ヤマハ発動機では安全ビジョン「人機官能×人機安全」をキーワードに、事故のない社会を目指すとしている。都内で11ガツ11日に開催された「安全ビジョンおよび技術説明会」では、登壇した代表取締役社長の日髙祥博氏が「ヤマハ発動機でも2050年の死亡事故ゼロを目指しています。ライダーには二輪車を楽しんでもらいつつ、ともに事故のない社会を実現できる取り組みを進めていきたい」と説明。
メディア向けに、先行車との相対速度に応じてブレーキ配分などを調整する新開発のシステムや、他車と無線通信で連携する道路交通システム、超低速でも転ばない二輪安定化支援システムなどを披露した。
■事故のない社会を目指す「人機官能×人機安全」
ヤマハ発動機では1955年の創業当初より、安全に「走る・曲がる・止まる」ことを追求してきた。YAMAHAブランド初の二輪車となった「YA-1」について、日髙社長は「その設計段階から、当時の最新技術を用いて走る・曲がる・止まる、を追い求めました。その姿勢は車両づくりの礎として、今日まで開発現場に生き続けています」とアピールする。
1969年には「原付免許教室」を通じて安全運転の啓発活動を開始。これは現在、世界76カ国で実施されているYRA(ヤマハライディングアカデミー)の活動につながっている。しかし世界に目を転じてみれば、今なお二輪の死亡事故は微増傾向にある。日髙社長は、主要34カ国の交通事故死者数の推移を紹介しながら「お客様とともに事故のない社会を目指す取り組みをしていかなければ、これを減少させることはできません」と話す。
ヤマハ発動機では2030年に向けて長期ビジョン「ART for Human Possibilities」を掲げている。その構成要素のひとつ、Transforming×Mobilityではモビリティに関わるさまざまな社会問題の解決と変革を目指している。
ここで、安全ビジョン「人機官能×人機安全」が発表された。
「人機官能」は、ヤマハ発動機が独自の開発思想として掲げるもの。「人と機械が連携しなければ事故は防げません。人と機械を高い次元で一体化させることにより、人の悦び・興奮をつくり出していきます」と日髙社長。そして「人機安全」では、人と機械が共に成長して関係性を高めることで、相互作用により高度な安全を実現すると説明する。
「人機官能×人機安全」は、認知・判断・操作・被害軽減をアシストする「技術」、お客様の安全に対する知識・経験の獲得や運転技術の向上をアシストする「技量」、クラウドと人と機械のつながりを圧倒的に増やして、人・機への安全フィードバックをアシストする「つながる」という3本柱から構成される。
日髙社長は「ヤマハ発動機は、技術・技量・つながるを軸にした安全をもとに、ユーザーが楽しみながらその能力を高められることで得られる悦びや感動を提供し、お客様とともに事故のない社会を目指します」と結んだ。
■運転支援の実現に向けて
続いて、技術・研究本部長の丸山平二氏が登壇し、二輪車の安全運転技術について紹介した。
二輪車が関連する事故の原因は、二輪ライダーの過失が3割、四輪ドライバーの過失が5割以上を占めている。このことから「まずは二輪ライダーの認知、判断、操作に関するミスをなくすことに取り組まなければなりません」と丸山氏。それと同時に、四輪ドライバーからの二輪の非認知性を改善していく。「四輪ドライバーにしてみると小型の二輪は見つけにくく、かつ遠くに見える傾向があります。それが事故の大きな要因になっています」(丸山氏)。
さらに二輪事故は、そのきっかけが起きてから2秒以内に発生していると指摘。「この短い時間のなかで、事故を回避するために適切な操作を行うことは容易ではありません。運転支援技術でライダーを支えることが非常に重要であると考えています」とする。
そこでヤマハ発動機では、運転支援に関して4つの考え方を定めた。すなわち、危険を予知して運転ミスを防ぐアシスト、四輪ドライバーの認知・判断ミスを防ぐアシスト、事故のきっかけが起きてしまったときの緊急回避運転に関するアシスト、事故が避けられないケースにおける被害軽減のアシストだ。
