あまり知られていないが、11月15日は「昆布の日」。その昆布の日にちなんで札幌市内で「昆布新聞」が配られた。なんと実物の昆布に印刷された、食べられる新聞だという。なぜ、なんのために昆布の新聞が生まれたのか、そのいきさつを探ってみた。
昆布に印刷するという史上初の試み
この昆布新聞、実は今年11月1日に創刊80周年を迎えた北海道新聞による記念企画、「#北海道をコブしたい」プロジェクトの一環だという。
使用したのは函館の真昆布。卵殻由来の食用インクで直接印刷しており、読み終わったら食べられるようになっている。「読んでも食べてもタメになる」というわけだ。
昆布に印刷するなんて史上初の試み。加工は想像以上に大変だったらしい。企画した北海道新聞東京支社営業局の村上美優さんはこう話す。
「シルクプリントという方法で印刷されています。昆布は波打っているので、一度水分を含ませて平らに加工した上でプリントしています」。
紙面(昆布面?)は2タイプあり、道内向けと道外向け。道内向けは、北海道が誇る昆布の魅力再発見のために、昆布のおいしさや大切さを紹介。
道外向けには北海道産昆布を愛してくれる人々への感謝の思いが記載され、これらは「北海道どさんこプラザ」など道産品を扱うアンテナショップに飾られるほか、かつて北前船での交易があった寄港地の自治体などに贈られる予定だという。
昆布新聞が誕生した背景
「昆布」と「鼓舞」をかけた「#北海道をコブしたい」プロジェクトは、ダジャレ感が満載だが、そこに込められているのは「粘りある取材力で味のある記事を届け、これからの北海道を盛り上げたい」という北海道新聞の真面目な願いである。
昆布は江戸~明治時代に栄えた「北前船」の積み荷として北海道を経済的に支える存在であったこと、また近年は昆布の藻場がCO2の吸収量が多い「ブルーカーボン」として期待されていることからも、北海道の魅力と課題を発信するにふさわしいモチーフとして選ばれたらしい。
当日には、昆布新聞を通じて北海道を盛り上げたいと、北海道新聞本社正面玄関前で限定100部が配布され、サンプリングのスタッフは正面玄関前で気合いを入れて出発宣言。
道行く人に「昆布新聞でーす」と一部ずつ手渡した。受け取った人はもの珍しさに困惑の表情。まさか昆布が新聞社の前で号外のように配られるなんて思ってもいなかっただろう。
本プロジェクトでは、このほかにも札幌駅前通地下歩行空間「チ・カ・ホ」でリアルな昆布を使った交通広告を掲出。
さらに昆布をチャンピオンベルトに模した「コブ巻きベルト」を製作し、ベルトを身に着けた昆布漁師を朝刊紙面で紹介して生産者を応援するなど、さまざまな取り組みを展開している。今後は昆布をテーマにした食育活動なども計画されているそうだ。
ユニークなアイデアで発信された北海道昆布新聞。企画段階では魚に印刷する「おさかな新聞」などのアイデアも飛び出したそうだが、これからは新聞が「紙」とは限らない。情報をどのような素材に載せて手渡すか、新しいチャレンジが楽しみだ。