テレビ朝日系で長きにわたって放送されてきたドラマ、小説家・森村誠一氏原作の『終着駅シリーズ』、西村京太郎さん原作の『西村京太郎トラベルミステリー』が、12月放送の最新作で幕を閉じることが明らかになった。12月22日(20:00~)には『森村誠一ミステリースペシャル 終着駅シリーズ・ファイナル 十月のチューリップ』が、29日(21:00~)には『西村京太郎トラベルミステリー・ファイナル 十津川警部のレクイエム』が放送される。
長きにわたって愛されてきたミステリードラマの“レジェンド”ともいうべき2シリーズが、12月で見納めとなる。このたび、26年にわたって『終着駅シリーズ』の主人公・牛尾刑事役を務めてきた片岡鶴太郎、『西村京太郎トラベルミステリー』で十津川警部、亀井刑事という名コンビを演じてきた高橋英樹、高田純次がそれぞれ作品への思いやファンへの感謝を語った。
森村氏原作の『終着駅シリーズ』は、執念の捜査で事件の奥底に潜む真相に迫る新宿西署のベテラン刑事・牛尾正直の活躍を描くミステリー。1990年露口茂の主演で誕生し、第5作(1996年)から片岡がバトンを受け継いだ。『土曜ワイド劇場』を中心に回を重ね、ファイナル作品は第38作目。週刊誌記者・川村冴子(水野真紀)とのコラボ作『終着駅の牛尾刑事VS事件記者・冴子』シリーズ(計16作)を合わせると片岡は牛尾刑事をちょうど50作演じてきたことになる。最終作『十月のチューリップ』では“神の手”を持つといわれる心臓外科医が刺殺される事件が発生。牛尾は第一発見者であるフラワーショップ店主・北野英子(美村里江)に疑惑を抱くが、やがて事件には思いもよらぬ真実が隠されていることが明らかに。善と悪、そして生と死を深く考えさせる辛く悲しい事件が描かれていく。
片岡は「始まりがあれば終わりがあるもの、と常々思ってきましたので、“その時が来ましたか”という気持ちでした。このドラマがベースにあったからこそ、今の私もこれからの私もあると思っていますので、作品には感謝しかありません」と感謝を述べ、牛尾の妻・澄枝として1997年放送の第7作から共演してきた故・岡江久美子さんをしのび、「最後、僕らは岡江さん演じる澄枝の“思い”をきちんと残す形で幕を閉じることができたと信じています。岡江さんには、“あなたと一緒に終えることができました”と報告したい」と天を仰いだ。
そしてミステリー界の黄金コンビ“十津川警部”と“亀井刑事”が旅情あふれる映像を背景に時刻表や鉄道にまつわるトリックを解明、事件の裏に潜む人間ドラマを浮かび上がらせてきた『西村京太郎トラベルミステリー』は1979年にスタート。以来43年間にわたって時代を反映した鉄道トリックを取り入れるなど意欲的な挑戦を続けてきた。2000年放送の34作目で初代・三橋達也から十津川警部役を受け継いだ高橋は、第73弾となるファイナルまで、40作で主演。高田は2012年、長らく亀井刑事を演じてきた愛川欽也さんにかわって登場した。
29日放送の最終作『十津川警部のレクイエム』は、十津川の部下・柿沼刑事が亡き妻とそっくりな女性と心中するという痛ましい事件で幕を開ける。柿沼の死について調べていくうち、十津川たちは事件の背後に横たわる巨大な闇に突き当たることに。部下を失った十津川が「仲間を殺した殺人犯を、この手で殺したいと強く感じています」「あなたが犯人なら、あなたを殺す」とこれまでにない強い言葉で怒りをあらわにするシーンも。さらに十津川が拳銃を抜くシリーズ史上初の場面も描かれる。
22年にわたって十津川警部を演じてきた高橋は、「『西村京太郎トラベルミステリー』は旅、鉄道、そして事件…と日本人が好きな要素が網羅されている、2時間ドラマの原点のような作品で、西村京太郎先生の真骨頂。先生が書き続けてくださったおかげで、73作まで重ねることができました」と、今年3月に世を去った西村氏に感謝。第58作から亀井刑事を演じてきた高田は「もう亀井刑事を演じて、10年になるんですね……。歴史ある素晴らしい作品に参加できて本当に光栄でした」としみじみ回顧。「今回だけは5時間ぶっ続けで放送してほしいと思うぐらい、長いロケにもしっかり臨みました。とにかく余すところなく隅から隅まで見ていただきたいですね」と力を込めた。
