クアルコムがハワイ・マウイ島(現地時間11月15日)で開催しているイベント「Snapdragon Summit 2022」にて、スマートフォンなどモバイルデバイス向けチップセットのフラグシップ「Snapdragon 8 Gen 2 Mobile Platform」を発表しました。

SnapdragonのSoCを搭載する次世代の新しいスマホではどんなことができるのか――。チップセットの特徴とともに解説します。

  • クアルコムのモバイルデバイス向けSoC、最新フラグシップ「Snapdragon 8 Gen 2 Mobile Platform」が発表されました

3年ぶりに世界各国からゲストを迎えたSnapdragon発表会

クアルコムは毎年この時期に世界各国からジャーナリストやアナリストをハワイに集め、Snapdragonの技術セミナーを開催。モバイル向けフラグシップSoCを発表してきました。ただ新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、2020年はオンラインのみの開催、2021年は米国のジャーナリストを中心とするリアル開催でした。2022年は約3年ぶりに、米国外からも大勢の参加者がハワイに集まり賑やかに実施されています。

  • ステージに登壇したクアルコムのクリスティアーノ・アモンCEO

Snapdragonを応援するファンやテクノロジーウォッチャーたちを集めた「Snapdragon Insiders」プログラムは、日本でも2022年秋からスタート。今回のSnapdragon Summitには、米国などから複数名の「Insiders」も参加しています。

  • 世界各国から大勢のジャーナリスト、アナリスト、Snapdragon Insidersが集まりました

Snapdragon 8 Gen 2搭載のスマホは2022年末から登場

次世代フラグシップSoC「Snapdragon 8 Gen 2 Mobile Platform」は、Snapdragon Summit初日に発表されました。5Gの普及拡大に伴い、チップセットの名称から「5G」を省略していますが、最新のAIプロセッサを組み込んだ5G対応のモデムICチップ「Snapdragon X70 5G Modem-RF System」をプラットフォームに統合してます。

Snapdragon 8 Gen 2のチップセットを搭載するAndroidスマホについて、クアルコムは「2022年末から順次商品化が期待される」と見通しを伝えています。海外のメーカーとしては、Xiaomi、OPPO、Motorolaなど日本市場にも端末を展開するブランドが採用に積極的です。シャープやソニーの名前も挙がっているので、早ければ2023年の春夏モデルのスマホでSnapdragon 8 Gen 2搭載機が誕生するかもしれません。

  • クアルコムのSnapdragonシリーズを積極的に採用するスマホメーカーも、最新のGen 2チップに期待を寄せています

最新チップセットのテーマは「AI徹底強化」

Snapdragon 8 Gen 2の特徴は、ひとことで言えば「AIに関わる機能が随所で強化されること」です。

先述のモデムICチップにも、独自の機械学習アルゴリズムによる5Gの高速なスピード、アンテナ感度を安定させて遅延を抑える技術があります。5G通信時に消費される端末のバッテリーをさらにセーブする効果も期待できそうです。

DSPプロセッサの「Hexagon」を中核に、AIエンジンの推論精度もアップ。AIに関連する処理が現行のチップセットから約4.35倍も高速化する計算です。また、Snapdragonのモバイル向けチップセットとして初めて4bit整数精度の演算に対応したことで、AI推論処理時の消費電力が60%ほど効率化されます。

  • Hexagon DSPプロセッサのTensorアクセラレータを強化。AIに関連する処理を大きく向上させています

  • AI関連の処理は現行のチップセットから約4.35倍の高速化。消費電力は約60%抑えられます

その影響は音声入力による自然言語処理の精度・スピード向上にも結びつきます。例えばAIアシスタントのレスポンスをスムーズにしたり、多言語同時翻訳と文字起こしのアプリサービスがより高度化したり、といったユースケースも紹介されました。

被写体のリアリティを高める「セマンティック・セグメンテーション」

Snapdragonのチップセットが搭載する18bit対応の画像信号プロセッサ「Spectra ISP」は、DSPプロセッサの「Hexagon」との連携を深めます。

