デンマークのオーディオブランド、Jabra(ジャブラ)が今秋に新しい左右独立型のワイヤレスイヤホン「Jabra Elite 5」を発売しました。今回、JabraのAsia Pacific リージョナル プロダクトマーケティングマネージャーであるAgnes Koh氏にオンラインインタビューの機会を得て、人気のEliteシリーズに追加された新製品の位置付けや、技術的な特徴を詳しく聞きました。
人気シリーズ「Elite」のミドルレンジ
Jabraは今から約150年前、デンマークの首都コペンハーゲンに設立された通信企業GNグループのオーディオブランドです。グループ全体ではコンシューマーオーディオのほかに、業務用の音声通信機器や補聴器など人の聴覚に関わるビジネスを広く展開しています。
左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンは2017年に初のモデルとなる「Elite Sport」を発売しています。当時はまだ完全ワイヤレスイヤホンを商品として発売しているオーディオブランドは数少なく、Jabraの製品ほど音質と使い勝手が安定しているブランドも他に類を見なかったことを筆者はよく覚えています。
その後もJabraは毎年、積極的にワイヤレスオーディオの最先端機能を搭載する完全ワイヤレスイヤホンを発売してきました。Koh氏によると、Eliteシリーズは音質と機能の両方に妥協を許さないJabraのプレミアムシリーズであり、音質にこだわりのあるオーディオファンから、音質と使い勝手のよい音声コミュニケーション用ヘッドセットを求めるビジネスパーソンまで、幅広く支持を得ているそうです。
同じEliteの名前を冠する兄弟シリーズとして、本体の防塵・防水設計を高めたスポーツ仕様のElite Activeシリーズもあります。シリーズに新しく加わったElite 5は、同社のオンライン直販価格が18,480円。上位のElite 7 Pro(直販27,280円)、エントリーモデルのElite 3(同9,900円)の間を埋めるミドルレンジに位置付けられます。
※編注:Eliteシリーズではこのほか、タフなワークアウト向けのElite 7 Active(直販23,980円)、Elite 4 Active(同14,850円)といったラインナップも展開しています。
Elite 5の“Jabra最新ノイキャン”の実力
Jabra Elite 5はノイズキャンセリング(NC)と外音取り込み機能を備え、iOS/Android対応の「Jabra Sound+」アプリに対応しています。
NCはイヤホンの内・外側に向けて配置するマイクで周囲の環境ノイズを拾い、音楽リスニングやハンズフリー通話に不要なノイズ成分だけを打ち消す「Hybrid ANC」に対応しています。
上位モデルのElite 7/Elite 7 ActiveにもNC機能は載っていますが、実はこちらはイヤホンの外側に向けたマイクだけで音を集めて解析するフィードフォワード方式のみの対応です。Elite 5と同様にモバイルアプリから消音効果の強弱を全5段階から選べますが、筆者はElite 7シリーズよりもElite 5の方が、消音効果が自然だと感じます。
なお、シリーズには半密閉型(セミオープン)のハウジングを採用するJabra Elite 85tというプレミアムモデルがあります。オンライン直販価格は29,480円。85tはBluetoothオーディオの通信制御などを行うSoCのほかに、小さな本体にNC専用のICチップを載せて、ハイブリッドマイクシステムと連動しながら一段ときめ細かく消音制御を行う「Jabra Advanced ANC」を搭載しています。Elite 5はElite 85t以来のハイブリッド方式NCに対応する、Jabraの完全ワイヤレスイヤホンということになります。
Eliteシリーズの魅力は「ナチュラルなサウンド」
Elite 5はサウンドの心臓部として6mm口径のダイナミック型ドライバーを採用しています。筆者はいつもJabraのイヤホンを使いながら、バランスが良く色づけのないサウンドをとても好ましく感じています。ボーカルや楽器の音色はとてもリアルで説得力があります。ハンズフリー通話の音声も含めて「聴き疲れ」しないところがとても魅力的です。
JabraのKoh氏は、Elite 5が目指したサウンドの方向性について次のように語っています。
「Jabraにはワイヤレスイヤホンの音質設計を含むオーディオ製品の開発を専任として携わるR&D(研究開発)チームがあります。チームに所属するエキスパートたちが全製品の音質や機能の使い勝手を厳しくチェックしています。Elite 5のサウンドはアーティストが意図したサウンドをありのまま忠実に再現することをターゲットに定めてチューニングしています。そのため様々なジャンルの音楽と自然にマッチするのです。」
Elite 5はクアルコムのBluetoothオーディオ向けSoCを搭載しています。音質に定評のあるaptXコーデックにも対応したところが、Elite 7 ProやElite 85tとの違いです。ただ、筆者としては音質が一段と高く、低遅延性能を特徴とする最新のaptX Adaptiveコーデックにも対応してほしかったところ。
Koh氏にそれを伝えると、「ミドルレンジクラスであるElite 5では機能と使いやすさに加えて、価格とのバランスを考慮して対応コーデックを決定しました。aptX対応とすることで、Androidデバイスのユーザーが期待する音質と使い勝手を提供できると判断しました」という答えが返ってきました。
最近はスマホとワイヤレスイヤホンの組み合わせでモバイルゲームを楽しむときに発生しがちな「映像と音のズレ」を解消するため、独自にワイヤレス音声の遅延を抑える技術を搭載するイヤホンも増えています。Jabraの考え方をKoh氏に聞きました。
「Elite 5で音楽を聴いたり動画を視聴したり、ゲームを楽しむうえで音声の遅延が問題になることはほぼありません。ただ、一方でモバイルゲーミングに使用することは本来、当社が想定している用途ではないため、さらに低遅延であることが求められるゲームでの使用にはあまり向いていないかもしれません。」
マルチポイントや防滴対応など便利機能も
筆者はJabra Eliteシリーズをふだん使いのワイヤレスイヤホンとしています。理由のひとつは、最大6台までBluetooth対応機器のペアリングを登録して、それぞれの機器の接続切り換えがすばやくスムーズにできるからです。
Elite 5は、2台のBluetooth対応機器と同時に接続できるマルチポイント機能にも対応しています。たとえばMacでオンライン発表会を視聴中、iPhoneに着信があった場合にはリングトーンが聞こえてきて、iPhoneで応答するとすぐに通話ができます。
イヤホン本体はIP55相当の防塵・防滴対応なので、ジョギングやジムへトレーニングに出かける時にもよくElite 5を持参します。イヤホンの装着感がとても心地よいのは、本体がコンパクトで軽いから、という理由だけではないようです。
Koh氏は「Jabra Eliteシリーズがイヤーピースのほかにイヤーハンガーなど外耳にフィットさせるパーツを余計に使わず、シンプルなデザインを実現できた背景には補聴器も展開するGNグループのノウハウを活かすことができたからです。数多くの耳型データのサンプルから、あらゆるユーザーの耳に心地よくフィットする形状を追求した」と開発の経緯を語っています。
ノイズキャンセリング機能を搭載する左右独立型のワイヤレスイヤホンの中には、この頃は価格が1万円台を切る安価な製品も数多く見つかるようになりました。もちろん価格を問わず「良い製品」はたくさんありますが、Jabra Elite 5のように音質と機能、装着感を含む使い勝手がハイレベルに整ったワイヤレスイヤホンと出会えたユーザーは幸せです。
価格は18,480円ですが、最終的にはコスパの良さが実感されることでしょう。Appleが発売した第2世代のAirPods Pro(39,800円)も人気を集めていますが、Jabra Elite 5はほぼ半額で充実した機能がそろうワイヤレスイヤホンです。ぜひ試してみる価値があると思います。