富士フイルムのX-Tシリーズの5世代目となる「FUJIFILM X-T5」(以下、X-T5)が11月2日に発表されました。同シリーズは、Xシステムの中核となるミラーレスのシリーズで、外観はトップカバー中央にEVFを備えるいわゆる一眼レフスタイルとし、操作系にはアナログダイヤルをいくつか用いているのが特徴です。初号モデル「X-T1」の発売は2014年で、以来2年ごとにモデルチェンジを行ってきています。
私、大浦タケシはこれまで「X-T2」と「X-T3」を業務用および作品撮り用として愛用してきた経緯があり、X-T5の登場には正直いろいろと思うところがあります。今回、実機を手にしてのファーストインプレとして、いくつか記してみたいと思います。
背面液晶の3方向チルト式への変更は評価できる
まずは、メーカーみずからX-T5を“写真機”と謳うように、本来の静止画撮影主体のカメラへと軸足を置いたところに、写真を撮ることを生業とし、また長年趣味とする者として、とても嬉しく思うところです。
その証の象徴といえるのが、上下方向および縦位置撮影に対応する右方向に開く3方向チルトタイプの液晶モニターの採用です。これは、X-T2およびX-T3で採用されていましたが(X-T1は上下方向のみ)、X-T4では動画にこれまで以上に重きを置いたため、動画撮影に有利といわれるバリアングルタイプの液晶モニターになってしまいました。
チルトタイプの液晶モニターがなぜ静止画撮影に適しているかというと、液晶モニターの基本的な位置はどの方向に向けた場合でもほぼ光軸上にあることです。光軸上にあれば、画面の傾きなど直感的に、しかも素早く調整が可能なのです。ハイアングル撮影で腕を伸ばした状態の時、ローアングルで上から液晶モニターを覗き込んだ時に加え、三脚を使用した時など、バリアングルにくらべ直感的にカメラの傾きなどが調整でき、カメラが構えやすく思えるはずです。また、バリアングルタイプと異なり、カメラの左側に液晶モニターが張り出すこともなく、さらにカメラボディと液晶モニターとをつなぐヒンジがないため、見た目がすっきりするのもメリットといえます。
確かに、バリアングルタイプですと液晶モニターの動きの自由度は高いですし、収納時にはディスプレイ面をカメラ側に向かせられるため、キズや汚れの付着を抑えることはできますが、写真を撮るという観点から見た場合、光軸から大きく外れることのないチルトタイプのほうが有利なのです。ちなみに、X-T4が発表されたとき、なぜバリアングルモニターにしたのか同社の開発担当者に聞いたのですが、やはり動画撮影を意識したものであるとのことで、写真愛好家として大いにがっかりした記憶があります。
直感的に操作でき、設定状態もカメラのON/OFFに関わらず常時確認できるアナログ表示のダイヤルをこれまでどおり継承しているのも注目です。このまま動画寄りになっていけば、「X-H2/X-H2S」のようにアナログダイヤルは撮影モードダイヤルぐらいしか残らないのではと思っていたので、嬉しく感じます。主観となりますが、アナログ表示のダイヤル類は見た目にもカメラらしく感じられます。同様に、カメラ前面部にあるフォーカスモード切り替えレバーについても、X-Eシリーズと同様になくなるかもと思っていたので、残されたのはある意味驚き。フォーカスモードを切り替えるたびにメニューに入らなくて済み、直感的で素早く設定が行えます。さらに、アナログ表示のダイヤルと同様に設定状態がひと目で分かるこのレバーは、ユーザーフレンドリーと述べてよいでしょう。
ボディサイズがX-T4より小さくなり、X-T3以前のようなタイトで凝縮感のあるものとなったのも好感の持てるところ。特に、EVFを覆う“ペンタカバー”のシェイプは、X-T4の鈍重で間延びしたような感じもわずかですが改善され、スマートになったように思えます。ちなみにサイズと質量は、X-T4が134.6×92.8×37.9mm(幅×高さ×奥行き)、607gであったのに対し、X-T5は129.5×91.0×63.8mm(同)、557gとなります。数字的には大きく変わらないように見えますが、実物を見比べると大きさ、重さともその差は小さくありません。ちなみに体積比では、メーカー公表値でX-T5はX-T4の5%減となるそうです。
センサーの変更、被写体検出AF、手ブレ補正の強化もうれしい