効果は一例として「セマンティック・セグメンテーション」という機能に反映されます。静止画・動画の撮影時に、被写体を最大8つまでのレイヤーに分割して、それぞれに最適な高画質化処理を行います。

  • 被写体の人物、背景などオブジェクトごとにレイヤーを分けて最適な高画質化処理を行う「セマンティック・セグメンテーション」を実現

例えば人物のポートレートを撮るとき、肌と髪の毛、衣服、メガネといった身に着けているアクセサリー、背景の緑と空などをセグメントに分類しながら、最適なフィルター処理を行います。肌をよりスムーズに美しく見せたり、メガネのレンズでテカりを抑えたり、衣服は質感のディティールを立体的に浮かび上がらせたり、空の青を鮮やかにしたり――といった処理が紹介されました。

  • 肌の写りをスムーズにするなど、色補正やディティール強調と合わせて多彩なフィルター効果を加えられるようになります

この機能をカメラのフルオート処理で実装するか、またはユーザーが自由にカスタマイズできるように開放するかは、端末の味付けしだいということになります。

ソニーとクアルコムの共同開発による高画質イメージセンサー誕生

2021年のSnapdragon Summitでは、クアルコムが米サンディエゴの本社にソニーとジョイントラボを立ち上げ、スマホのカメラ周辺の技術開発を一緒に取り組むことを発表。今回、その成果が明らかになりました。

ソニーセミコンダクタソリューションズは2022年11月7日、モバイル用イメージセンサーの新しいプロダクトブランド「LYTIA(ライティア)」を発表しています。そのLYTIAシリーズに、クアルコムとのジョイントラボから誕生する2つのイメージセンサーが加わります。ひとつは1インチサイズの「IMX989」、もうひとつが1/1.5インチサイズの「IMX800」です。それぞれ、Snapdragon 8 Gen 2に最適化されたイメージセンサーとなります。

  • ソニーとクアルコムの共同開発による、Snapdragon 8 Gen 2に最適化されたイメージセンサー(2種類)が登場します

2つのセンサーはともに、1回のシャッター操作で「空間」と「時間」の両軸をずらしながら4枚の静止画データを記録。Snapdragonのチップとソフトウェアの処理によって、1枚の高精細な静止画へと画像合成処理を行う「Quad Exposure」という新しいHDR技術に対応します。

Snapdragon 8 Gen 2とLYTIAのチップを組み合わせて採用するメーカーは、最新のスマホでこの技術を生かした高精細な静止画・動画撮影が可能になります。2023年、ソニーのXperiaシリーズはこの技術に対応するのでしょうか。

また、Snapdragon 8 Gen 2は、サムスン電子が開発した約2億画素のイメージセンサー「ISOCELL HP3」の膨大な画像情報も扱えるようになります。こちらの組み合わせも、Galaxyシリーズのスマホや、これまで1億画素カメラを積極的に搭載してきたメーカーの次世代スマホがどのように使いこなすのか楽しみです。

動画は8K/60pのHDR再生やAV1コーデックに対応

動画を見たり音楽を聴いたり、Snapdragon 8 Gen 2を搭載する次世代スマホのエンターテインメント周辺にも、さまざまな進化トピックスがあります。

新しいチップセットは最大8K/30fps、4K/120fpsのHDR動画撮影、ならびに8K/60fpsのHDR再生に対応するパフォーマンスを備えています。あとは各々に対応するカメラのイメージセンサーとディスプレイを、いつどんなスマホに載せるのか、各メーカーの挑戦に関心が向けられます。

  • Snapdragon 8 Gen 2がハードウェアによるAV1コーデック対応を実現

Snapdragon 8 Gen 2からは、動画コーデックとして「AV1」を新たにサポート。AV1形式による動画ストリーミングは、Netflixが2020年からAndroidモバイルアプリによる対応を開始したことで、認知が広がりつつあります。

AV1コーデックの特徴は圧縮効率が高いこと。より高画質なHDR対応コンテンツを、多くの通信環境下でスムーズに端末まで届けられます。

音楽体験は空間オーディオやダイナミックヘッドトラッキングに拡大

クアルコムは、スマホやポータブルオーディオによる使用を想定した先端のワイヤレスオーディオの技術をパッケージ化して、「Qualcomm Snapdragon Sound」として2021年春から提供を開始しています。