■片岡鶴太郎(牛尾正直 役)
――シリーズがファイナルを迎えると聞いたときのお気持ちを教えてください。
始まりがあれば終わりがあるもの、と常々思ってきましたので、“その時が来ましたか”という気持ちでした。このドラマがベースにあったからこそ、今の私もこれからの私もあると思っていますので、作品には感謝しかありません。池広監督は根っからの“映画人”で、撮影では“長回し”が多く、毎回毎回、長ゼリフをきちんと身体に刻んでいくという作業が欠かせませんでした。
――シリーズ第1作から演出を手がけてきた池広一夫監督、そして妻・澄枝を演じた岡江久美子さんにはどのような言葉を贈りたいでしょうか?
池広監督は93歳にして、現役バリバリ。この2~3年、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて撮影できない時期がありましたが、今回の撮影ではそのブランクをまったく感じさせませんでした。生涯現役を貫いてきた偉大な監督であり、その姿には敬服するばかりです。仲間たちとファイナルを迎えられず、いちばん残念に思っていらっしゃるのは岡江さんだと思います。でも最後、僕らは岡江さん演じる澄枝の“思い”をきちんと残す形で幕を閉じることができたと信じています。岡江さんには、“あなたと一緒に終えることができました”と報告したい思いです。
――26年間演じてきた牛尾刑事は、ご自身にとってどんな存在ですか?
“私淑する存在”ですね。彼はどんなことがあっても冷静でクリアな判断ができ、常に喜びも悲しみもグッと抑えて一定の感情の中に置いています。それでいて心の中には愛情と慈しみをあふれんばかりに持っていて、品格があって身綺麗で、美的な感性をも持ち合わせた方だと思います。そんな牛尾刑事に自分自身も近づきたいと願い、この26年間は手本である牛尾刑事と自分のギャップを埋める作業の連続でした。私の中には常に尊敬してやまない牛尾刑事の姿があるので、今後も岐路に立ったとき、彼だったらどう考え、どう対処するのか自らに問いかけ、彼に近づくよう己をしつけていく……。それはこれからの人生でも変わらず、やっていく作業だと思っています。
――長年、シリーズを愛して下さったファンのみなさまにメッセージをお願いいたします。
絵の展覧会やサイン会など、どこに行っても必ずみなさんに言われるのが、“牛尾刑事、見てますよ!”“今度いつ放送しますか?”という言葉。それだけ楽しみに待ってくださるファンの方がいるんだなと実感してきました。『十月のチューリップ』は最後にふさわしく、『終着駅シリーズ』ならではの重厚で深いストーリー。ほかでは決して描くことのできない作品ですので楽しみにご覧いただきたいですね。そして、岡江さんをしのび、監督の業績を称えていただきたいと思っています。
■高橋英樹(十津川省三 役)
――『西村京太郎トラベルミステリー』シリーズへの思いを教えてください。
『西村京太郎トラベルミステリー』は旅、鉄道、そして事件……と日本人が好きな要素が網羅されている、2時間ドラマの原点のような作品で、西村京太郎先生の真骨頂。先生が書き続けてくださったおかげで、73作まで重ねることができました。2時間ドラマが少なくなってきた昨今、俳優としてとてもやりがいを感じていた仕事でしたね。ただ、必ず地方ロケがあり列車のスケジュールを優先しなければならないため、撮影は毎回、なかなか過酷なものがありました。
――思い出に残っている作品を教えてください。
思い出は数えきれないほどありますが、忘れられないのが北海道・音威子府で-36度の中、撮影したときのこと(『西村京太郎トラベルミステリー35・宗谷本線殺人事件』2001年)! それまで経験したことのない寒さでしたが、驚いたのは“音”です。ホームで列車を待っていても、寒さで空気の振動がないからか、音が伝わってこないんです。そのため、ホームに滑り込む直前で初めて列車の走行音が聴こえてきてビックリしたことを覚えています。
――ファイナル作品『十津川警部のレクイエム』では、十津川班全員で静岡・奥大井ロケも敢行されましたが、撮影はいかがでしたか?
