スーパーのお惣菜と、レトルトご飯&みそ汁で済ませることがザラだった以前に比べて、おうち時間が増えて自炊する機会が多くなった。自炊といっても、ご飯を炊いて、玉子焼きや煮物などの簡単なおかずと、好きな具を入れたみそ汁を作るだけ。だけど和食はシンプルだからこそ、手間をかけた分、旨味とコクが引き立ち、美味しくなる。
料理をどんどん追求していくうちに、和食の基本となる「だし」を自分でとってみたいという欲求が芽生え始めた。そこで、本当に美味しいだしのひき方を学んできました。
教えてくれるのは「にんべん」さん、いわずとしれた老舗のかつお節専門店だ。おだしにおつゆ、本節に削り節など様々な商品を展開しているが、なかでも「つゆの素」は、めんつゆ、天つゆ、煮物、丼ものなど、幅広い料理に使える超ロングセラー。我が家の必需アイテムでもあり、筆者はだし巻き卵やすき焼きの割り下として愛用中。和食の味がビシっと決まるので、いつも大変お世話になっています!
かつお節は、高タンパクでビタミン・ミネラルも含んだ熟成食品
まずは、だしを取る時に使う「かつお節」について教えてもらった。
「かつお節は高たんぱく質なだけでなく、ビタミンやミネラルを含んだ熟成食品です。遠洋で水揚げされたカツオは新鮮なうちに急速冷凍し、マイナス20~50℃で冷凍庫に保管して持ち帰ります。それを解凍し、3枚におろし、さらに背骨と腹側に切り分けるので、カツオ1匹から本節を4本を作ることができます。
それを煮熟し、骨抜きをした後に、コナラ、クヌギ等の広葉樹の薪を燃やして焙乾し、水分を抜いていきます。この焙乾を約1カ月かけて12~15回繰り返し行うと、『荒節』が完成します」(會田さん)。
かつお節には「荒節」と「枯節」があり、荒節を削ったものが「かつお削りぶし」。一般的に「枯節」よりも安価で購入でき、燻した香りがきいているので、お好み焼きなどのトッピングに向いている。
「荒節表面のタール分を削り、カビ付けと天日干しを繰り返し行ったものが、『枯節』になります。カビ付けしたかつお節の方が脂肪が分解されるので、きれいで澄んだだしをとることができます。
にんべんでは、カビ付けと天日干しを4回以上繰り返したものを 『本枯かつお節』と呼んでいます。手間と時間をかけて作られた最高級品の本枯かつお節は、約半年かけて約6分の1の重量になり、魚臭さの少ない芳醇な香りと上品でまろやかな味わいが楽しめます」(會田さん)
専用の削り器で、超久々に「かつお節削り」体験も!
実際に本枯かつお節を削って、かつお節を作る体験もさせてもらった。実家に削り器があり、子どもの頃はもっぱら“削り担当”だった筆者は、久々の体験にワクワクが止まらない。
本節をしっかり持ち、奥に一気に押し出すと、「シャー」と削られて、小気味よい音が響く。テンションが一気に上がり、何度も削りたくなる! 削る時のポイントは、尾っぽの方を斜め上に向けることだそう。
なかなか上手に削れない編集者に、會田さんが木槌をそっと差し出す。
「木槌で削り器のカンナ台を叩くと刃の調整ができます。粉になってしまう原因は、刃の出し過ぎ。カンナ台の上部を軽く叩くと、刃を引っ込めることができます。逆に引っ込めすぎて削れなくなったら、下部を叩くと刃が出てきます」(會田さん)。
かつお節削り経験者の筆者も知らなった! 刃の角度によって削りの厚みを変えられるので、料理に合わせて調整することができるそう。なるほど奥が深い……。
すぐに削りたてのかつお節の香りが充満! 一掴みして味見をすると、ふわっと口いっぱいに旨味が広がり、香りの余韻が後を引く。自分で丁寧に削ったかつお節は、香りも味も格別だ。これがあれば毎日の食卓がもっと豊かになること間違いなし。我が家への購入を検討したくなった。
かつお節のだしは、“静かにゆっくり”とる
さあいよいよ今回の目玉! 美味しいだしの取り方をご教授いただく。
「様々なだしの取り方がありますが、にんべんが推奨している方法は、とても簡単で手軽です。水に対して3%のかつお節で美味しいだしが取れるので、今回はかつお節30gと水1,000mlを用意します。鍋に水を入れ、沸騰したら火を止めて、かつお節30gを素早くパラパラと均一に全て入れます」(會田さん)
「その後は、混ぜることは一切せず、静かに1~2分間待つだけです」(會田さん)。
え、それだけ?? 筆者はだしがよく出るように、かつお節を菜箸でかき混ぜながら、お湯の中でぐつぐつ煮込んでいましたが、間違いだったとは!
「混ぜると雑味やえぐみが出るだけで、美味しいだしはとれません。静かにゆっくり待つだけで、透き通ったきれいで上品なだしになりますよ」(會田さん)
時間になったら、ガーゼやキッチンペーパーなどでこして、出来上がり。だしの良い香りに包まれて、癒される。さっそくお味見してみると、おお、体と心に染み入る滋味深さで、豊かな味わい。渋みやえぐみ、魚臭さも一切なく、後味もすっきり。これは美味しいみそ汁が作れそう。
「これが『一番だし』です。濁りがなく、上品な味わいなので、みそ汁や吸い物にはもちろん、茶碗蒸しやだし巻き卵にもピッタリです。さらに、このだしがらを使って『二番だし』をとることもできます。
だしがらに、最初の半量の水を加えて再沸騰させ、沸騰後に弱火で3~5分煮出した後、仕上げに削り節を4.5~5g加えて1~2分おき、ガーゼやキッチンペーパーでこせば出来上がり。二番だしは香りがやや弱くなるものの、一番だしでひききれないうま味が残っているので、煮物や炊き込みご飯、鍋物などに向いています」(會田さん)
だしがらも捨てずに活用! 「絶品ふりかけ」の作り方
だしをとった後のだしがら。これまで「もったいない」と思いつつも捨てていたが、実はこのだしがらにも旨味と栄養がまだまだ残っているので、自家製ふりかけなんか作れば、最後まで余すことなくおいしく食べられる。これぞサステナブル! そこで簡単にできるだしがらふりかけの作り方も教えてもらう。
「フライパンに水気をしぼっただしがらを入れ、から炒りします」(會田さん)
「水分が飛んだら、しょうゆ、砂糖、みりんを入れ、だしがらと混ぜながら中火で炒め煮します。料理が苦手な方や初心者の方は、調味液を煮立たせた後に、よく絞っただしがらを入れると、味がなじみやすくなります」(會田さん)
「最後に、汁気が飛んだらいりごまを加えて混ぜたら、完成です。お好みで、じゃこや細切り昆布などを加えると、より美味しいふりかけになりますよ」(會田さん)。
これが本当に美味しくて、今までだしがらを捨てていたことを後悔。かつお節の活用法を教えてもらい、実際に自宅で実践し、一番だしでみそ汁を作り、二番だしで肉じゃがを作り、「だしがらふりかけ」をご飯にかけて食べたら、もう立派なごちそうで、ご飯が進む、進む! ふりかけは、お酒のおつまみにもピッタリ。
かつお節がこんなに奥深く、こんなに様々な活用法があったとは。かつお節で、今まで以上に豊かな自炊&晩酌ライフが楽しめそうだ。