アウディは「クルマの電動化」に積極的な自動車メーカーで、2026年までに新型車をすべて電動化し、2033年には内燃エンジンの生産を停止すると宣言している。ただし日本については、充電インフラ整備の遅れなど、EV(電気自動車)ビジネスをフルに展開するにはまだまだ厳しい状況にあるとの見方だ。

そこでアウディ ジャパンでは、「持続可能な社会の実現について、一人ひとりが考えるきっかけの場を作る」ことを目的とした「アウディ サステナブル・フューチャー・ツアー」を企画。今回は2回目となる同ツアーに参加し、岩手県八幡平市でサステナブルな取り組みを行う現場の状況を見てきた。

新幹線盛岡駅を隊列を組んでスタートしたのは、アウディEVのフラグシップである「RS e-tron GT」(最高出力646PS/最大トルク830Nm)、2台の「e-tron GT quattro」(540PS/640Nm)、6台の「e-tron 55 スポーツバック」(408PS/664Nm)、そして最新モデルとなる1台の「e-tron S」(ブースト時503PS/973Nm)だ。10月の清涼な空気に包まれつつ、少し紅葉が始まった八幡平周辺の道路を10台もの最新BEVが音もなく進んでいく車列の様子は壮観だった。

  • アウディ サステナブル・フューチャー・ツアーの様子

    アウディのEV軍団が岩手を駆け巡った(本稿の写真は撮影:原アキラ)

アウディのEVで岩手ツアーへ

最初に訪れたのは、「ノーザングランデ八幡平」というサステナブルな料理を提供するレストラン。メニューは野菜サラダやマッシュルーム、温泉たまご、フランス赤鶏のトマト煮込みといったもので、のちに紹介する同市の地熱を利用して生産されているのだそう。しっかりとエネルギーチャージを行った後、八幡平のワインディングに向かった。

  • アウディ サステナブル・フューチャー・ツアーの様子

    この料理にもサステナブルな取り組みが?

「アスピーテライン」を標高1,000メートル付近まで一気に登った先にあったのは、日本では22年ぶりとなる2019年に新規稼働を果たした「松尾八幡平地熱発電所」だ。あたりには冷却棟の煙突から噴き出す真っ白な水蒸気の煙と硫黄の匂いが漂い、箱根や別府の温泉地を訪れたような気分になる。

  • アウディ サステナブル・フューチャー・ツアーの様子
  • アウディ サステナブル・フューチャー・ツアーの様子
  • 松尾八幡平地熱発電所

説明によると同発電所は発電出力7,499kW、送電電力7,000kWを地熱によって発電している。発電量は一般家庭1.5万戸分に相当し、立地場所の八幡平市なら1.1万世帯すべての家庭を賄うことができる規模とのことだ。地熱蒸気によって造成される温水については、最大8m3/hを付近の温泉や病院に供給している。発電所の建屋は周辺にある建物や屋根と同色とし、道路から5m以上離れた場所に建設して解放感を出すなど、景観にも配慮したそうだ。

ところで、日本ではなぜ地熱発電がそれほど普及していないのか。あちこちに温泉のある日本には地熱エネルギーがふんだんにありそうなものなのに……。理由としては初期投資として6億円以上の費用がかかり、調べてみて発電に不適切となった場合は回収できないこと、それと、多くの場合は候補地の近くに温泉街があり、発電所を誘致してしまうと温泉が出なくなるのではという地元の心配もあって、簡単には了承を得ることができないといった事情があるのだそうだ。

マッシュルームと競走馬の関係とは?

次の訪問地は、北東北で唯一のマッシュルームファームとして稼働している「ジオファーム八幡平」。ここで生産されるのが、最初に訪れたレストランで食べた「シャンピニオンドパリ」(真っ白で丸い形のマッシュルーム)だ。ファームの立ち上げは2013年、生産開始は2017年だったという。

  • アウディ サステナブル・フューチャー・ツアーの様子

    マッシュルームのシャンピニオンドパリ

敷地内でまず対面したのは、ずらりと並ぶ馬小屋と40頭の元競走馬たち。馬とマッシュルーム生産がどう結びつくのかというと、話は17世紀のフランスにさかのぼる。当時の植物学者が馬屋の敷き藁からマッシュルームを発見したことから、馬厩肥を使った人工栽培の方法を確立。ナポレオン1世の時代にはパリの地下空間で大々的に栽培していた伝統的方法だというから、同ファームのルーツはフランスにあったということだ。

  • アウディ サステナブル・フューチャー・ツアーの様子

    なぜ馬?

ジオファーム八幡平で行っているのは、食べた牧草が荒い状態で排出(つまり馬のフン)された厩の敷き藁→地熱を利用してそれを堆肥化→作り出した土を利用してマッシュルームの栽培に使用→廃菌化して通常の堆肥化→ファームで生産する麦や稲、牧草栽培のための有機肥料へという、まさに循環型農業の見本のようなもの。馬本来の生態系にある仕組みを利用することで、競走馬のセカンドライフとして産業を創出するという自活の場所にもなっている。

訪問の最後では2頭の馬とe-tornをバックに記念撮影を行ったのだが、考えてみると馬は計2馬力、一方のクルマは400馬力オーバーというなかなか面白い組み合わせだ。単純計算だが、ここにいる40頭の馬たちの総合出力が40PS(馬力)であるのに対し、訪問したEV10台の出力を合計すると4,677PSにもなる。

  • アウディ サステナブル・フューチャー・ツアーの様子

    かたや2頭で2馬力。かたや1台で400馬力オーバー

頂上に雲がかかった岩手山に夕日が差す頃に訪れたのは、「農(みのり)と輝(ひかり)の大地」を将来像に掲げる八幡平市の佐々木孝弘市長が待つ同市役所。日本国内でのエネルギー資源と地熱発電の研究を行うJOMECの鈴木杏奈委員、地元東北大学の4人の学生さんたち、マティアス・シェーパース アウディ・ジャパン・ブランドディレクターが、「未来共創ミーティング」と題した産官学の対談に臨んだ。ここでは参加者それぞれが未来へ向かう取り組みを発表するとともに、日本の再生可能エネルギーの重要性とその活用について意見交換を行った。また学生からは「アウディと地熱はどう結びつく?」「EVとしての魅力はどんなところ?」など積極的な質問が投げかけられた。

ミーティングの最後には、アウディの目的地用充電器「ディスティーネーションチャージャー」を寄贈。同市内を訪れるEVに電力を供給することを約束した。アウディ ジャパンはこの企画を今後も継続し、持続可能な社会の実現の重要性について積極的な発信を行うとしている。