはいけない通貨なのかもしれません。


南アフリカ中央銀行は大幅利上げを継続

TCMBの政策決定の約2時間後にSARBは0.75%の利上げを決定し、政策金利を7.00%としました。利上げは昨年11月以降7回連続。今回を含めて直近3回は0.75%幅でした。ただ、5人の委員のうち2人は0.50%の利上げを支持。前回9月も3対2の決定でしたが、0.75%の利上げに反対した2人は1.00%の利上げを支持していました。

クガニャゴ総裁は、前日に発表された10月CPI(消費者物価指数)が前年比7.6%と9月(同7.5%)から伸びが加速したことに「驚かされた」とし、物価目標(3-6%)の中間点である4.5%に回帰するという明確な証左を探していると述べました。SARBはペースを落とすとしてもまだ利上げを続ける可能性が高そうです。

世界的に高インフレとの闘いは続く

今年に入って、日銀を除く主要な中央銀行は高インフレを抑制するためにアグレッシブな利上げを続けてきました。そして、いくつかの中央銀行については、政策金利が景気に大きくブレーキをかけかねない水準に達しつつあるため、利上げのペースダウンや打ち止めの観測が浮上しています。

もっとも、SARBは今回0.50%ではなく0.75%の利上げを選択しました。23日に政策会合を開催したRBNZ(ニュージーランド準備銀行=中央銀行)も0.75%の利上げを決定しました。金融市場ではRBNZの利上げは0.50%ではないかとの見方もありましたが、実際に内部で検討された利上げ幅は0.50%ではなく1.00%でした。世界的に高インフレとの闘いはまだまだ続きそうです。