近年は純ちゃん(高田純次)と2人で地方に行くことが多かったので、全員でロケ現場に出向くのは久々でした。夜な夜な集まっては昔話を交わして、楽しかったですね。また、今回の作品のすごいところは“風景”。ロケはすべて“ピーカン”の下で行われたので、素晴らしい風景だけでも見応えがあります。神様から“ファイナルとしてしっかり仕事をせよ”と励まされているような気がして、忘れられない作品になりました。
――長年、シリーズを愛して下さったファンのみなさまにメッセージをお願いいたします。
今回、十津川が強い表現で容疑者に怒りをぶつけますが、常に冷静な彼が感情をあらわにしたのは初めてのこと。さらに、『西村京太郎トラベルミステリー』史上、初めて十津川が銃を放ちます。仲間が殺されたことに対する怒り、それから悪に対する刑事としての怒りが集約された結果なのですが、非常に珍しい十津川像が描かれています。人間の善と悪の両面が丁寧に描写されたドラマになっていますので、ぜひご覧ください!
■高田純次(亀井刑事 役)
――『西村京太郎トラベルミステリー』シリーズへの思いを教えてください。
亀井刑事を演じて、もう10年になるんですね……。歴史ある素晴らしい作品に参加できて本当に光栄でした。劇団出身なもので、列車に乗っていろいろな地方に赴くことができるのがうれしくて仕方がなかったです。しかも、英樹さん演じる十津川警部は非常に優秀な方なので、彼についていけば、必ずや2時間以内に事件を解決できますしね(笑)。 いちばんの思い出は、初参加だった『山形新幹線つばさ129号の女』(2012年)。村川透監督の故郷・山形を舞台にした作品で、食事もおいしかったし、監督の知り合いの方もいっぱいいらして、監督としても気合いが入った作品だったと思います。
――ファイナル作品『十津川警部のレクイエム』の撮影はいかがでしたか?
前作の撮影が2年前で、それ以来だったので、ちょっとドキドキしながら入らせていただきましたが、本当に天気がよくてラッキーでしたね。神様も忖度してくれたのか、撮影が屋内だと雨が降り、ロケだと晴れるという感じでした。トロッコ列車に乗るのを楽しみにしていたんだけど、ロケ先に到着するまでたっぷり1時間かかり、最終的にはお尻が痛くなって参りました(笑)。でも、湖をはじめ秘境の風景は信じられないほど美しく、僕にとっても忘れられない思い出になりましたね。ファイナルでは仲間の悲劇に遭遇した亀井の混乱や憤りを表現するため、監督から何回も“エキセントリックに演じて”と言われました。僕には演技の引き出しは3つぐらいしかないんだけど(笑)、それらをこじあけて頑張りました。また、今回はなかなか激しいシーンがあって、とにかく十津川警部がかっこいいんですよ! 僕もアクションに参加したかったんですけど、監督から「必要ない」って断られちゃいました(笑)。
――長年、シリーズを愛して下さったファンのみなさまにメッセージをお願いいたします。
みどころは最初から最後までだと思います。今回だけは5時間ぶっ続けで放送してほしいと思うぐらい、長いロケにもしっかり臨みましたから。とにかく余すところなく、隅から隅まで見ていただきたいですね。