もちろん、カメラとしてキーデバイスの進化も見逃せません。なかでも、APS-Cフォーマットとしては圧倒的な有効4020万画素の裏面照射型「X-Trans CMOS 5 HR」センサーは、トピックとして外せないところ。マルチショットを除けば、これまでフルサイズや中判デジタルでしか得ることのできなかった解像度が、コンパクトなX-T5で得られる――そう思っただけでワクワクしてしまいます。もちろん生成する画像は、フィルムシミュレーションによる富士フイルムならではのもの。このカメラと単焦点レンズ2、3本を携えてどこかに行きたいと思ってしまいます。
より高速となったAFですが、被写体検出機能を新たに搭載したのも目新しく思えるところです。これは、X-H2/X-H2Sにも搭載されているものですが、動物/鳥/クルマ/バイク・自転車/飛行機/電車をAIで検出し、補足し続けます。撮影者はシャッターチャンスやアングルに集中すればよく、これも静止画撮影に重きを置いた機能といえます。
最高シャッター速度については、メカシャッターの場合従来と同じ1/8000秒ですが、電子シャッターでは1/18000秒を達成。加えて、ベース感度はこれまでのISO160からISO125となり、明るい屋外などで大口径レンズを絞り開放で撮影を楽しむことをより容易としています。Xシリーズは魅力的な大口径レンズが揃っているので、見逃せない機能といえるでしょう。
また、最大補正効果6.5段から7段へとアップした5軸ボディ内手ブレ補正機構の搭載も、静止画撮影では心強い味方となるはずです。カードスロットは、SD/SDHC/SDXC対応のダブルスロットであることはX-T4と変わりはありませんが、今回一方をCFexpressとしなかったのも静止画撮影を楽しむユーザーを意識したものといえそう。というのも、CFexpress はその記録速度などから動画撮影に向いていますが、SD/SDHC/SDXCカードに比べかなり高価ですし、新しいメディアであるためこれから買い揃えなければならない人も少なくありません。写真愛好家であれば誰しもが複数枚は所有しているSD/SDHC/SDXCカードでダブルスロットとしたほうが利便性が高いだろう、という判断からだと思います。
露出補正ダイヤルの位置には疑問あり
手放しで喜べないところも正直あります。それは、露出補正ダイヤルの位置。以前から気になっており、レビューなどでも指摘してきているのですが、これまでトップカバーの縁と同ダイアルの側面がX-E4や「X100V」のように“ツライチ”となっておらず、カメラを構えた右手親指だけによる瞬時の操作は困難なものでした。メーカーはX-T5では改善したと発表していますが、タッチ&トライで現物を触ると改善の様子は正直見られず、試してみるとこれまでどおり。私たちを相手してくれた係員(富士フイルムの社員)にもやってもらいましたが、やはりスムーズにできません。あらら、という感じです。
実は、露出補正ダイヤルがトップカバーの側面からちょっと奥まったところに置かれたのは、あるプロの写真家の意見からということを、X-T3とX-T4のそれぞれの発表時に当時の開発担当者から伺っています。理由は、露出補正ダイヤルが動かしやすい位置にあると、ちょっとしたことで勝手に動き、知らぬうちに露出が変わってしまうからということでした。しかしながら、EVFを備えるミラーレスであれば、露出の状況はファインダーを覗いた瞬間に分かりますし、スタジオなどで大型のストロボを使用した撮影の場合、基本マニュアル露出なので露出補正ダイヤルは関係ありません。そのようなことよりも、前述のように露出の状況がリアルタイムに分かるミラーレスでは、直感的に素早く露出補正ができることのほうが優先されるように思えてなりません。思いつきのような“プロ写真家”の発言を真に受けるよりも、メーカーはもっとユーザービリティを真剣に考えてほしいところです。
最後に少し厳しいことを書きましたが、もちろん総合的には期待のほうがそれを大きく上回ります。X-T5の発表記者説明会で「静止画撮影スタイルの原点に立ち返る」と同社からの発言があったときには気持ちが高揚しましたし、それは今でも続いています。何より、そのようなバイアスが私の気持ちにかかってしまったのか、どこかよりカメラらしくなったような気がしてなりません。手元に置きたいカメラとして、今すごく心が揺れ動いていおります。
【追記】11月8日(火)にX-T5の予約が量販店やカメラ店などで始まりました。もちろん、私も予約したことは言うまでもありません。