マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の中間選挙の投開票について解説していただきます。
11月8日、米国で中間選挙の投開票が実施されました。中間選挙は4年ごとの大統領選挙の「中間」で実施され、下院435議席全て、上院100議席の3分の1(今回は35議席)が改選されます。また、州知事や州・地方議会の選挙も同時に行われます。大統領選挙ほど注目度は高くありませんが、米国の政治情勢、とりわけ2年後の大統領選挙にも影響を与える重要な政治イベントです。
中間選挙の結果は完全には判明していませんが、途中経過(出所: CNN)および現時点(日本時間11日午前8時)での評価は以下の通りです。
総括:
下院は共和党の勝利がほぼ確実。上院は最終結果の判明が12月にずれ込みそう。共和党に直前に報じられたほどの勢いはなく、15日にも24年大統領選への出馬を表明するとみられるトランプ氏にとってもやや苦い結果となりました。一方、上院がどちらに転んでもバイデン政権の指導力低下は避けられず、財政問題や景気への対応など様々な課題に苦慮することになりそうです。
上院:
民主党48: 共和党49(選挙前は民主党50: 共和党50)
残る3州(3議席)のうち、アリゾナで民主党、ネバダで共和党がリードしています。そのままの結果となれば、12月6日のジョージアでの決選投票の結果が上院でどちらの党が主導権を握るかを決定します。最終的に[民主党50: 共和党50]なら、副大統領に投票権がある民主党が多数派、[民主党49: 共和党51]なら共和党が多数派です。
ジョージアでは、得票率が50%に達する候補がいない場合は上位2名による決選投票を行うルールがあります。1回目で現職の民主党ワーノック候補の得票率が49.6%、共和党ウォーカー候補が48.3%。第3政党の候補が獲得した2.1%が決選投票でどちらに流れるかで勝負が決まりそうです。
下院:
民主党192: 共和党209(選挙前は民主党220: 共和党212: 空席3)
残り34議席のうち共和党が9議席以上獲得すれば、共和党が多数派となります。それはほぼ確実のようです。ただ、両党の議席差は事前予想に比べて小さくなりそうです。
州知事:
民主党22: 共和党24(選挙前は民主党22: 共和党28)
民主党が2州を上積みしており、残りは4州。最高裁が中絶是非の判断を回避して州へ降ろしたこともあって、州知事選では(主に中絶賛成派の)民主党が健闘しているようです。
ジョージアの結果によるシナリオ
ジョージアの12月6日の決選投票の結果、上院の多数派が共和党になるのか、民主党になるのかが決まります。その結果次第で政治情勢は異なってきます。2つのシナリオに分けてその影響を考察します。
1. 共和党が上下両院をコントロール
共和党が予算案など自らの法案を議会通過させて、バイデン大統領に署名を迫るケースが増えます。バイデン大統領は議会(共和党)と妥協を図るか、拒否権を発動するしか手がありません(ただし、上院では少数派が法案通過を妨害するフィリバスターという戦術があります。一部の予算案はフィリバスターの対象外)。
このシナリオでは、共和党財政を緊縮化させるとの観測があり、市場は、長期金利の低下、株高、米ドル安を想定しているようです(この想定は次の2のシナリオでもある程度該当するため、市場はすでに織り込み始めているようですが)。また、エネルギー開発の規制緩和などによって、(将来的に)エネルギー価格に下押し圧力が加わるとの期待もあるようです。
上院は、閣僚や最高裁判事の承認権限を持つため(下院はナシ)、バイデン大統領の指名する候補が議会で承認されないケースが増えそうです。
ただ、このシナリオは共和党にとって良いことばかりではありません。経済情勢に改善がみられなければ(とくにこれからリセッション=景気後退入りの可能性が高まるとみられるため)、議会(≒共和党)への批判が強まり、24年の大統領選挙に向けてマイナス材料になる可能性があるからです。
2. 上院を民主党が、下院を共和党がコントロール
民主党が健闘して上院のコントロールを守る、あるいはそうでなくとも共和党の上院勝利がすぐに判明しない場合、上記1のシナリオに期待したポジションはいったん解消されるかもしれません(=長期金利の上昇、株安、米ドル高)。
議会は、上院と下院で多数派が異なる「ねじれ」となり、両党が合意できる中道寄りの法案しか議会を通過しません。ただし、バイデン大統領の署名を得て法案が成立する可能性は1のシナリオより高まるでしょう。
上述したように上院は承認権限を持つため、バイデン大統領が人事を進めるのは比較的容易でしょう(選挙前と同じ)。
このシナリオは大統領選挙に向けて、共和党のプラス材料になるかもしれません。共和党が下院を通過させた法案が、上院で同意されない、あるいはバイデン政権が署名しないとして、民主党に対する攻撃材料となるからです。
レームダック・セッション
新しい議会は年明け1月3日に召集されます。それまでは古いメンバーで議会が開催されます。議会を去るメンバーも含まれることから、何もできない、何もしないという意味で、選挙後から22年末までの議会をレームダック・セッションと呼びます。中間選挙で下院を失うことが確実で、上院も失う可能性があるため、バイデン政権および民主党はレームダック・セッションのうちに共和党の反対が強そうな法案を通そうとするかもしれません。
今年10月に始まった2023年度の予算は12月16日までの暫定的な継続予算しか決まっていません。したがって、12月17日以降の予算策定は必須です。バイデン政権は23年9月末までの本予算の成立を急ぐでしょう。また、23年早々にはデットシーリング(債務上限)引上げの必要が生じる可能性があります。共和党が引上げ法案と引き換えに財政支出削減などの要求をする可能性もあるため、バイデン政権は22年中にデットシーリングの引き上げを画策するかもしれません。ただ、いずれもが簡単にクリアできる問題ではなさそうです。