まずベースライン条件では、2人の歩行者はすれ違うまでの間に自発的に歩行の速さと方向を協調させていることが判明。あらかじめ実験的な指示などはなかったにもかかわらず、2人の歩行者は動きやタイミングを合わせることで滑らかなすれ違いを実現したという。
相互予期介入条件では、上述の協調の程度が著しく低下。相互予期が運動協調に重要であることが示されたとする。そして相互注視介入条件では歩行者の振る舞いは、ベースライン条件からほぼ変化がなく、「歩行者は視線から相手の運動方向を推定する」とする仮説は支持されない結果となった。
また視線分析の結果から、相互予期介入条件ではベースライン条件に比べ、歩行者は対向者の身体を有意に長い時間見ることが確認された。歩行者は相手の動きの不確実性故により強く視覚的注意を向けたことが考えられるという。つまり、スマホ歩きによって注意を逸された歩行者は、ほかの歩行者の注意を逸らしているといえるとした。その影響は、動ける範囲が制限される人混みの中を歩く際には一層大きくなることが考えられるとする。注意を逸らされた歩行者の影響は間接的に周囲に伝播していき、その結果、集団全体の秩序を妨げるに至ってしまうことが考えられるという。
さらに歩行と視線の両方を合わせて調べた結果、歩行者は将来すれ違う方向を(身体がその方向へと向かうよりも前に)あらかじめ視覚的に探索する傾向があることも明らかにされた。さらなる実験が必要としたが、もし将来取り得る運動の方向が(実際にその運動が実現される以前に)視線の動きに現れているのならば、同じ未来の情報がほかの身体の動きに現れていてもおかしくないという。
他者の身体の一部または全部の動作のわずかな違いから運動の意図を読み取れることが知られており、歩行者においても、身体動作全体から未来の運動を暗黙的に交渉し合うことで、互いの運動を協調させている可能性があるとした。
今回の研究成果では、見ず知らずの人同士がいわば即興的に、いかに協調して振る舞えるかが示されただけでなく、それに必要な感覚情報処理の候補に新たな知見を与えるものと研究チームでは説明しており、人やそのほかの動物の相互予期の理解を促進し、人の即興的な振る舞いの研究や、歩行者交通、ロボットナビゲーションへの貢献が期待されるとしている。