ソフトバンクグループ株式会社は11月11日に、2023年3月期第2四半期の決算発表を行った。第2四半期連結累計期間(2022年4月1日~9月30日の6カ月間)では1,290億円(連結ベース)の最終損失、第2四半期連結会計期間(2022年7月1日~9月30日の3カ月間)では3兆33億円の最終利益(「親会社の所有者に帰属する純利益」という)を計上するまでに持ち直した。
第1四半期決算で計上した、同社史上で過去最大級となる3兆1,627億円(連結ベース)の最終損失(「親会社の所有者に帰属する純損失」という)から一転して、第2四半期連結会計期間の3カ月間でほぼ同額となる最終利益計上となった、その背後で何が起きているのか――会計的観点から説明していく。
四半期会計期間の3兆円に上る最終利益の正体はアリババ株の再測定益
ソフトバンクグループ株式会社が公表している2023年3月期・第2四半期の四半期報告書(PDF)によれば、2022年8月から9月にかけて実施したアリババ株式の先渡売買契約の早期現物決済の結果、アリババに対する議決権保有割合が20%を下回った。これに伴い、アリババがソフトバンクグループの関連会社から除外され、持分法適用対象ではなくなったことで、これに関連する再測定益3兆9,967億円を計上している。これが第2四半期会計期間の利益を押し上げた最大の要因だ。他の損益要因については決算発表のレポート記事に委ねるとして、ここではこの再測定益について説明していこう。
J-GAAPにはない、関連会社株式の再測定というIFRSの会計処理
ソフトバンクグループは国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、IFRS)を適用している。IFRSに引き継がれている国際会計基準IAS(International Accounting Standard)の28号「Investments in Associates」(関連会社への投資)の18項には、次のような規定がある。
On the loss of significant influence, the investor shall measure at fair value any investment the investor retains in the former associate. The investor shall recognise in profit or loss any difference between: (a) the fair value of any retained investment and any proceeds from disposing of the part interest in the associate; and (b) the carrying amount of the investment at the date when significant influence is lost.
大まかに訳すと、次のような意味になる。
投資会社は関連会社に対する重要な影響力を喪失した場合、残存投資を公正価値で測定し、(a)公正価値と(b)簿価の差額を利益ないし損失として認識する。
これが、今回のソフトバンクグループによるアリババ株式売却でも適用された再測定だ。 関連会社株式は子会社株式と同様に、当該会社に対して重要な影響力を行使することで、投資会社が事業の遂行を行う目的で保有するものである。
一方で、日本において一般に公正妥当と認められる会計原則(Generally Accepted Accounting Principles、いわゆるJ-GAAP)の設定主体である企業会計基準委員会(Accounting Standards Board of Japan:ASBJ)が設定する企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」では、15項において次のように規定されている。
関連会社に対する投資の売却等により被投資会社が関連会社に該当しなくなった場合には、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価する。
つまり、J-GAAPにおいては、事業遂行を行う目的で保有する事業投資という側面に着目しているのであって、そのため関連会社株式が売却等により持分法の適用対象から除外された場合も、残存持分を従来の簿価で計上し続ける処理が要求されているわけだ。
IFRSが採るのは、関連会社からそれ以外の株式投資(投資有価証券)に変化したことで投資の性質が変わり、投資が一度清算され、再投資が行われたとする立場である(いわゆる「投資の清算・再投資」という考え方)。一方で、J-GAAPが採るのは、議決権の保有割合が減少して関連会社株式から投資有価証券へ変わろうとも事業投資としての性質は変わっておらず、従来からの投資が継続しているという考え方なのである。
なお余談ではあるが、子会社株式を売却等して連結の範囲から除外された場合についても、IFRSではIFRS10号「Consolidated Financial Statements」(連結財務諸表)のB98項において、次のように規定されている。
If a parent loses control of a subsidiary, it shall recognise any investment retained in the former subsidiary at its fair value at the date when control is lost.
親会社が子会社に対する支配を喪失した場合、残存投資に対して支配喪失日における公正価値で再測定を行う
この規定により、IFRSでは、子会社株式の売却等によって連結の範囲から除外された場合についても、関連会社に対する影響力喪失の場合と同様の処理となっている。