渡辺明棋王への挑戦権を争う第48期棋王戦コナミグループ杯(主催:共同通信社)は、11月17日(木)に挑戦者決定トーナメントの羽生善治九段―佐藤天彦九段戦が行われました。対局の結果、148手で佐藤九段が勝って挑戦者決定二番勝負に進出しました。
佐藤九段の横歩取り△3三桂戦法
先手の羽生九段が横歩取り戦法を採用したところで、後手の佐藤九段が左桂を跳ねたのが意表の一手でした。この横歩取り△3三桂戦法はプロ間でも採用率が低く、佐藤九段としても公式戦で採用するのは初めてのことでした。対する羽生九段は、8月の棋王戦トーナメント2回戦の佐藤康光九段戦で同戦法を相手に戦い勝利を収めています。
△3三桂戦法はこの桂跳ねによって角交換の可能性が低まるため、玉を囲い合う持久戦に向かいやすい傾向があります。佐藤九段としては、研究勝負で決着しやすい青野流などの急戦定跡を避け、おたがいがじっくりと力を出せる作戦を選んだ形です。盤上では羽生九段が中住まい、佐藤九段が美濃囲いに玉を囲って戦いの時を待ちます。
羽生九段が決戦を挑む
横歩取りの持久戦らしく、両者が飛車を中段に構えながらの間合いの計り合いが続きます。羽生九段が3筋に飛車を回って桂頭攻めを見せたときに、佐藤九段が△2三金と上がって数の受けを用意したのが中盤の分岐点でした。この金は戦場から遠ざかる悪形のため、羽生九段としてはこの金を相手にせずに自然な駒組みを続けても不満のない戦いが続きます。
飛車を細かく動かして佐藤九段のもう一枚の金を愚形に導いたあと、羽生九段は突如3筋の歩を突き出して決戦を挑みました。指し手からは、佐藤九段の陣形がバラバラなので大駒の交換に持ち込めれば戦えるという自信がうかがえます。あとに引けない佐藤九段もこの決戦に応じ、一直線の駒の取り合いに進みました。駒割りは飛車と金桂の二枚換えで互角ながら、局面は飛車を手にした実利が大きく佐藤九段ペースで展開していきます。
終盤の難所を佐藤九段が抜け出す
飛車を失った羽生九段は、その見返りとして得た二枚の成桂をジワジワと佐藤玉に寄せて迫ります。美濃囲いを構成する金を取ったあと、反撃を狙う佐藤九段から角取りに桂を打たれた局面が終盤のポイントとなりました。羽生九段としては、素直に美濃囲いに金を貼りついて佐藤玉を危険な状態にしておき、佐藤九段からの攻めに制約を与える指し方が考えられました。羽生九段としてはその後の展開に自信を持てず断念した格好ですが、この直後に玉の早逃げをして駒の入手を待つ指し方が隠されていました。
実戦で羽生九段は、残り40分の持ち時間のうち半分を割いて角を逃げる手を選びました。しかしこの代償として守りの要の金を取られる実害は大きく、この手を境に佐藤九段が再びリードを奪い返しました。羽生九段が戦力不足に陥ったと見た佐藤九段は、自陣に龍を引き付けて体力勝ちを目指します。この構想が勝因となり、その後も羽生九段の反撃を凌ぎきった佐藤九段が最後は羽生九段の玉を寄せきって勝利をものにしました。
勝った佐藤九段は挑戦者決定二番勝負に進み、敗者復活トーナメントからの勝ち上がり者(藤井聡太竜王、伊藤匠五段、羽生九段のいずれか)を待ちます。
水留啓(将棋情報局)