第43回将棋日本シリーズJTプロ公式戦(協賛:日本たばこ産業株式会社)は、決勝戦の藤井聡太竜王-斎藤慎太郎八段戦が11月20日(日)に千葉県千葉市の「幕張メッセ国際展示場4~6ホール」で行われました。対局の結果、藤井竜王が114手で勝って優勝を決めました。
角換わり腰掛け銀の力戦
どちらが勝っても初優勝となる本局は、振り駒で先手となった斎藤八段が角換わり腰掛け銀の戦型に誘導して幕を開けました。持ち時間が短い早指し棋戦らしく、序盤の駒組みは両者テンポよく進めます。斎藤八段が早めに6筋の歩を突いたのに対し、後手の藤井竜王が同じ筋の歩をさっそく突っかけたことで本格的な戦いが始まりました。
本局の進行は角換わり腰掛け銀のなかでも定跡化の進んでいない力戦で、実戦例も多くありません。しかし昨年9月に両者の間で戦われた将棋が本局と似た展開であることから、この変化が両者の間ではある程度は想定されていたことが推測されました。斎藤八段は右桂を中央に活用できていること、藤井竜王は後手番ながら先攻できていることを主張して、局面は互角の形勢を保っています。
明暗を分けた封じ手
激しいやり取りが落ち着いた局面で、藤井竜王は桂交換を挑んで持ち駒の補充を図ります。これを見た解説の郷田真隆九段によって封じ手の指示が出されました。攻めと守りの分岐点で、封じ手番となった斎藤八段は▲1五歩の一手を決断します。これは桂を跳ねたあとの藤井陣の端が弱いと見て、ここからの飛車の成り込みを狙ったものでしたが、ここに斎藤八段の読み抜けがありました。局後の検討では、先手としては穏やかに第二次駒組みを進めておくのが有力とされました。
斎藤八段の猛攻を無理攻めと見た藤井竜王は、方針を受けに切り替えて斎藤八段の飛車に狙いを定めます。角を打ったあと、△2五香と犠打を放ったのが本局随一の好手でした。この香は一見タダで取られてしまうようですが、数手先まで読むと先手の飛車を捕獲する順が用意されていることがわかります。局後、斎藤八段は「飛車を取られるのは厳しい。もう一手深く読めなかったのが…(悔やまれる)」と非勢を認めました。
藤井竜王が寄せきる
リードを奪った藤井竜王は、手にした飛車を敵陣に打ち込んで的確に斎藤玉への寄せの網を絞っていきます。金銀4枚に囲われて堅そうに見えた斎藤八段の囲いですが、藤井竜王が繰り出すタタキの歩や腹銀といった手筋のコンビネーションを受けて20手後には見る影もなくなっていました。反対に、玉が孤立して危険そうに見えた藤井玉の方は、圧倒的な広さを誇って斎藤八段に攻めの取っ掛かりさえ作らせませんでした。
最後は斎藤玉への即詰みを読み切った藤井竜王が危なげなく寄せきって熱戦に幕を下ろしました。自身初となる本棋戦優勝を決めた藤井竜王は、決勝で敗れた去年の雪辱を果たした格好です。
水留啓(将棋情報局)