現在、Snapdragon Soundに対応するスマホと、ワイヤレスイヤホンなどのオーディオデバイスを組み合わせると、最大96kHz/24bitまでのハイレゾワイヤレス再生や、Bluetoothヘッドセットを使ってVoLTEに迫る高品位な音声通話が可能になります。Bluetoothヘッドセットの使用時、モバイルゲームコンテンツの音と映像のズレを解消するゲーミングモードも、Snapdragon Soundのテクノロジーに含まれます。

  • Dolby Atmosやソニーの360 Reality Audioなどの立体音響テクノロジーによる、Spatial Audioとダイナミックヘッドトラッキングにも対応が広がります

Snapdragon 8 Gen 2からは新たに、Dolby Atmosやソニーの360 Reality Audioなどの立体音響体験(Spatial Audio)や、ヘッドホンを装着したユーザーの頭の動きにコンテンツのサウンドを連動させるダイナミックヘッドトラッキングの技術にも対応します。それぞれの体験を最大化するためには、Snapdragon Sound S5/S3 Gen 2の世代にカテゴライズされる、クアルコムの最新Bluetoothオーディオチップを搭載するワイヤレスヘッドホンやイヤホンが必要になります。

Bluetooth LE Audioの動向が見えてきた

今回のSnapdragon Summitでは、米国オーディオブランドのボーズが発売するワイヤレスイヤホン「QuietComfort Earbuds 2」が、近日中のソフトウェアアップデートでSnapdragon Soundに対応することが発表されました。

日本で買えるスマホとしては、ソニーの「Xperia 1 IV」やシャープの「AQUOS R7」などがいち早くSnapdragon Soundに対応しています。QuietComfort Earbuds 2を組み合わせると、aptX Adaptiveコーデックによるハイレゾワイヤレス再生や、aptX LosslessコーデックによるCD音質のBluetoothオーディオ再生が楽しめるようになります。

  • ボーズのNICK SMITH氏もSnapdaragon Soundの豊かな可能性についてコメント。最新のワイヤレスイヤホン「QuietComfort Earbuds 2」のアップデートによって、Snapdragon Soundに対応することを発表しました

Bluetoothオーディオまわりでは、Bluetooth LE Audioがいよいよ2022年末前後に始動しそうです。クアルコムの担当者に取材したところ、現在は中国メーカーが2023年にBluetooth LE Audio対応のスマホと、ワイヤレスオーディオの商品化に向けて準備を進めているそうです。

Snapdragon 8 Gen 2はBluetooth LE Audioベースのロスレスオーディオ再生や、1台のスマホから同時に複数のヘッドセットに対して音声をブロードキャストする「Auracast」にも対応します。デバイスの対応に合わせて、Bluetooth LE Audioのメリットを生かしたどのようなコンテンツが立ち上がるのか注目です。

モバイルゲーミングのグラフィックスも一段とリッチに

Snapdragon 8 Gen 2のチップセットは、Adreno GPUによるレンダリング速度が約25%向上したほか、約45%の省電力化を実現しています。合わせて、Kyro CPUの性能コアと効率コアがそれぞれ約35%〜40%のパフォーマンスアップを果たしたことで、スマホによるモバイルゲーミング体験の可能性はさらに広がります。

  • モバイルゲーミングはレイ・トレーシングのリアルタイム処理精度が向上。一層リアルなグラフィックスが楽しめるようになります

クアルコムは、コンピューターグラフィックスに「光」の効果をリアルに反映したレイ・トレーシングの精度について、Snapdragon 8 Gen 2を搭載する次世代のスマホでさらに向上するとしています。

昨今は価格を抑えたミドルレンジの5Gスマホが伸び盛りですが、2023年はSnapdragon 8 Gen 2を採用する各社フラグシップスマホの競争も熱く盛り上がりそうです。ゲーミングスマホの進化からも目が離せません。