第81期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)5回戦は▲佐藤天彦九段―△斎藤慎太郎八段戦が11月11日(金)に関西将棋会館で行われ、86手で斎藤八段が勝利しました。この結果、今期順位戦の成績は勝った斎藤八段が3勝2敗、敗れた佐藤九段が1勝4敗となりました。

矢倉の流行形に

先手となった佐藤九段は矢倉囲いの構築を目指しました。これを見た斎藤八段は自玉をカニ囲いの簡素な構えに囲ったあと、角筋を通したまま右桂を活用して攻撃陣の拡充を急ぎます。ここまでは昨年12月に指されたA級順位戦での両者の将棋も同様の序盤戦となっており、本局ではどちらが新たな工夫を見せるのかに注目が集まりました。

佐藤九段が25手目に飛車先の歩の交換に出たことで、本局は先述の実戦例を離れました。自玉の守りを優先して斎藤八段からの先攻を許した経験を省みて、本局の佐藤九段は右銀を素早く繰り出す速攻を目指します。これに対し斎藤八段は予定通り桂を跳ねて銀取りをかけ、攻め合いの姿勢を見せました。

中盤の分岐点

斎藤八段からの銀取りをいったん放置した佐藤九段は、初志貫徹とばかりに右銀を前進させて棒銀の要領で飛車先突破を狙います。局面は、佐藤九段が繰り出す右銀の攻めと斎藤八段が5筋に打った垂れ歩のどちらが厳しいかが焦点となりました。一手一手の価値が高い中盤の難所に両者長考が続き、40手目まで進んだ段階で時刻はすでに17時を過ぎていました。

激しいやり取りが一段落した44手目の局面は、本局の中盤におけるひとつの分岐点でした。後手の斎藤八段としては先に打った垂れ歩を5筋で清算して、銀桂交換に導く指し方も有力でした。この変化を選んだ場合、後手は自陣でくすぶっている飛車と角を中央に大きくさばく手が可能になります。本局の斎藤八段は自らの角道をふさいでいた歩を突き、佐藤九段からの攻めを呼び込んで反撃する方針を採りました。

玉の堅さが明暗分ける

先手の佐藤九段が角取りの歩を打った局面で、ようやく斎藤八段が5筋の銀桂交換に踏み切ります。銀桂交換がギリギリまで保留されたことにより、本局はお互いが角を取り合う進行になりました。斎藤八段としてはこの折衝で先手玉が不安定な形になるのを見越しており、このあとの佐藤九段の攻め方に大きな制約を課すことに成功した格好です。実際、不安定な玉型を背景に棒銀の攻めからの方針転換を求められた佐藤九段は、自らの銀を桂と刺し違える不本意な取引を受けるほかありませんでした。

角を手持ちにした両者はこの後も激しい攻め合いを繰り広げますが、62手目の斎藤八段が指した2度目の垂れ歩の手筋・△5六歩が好手で、これをきっかけに斎藤八段がペースをつかみました。佐藤九段も手にした角を敵陣の急所に打ち込んで迫りますが、二段目に控える斎藤八段の飛車が最後の砦として控えており容易に斎藤玉に詰めろをかけることができません。逆に、斎藤八段は先に打った垂れ歩を王手で成り捨てることで佐藤玉を危険地帯におびき寄せつつ、孤立する佐藤九段の玉を△3五角の王手一本で攻略してしまいました。

斎藤八段はその後も佐藤玉に詰めろをかけ続けて佐藤九段に手番を与えません。23時52分、自玉への詰めろが途切れない、いわゆる「一手一手の寄り」と見た佐藤九段が投了を告げて斎藤八段の勝ちが決まりました。これで勝った斎藤八段は3勝2敗、敗れた佐藤九段は1勝4敗の成績となりました。

次局6回戦では▲糸谷哲郎八段―△斎藤八段戦、▲佐藤九段―△藤井聡太竜王戦が予定されています。

水留啓(将棋情報局)

  • 勝って白星先行とした斎藤八段(写真は第80期名人戦七番勝負第3局のもの 提供:日本将棋連盟)

    勝って白星先行とした斎藤八段(写真は第80期名人戦七番勝負第3局のもの 提供:日本将棋連盟)