運転支援を実現するため、さまざまな観点から開発を進めている。たとえば、世界初のミリ波レーダーを使った「レーダー連携ユニファイドブレーキシステム」では、先行車との相対速度に応じて前輪・後輪のブレーキ配分、および前後サスペンションの減衰力を調整し、速度を減少させるとともに安定性を保つ。またアクティブクルーズコントロール(ACC)により低速巡航・減速・加速を自動的に行い、「接近し過ぎる可能性がある」と判断された場合にはブレーキを追加するアシストも考えられている。
協調型高度道路交通システムは、二輪車メーカー、大学、交通安全研究機関、業界団体、ユーザー団体など18団体が加盟するConnected Motorcycle Consortiumで進められている取り組み。V2Xの無線通信により、乗用車やオートバイがお互いの位置、速度情報を交換し、接触事故を未然に防ぐ。たとえば直進するトラックをやり過ごしてから右折しよう、と考えている乗用車のディスプレイに「オートバイが接近している」とポップアップを表示。トラックの背後を走るオートバイとの接触事故を回避させる。
丸山氏は「メーカーを問わず、二輪車、四輪車、バス、トラック、インフラなど繋がらないと抑止効果は期待できません。そこで普及促進のため、ヤマハ発動機では本田技研工業、BMW Motorradと共にConnected Motorcycle Consortiumを2016年に設立しました」と説明する。
そしてAdvanced Motorcycle Stability Assist System(AMSAS、二輪安定化支援システム)も紹介した。時速5km以下の超低速でも車両を安定化させるアシスト技術だ。「駆動力と操舵力の制御機能を搭載することにより、バランス取りを支援します。まだ研究開発の段階ですが、今後さらに進化させ、事故のきっかけが起きて緊急回避が必要となった場合にも、走る、曲がる、止まるといった回避操作を安定して行えるようにしていく考えです」(丸山氏)。
安全教室の拡充も続けている。ライダーごとに運転状態を分析し、技量向上のポイントをフィードバックする体験型安全プログラム「Yamaha Riding Feedback System」、スマートフォンなどで視聴できるオンデマンド型安全プログラム「マイクロラーニング」などの取り組みを通じて安全運転を啓発する。
このほか、クラウドと連携することで交通事故の潜在意識を通知する事故回避アシストの実現を目指している。すでにスマートフォンアプリ「Y-Connect」で故障通知、メンテナンス推奨時期のお知らせなどを行っているが、今後はライダーの状態推定、気象状況、道路情報など環境の状態推定ができるデータを集積・分析して、ライダーにフィードバックすることでヒューマンエラー起因の事故、環境起因の事故の削減を目指していくとしている。
このあと、日髙社長、および丸山氏はメディアから寄せられる質問に回答した。AMSASの開発状況について聞かれた日髙社長は「これまで、ずっと『転ばないバイク』を夢見てきたんですが、だいぶ近づいたような気がします。AMSASはドライバーが『危ない』と思ってフルブレーキをかけたとき、うまくバランスをとってくれ、低速化した後で安全に止まってくれる技術です。時速5km未満なら常に動作するため、初心者ライダーのかた、またベテランライダーでも疲れているときなどにしてしまう”立ちゴケ”を防ぐ効果も期待できます」と回答する。
また開発中の二輪向けエアバックについて聞かれた丸山氏は「四輪の場合は乗員がシートベルトで拘束されていることを前提に開発できますが、二輪の場合は事故時、ライダーが車両から離れてしまいます。そこでエアバッグが果たす役割も変わってきます。たとえば人が飛ばされたとき、ワンクッションになることで怪我を軽減する、といったように。車両の形態、搭載スペースがどのくらいあるかによっても効果が変わってくるでしょう。そこで、まずは効果が期待できる車種から搭載ということになりますが、どういった国や地域で、提供時期はいつ頃、といった質問には現時点ではお答えできません」と回答するにとどまった。