京都工芸繊維大学(京工繊)、東京大学(東大)、長岡技術科学大学(長岡技科大)は11月11日、2人が向かい合って歩きすれ違う実験を行い、歩行者が互いに動きを読み合うことで自ずと運動の協調が生じることを明らかにしたと発表した。
同成果は、京工繊 情報工学・人間科学系の村上久助教、同・都丸武宜研究員、東大 先端科学技術研究センターのフェリシャーニ・クラウディオ特任准教授、長岡技術科学大学 技学研究院 情報・経営システム系の西山雄大准教授らの研究チームによるもの。詳細は、物理・生命科学・地球科学などの幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「iScience」に掲載された。
歩行者の行動は単にほかの歩行者の現在の位置ではなく、その予期される未来の位置に強く影響を受けることがわかってきている。しかし、実際に歩行者同士の協調があるのか、それがどの程度なのか、まだわかっていない部分も多いという。
また、歩行者がどのような視覚情報を用いて相互作用しているのかも完全には理解されていない。「視線から相手の運動方向を推定する」とする仮説があるが、それを支持する結果と支持しない結果の両方が得られているとする。その一因としては、視線を巡る歩行者研究の多くがVRを使った実験であることが挙げられたため、今回の研究では、実験参加者に3つの条件下で実際に向かい合って歩いてもらい、歩行と視線両方の軌跡を追跡することで、相互予期の運動協調での効果を実験的に検証することにしたという。
実験条件は、通常歩行のベースライン条件、相互予期介入条件、相互注視介入条件の3つが採用された。まず、2人のうち一方に眼鏡型アイトラッカーを装着してもらうことで視線の動きを計測。もう一方の歩行者には条件に応じて追加課題として、歩行中にスマートフォンを用いて計算問題を解くこと(スマホ歩き)が与えられた。
スマホ歩きについては、歩行者の視野が狭まり周囲環境への視覚的注意が著しく低下するため、相互予期の実験的阻害に使用できることがわかっている。ただし、スマホに目を向けるとき、歩行者同士の視線のやり取りも困難になってしまうことから、相互注視介入条件では、視線のやり取り自体が歩行者相互作用に与える影響を調べるため、歩行者がミラーサングラス(外から見るとレンズ部分が鏡のように見える)を掛けて歩くことで視線のやり取りをブロックして行われた。