アナログとデジタルの粘土をそれぞれ使って「自分だけの虫」をつくる、親子参加型の特別教室が「海洋堂ホビーランド」(大阪府・門真市)で開催されました。
海洋堂ホビーランド造形スタッフと3DCGアーティストを講師役に迎え、立体造形モデルをアナログとデジタルの両方でつくるというプログラムをレポートします。
海洋堂の造形師が直接教えるワークショップ
今回開催された特別教室は、小学生を対象に親子で参加するスタイル。前半はアナログ粘土で虫を作り、後半はその虫を3D制作ソフトによるデジタル粘土でも作るという、アナログとデジタルを組み合わせたプログラムになっているのが大きな特徴です。
デジタルパートは過去に紹介した「みらいのおねんど教室」を主催するSonoSakiが担当し、アナログパートは精密なフィギュアの企画製作で知られる海洋堂が担当するという豪華な内容。
前半と後半でそれぞれ2時間ずつ、計4時間という長丁場にもかかわらず、10組ずつ2回に分けて行われた教室の参加募集枠はあっという間にいっぱいになったそうです。
会場となった「海洋堂ホビーランド」は、2021年6月にオープンしたばかり。これまで海洋堂が手掛けてきた貴重な作品や宮脇修館長らが集めた、ここでしか見られないコレクションなどが約1万点公開されています。
造形の仕事は手作業も大切ですが、今後はデジタルの活用も不可欠になるということから、SonoSakiとのコラボによって、アナログとデジタルの両方の造形を一緒に体験できるプログラムを企画しました。
もう一つの特徴として、SDGsを講座のテーマに加えています。アナログパートで使う粘土に、廃棄される規格外野菜などの天然素材でできた、遊んだ後は土に埋めると植物の栄養になる「未来のワクワクねんど」を採用。粘土を開発したインセクトランドが虫をキャラクターにしていること、また身近な存在であるということから、造形物のテーマに「虫」が選ばれました。
まず前半はそのアナログ粘土を使って、写真や絵をモデルにしながら虫を作っていきます。作業をはじめる前に造形師の仕事について紹介し、どのように虫を立体物として作っていくかなどを説明しました。
会場には仕事で使う資料や立体モデル、造形に使う道具などが用意されており、子どもたちはそれらを観察したり実際に使ったりしながら、自由な発想で手を動かして作品を作りあげていきます。
講師役を担当した海洋堂ホビーランド スタッフの藤巻嶺さんは、海洋堂に入社する前は日本画の画家として芸大の入学を目指す学生を指導した経験があったそう。「小学生を相手にするのは初めて」と言いながらも、わかりやすく丁寧な指導で子どもたちをサポートしていました。
参加者は低学年から高学年まで幅広かったので、一緒に教えるのは難しいのではないかと思いましたが、子どもたちの集中力にはすごいものがありました。自分たちのペースで作品に取り組み、講師役のスタッフや親御さんが手伝うところもありながら、全員が時間内に作品を完成していました。
デジタルのみならず、生物の分類も解説する本格的な授業
後半のデジタルパートは、みらいのおねんど教室の先生として活動している戸田かえでさんを講師役に、プログラムを虫のテーマにアレンジした内容で進行されました。
ここでも、最初にデジタル造形の仕事がどういうものかを知ってもらうため、戸田さんが参加した国立科学博物館の特別展での仕事を紹介。次に、生物の分類や虫とはどんな生物なのかについて、大人も一緒に学べるようにくわしく解説しました。
続いて、デジタル粘土の制作は、ハリウッド映画やゲーム、フィギュア、医療などの業界で使われている3D制作ソフト「ZBrush」がインストールされたハイスペックなノートパソコンと、プロ向けのペンタブレット「Wacom Intuos Pro」を使います。
基本操作を教えたあとは、ときどき質問をするぐらいで、子どもたちはどんどん作業を進めていきました。
参加した子どもたちの多くは「最初は手間取ったけど、操作するのはそんなに難しくなかった」とコメント。家にパソコンがあるか無いかというのはあまり関係なく、デジタル機器の操作には慣れていて、ソフトウェアで作った作品が3Dプリンタで出力できることも理解しているようでした。
プログラムの締めくくりに、参加した子どもたちはそれぞれの作品について一人ずつ発表を実施。短い時間とは思えないほど、しっかり作品が仕上げられていたことに驚かされました。
ものづくりの関心を高める「体験の場」を提供
参加した親子に今回の特別教室に参加した理由を聞いたところ、海洋堂のメールマガジンやSNSで告知されたイベントの開催案内を「子ども自身が見つけて親にお願いするパターン」と、「親が知って子どもに勧めるパターン」の両方がありました。参加理由はどうあれ、どなたからも共通して、「アナログとデジタルは関係なく、手を動かして何かを作りたかった」という声が多く聞かれました。
また、仕上げた作品を両方とも成果物として持ち帰れること(3Dプリンタの出力品は後日郵送)や、会場で海洋堂の展示を見られることも参加の理由になっていたようです。ものづくりに関心のある子どもたちにとって実際に手でふれて、見て、感じられ、手元にも成果が残る、貴重な体験の機会になったのではないかと感じました。
海洋堂の藤巻さんが「小学生はまだ技術がないけれど発想力でハッとさせられることがあり、勉強になりました」とコメントされていたのも印象的でした。
海洋堂の関係者は「今後も機会があれば、造形に関するワークショップを開催したい」と話しており、11月に高知県の海洋堂スペースファクトリーで開催される「高知アニメクリエイター祭」でも、みらいのおねんど教室の実施を予定しています。
アナログとデジタルのコラボが、未来のモデラーの育成とクリエイティビティにどんな影響を与えるのか、今後の活動にも注目したいところです。