藤井聡太王将への挑戦権を争う第72期ALSOK杯王将戦(主催:毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の挑戦者決定リーグは、11月15日(火)に渡辺明名人―豊島将之九段戦が東京・将棋会館で行われ、豊島九段が113手で勝利しました。この結果、リーグ成績は勝った豊島九段が4勝1敗、敗れた渡辺名人が1勝5敗となりました。

豊島九段の大一番は角換わり腰掛け銀に

本局を迎えた時点で渡辺名人はすでにリーグ陥落が決まっています。対して豊島九段はこの将棋に勝ってさらに最終局の羽生善治九段戦でも勝利した場合、同率で羽生九段とのプレーオフに持ち込むことができます。挑戦権の行方を左右する注目の一局は、角換わり腰掛け銀の戦型に進みました。

スラスラと駒組みの手順が続いたあと、後手の渡辺名人が先後同型に誘導したのが用意の作戦でした。角換わり腰掛け銀では、先後同型に進んだ場合は先攻できる先手が有利のため、後手が受けの形を工夫すべきというのが従来からの定説です。渡辺名人のこの堂々たる構えを見た先手の豊島九段は当然とばかりに歩をぶつけて仕掛けていきました。

渡辺名人の注文通りの展開

豊島九段の仕掛けに対し、ぶつかった歩を放置して攻め合いに出たのが渡辺名人の答えでした。仕掛けから数手にしてすべての実戦例を離れ、ここから二人の将棋が始まります。渡辺名人の攻めを見た豊島九段としてはいったん受けに回る指し方も考えられましたが、強く攻め合いに出てこれを迎え撃ちました。

一直線の攻め合いが続き、局面が一段落したところで渡辺名人が指した銀上がりが自慢の一手でした。一見するとわざわざ馬での飛車銀両取りにかかりにいったように見えますが、その場合は飛車を取らせている間に中央の銀を召し取って後手有利になります。形勢は微差ながら、研究を生かした渡辺名人が後手番としては不満のない戦いを展開していきます。

豊島リードの終盤

局面をリードする渡辺名人ですが、豊島九段が手筋の垂れ歩を放った局面で長考に沈みます。思ったほど形勢に差がないことに驚いたか、時おり首を傾げたり頭に手をやったりして方針が決まらない様子です。やがて金を寄って受けに回る手を指した頃には、40分ほどあった渡辺名人の持ち時間は3分にまで削られていました。

その後もジリジリとした押し引きが続き、局面は互角となって終盤戦を迎えます。盤面右方と左方で激しい駒の取り合いが続いたところで豊島九段の玉に先に詰めろがかかりますが、豊島九段は王手成銀取りの手筋で応戦して崩れません。逆に、一分将棋に追われる渡辺名人が王手で打った桂を丁寧に取り切り、続く金打ちで自玉を安全にしたところでようやく豊島九段が一歩抜け出しました。

最後は一手勝ちを読み切った豊島九段が反撃の桂打ちを実現して大勢が決しました。感想戦では終盤の変化を中心に検討が行われましたが、渡辺玉への即詰みの変化もありおおむね豊島九段が有望だったようです。なおコンピューターの評価値上は豊島九段が優勢の時間が長かったように見えますが、それはこの中終盤の手順中、後手が銀を取った手に対して先手の飛車浮きの絶妙手が見えていることが前提となっているので解釈には注意が必要です。

これで勝った豊島九段はリーグ成績を4勝1敗として挑戦に望みをつなぎました。注目の▲羽生九段―△豊島九段戦を含む最終一斉対局は11月22日(火)に予定されています(渡辺名人は抜け番)。

水留啓(将棋情報局)

  • 藤井聡太王将への挑戦権を争う第72期ALSOK杯王将戦(主催:毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の挑戦者決定リーグは、11月15日(火)に渡辺明名人―豊島将之九段戦が東京・将棋会館で行われ、豊島九段が113手で勝利しました。この結果、リーグ成績は勝った豊島九段が4勝1敗、敗れた渡辺名人が1勝5敗となりました。

    羽生九段との直接対決に挑戦の望みを託す豊島九段(写真は第6期叡王戦五番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)