日本が生んだ世界的ビッグスター・怪獣王ゴジラの誕生を祝うファンメイド上映イベント「ゴジラ誕生祭10」(主催:株式会社キャスト/池袋HUMAXシネマズ/ゴジラ誕生祭実行委員)が11月5日、東京・池袋HUMAXシネマズにて開催された。今年惜しくもこの世を去った俳優・宝田明が出演したゴジラ映画3作の上映とともに、宝田とゆかりの深い豪華ゲストが登壇し、当時の思い出を振り返った。
シリーズ第1作となる東宝映画『ゴジラ』(1954年)の公開日(11月3日)を「ゴジラの生誕日」と定め、熱烈なゴジラファンがその誕生日を祝う「ゴジラ誕生祭」は、2010年に銀座シネパトスで第1回が開催されてから、今年で10回目を迎えた。コロナ禍を受け、スピンオフイベント「ゴジラまつり」が2020年、2021年に開催されていたが、このたび2年ぶりに「ゴジラ誕生祭」が復活を果たすことになった。
上映作品は、俳優・宝田明を偲んで、宝田の出演した「ゴジラ映画」から、『怪獣大戦争』(1965年/監督:本多猪四郎)、『ゴジラVSモスラ』(1992年/監督:大河原孝夫)、『ゴジラFINAL WARS』(2004年/監督:北村龍平)の3作品が選ばれた。
最初のトークゲストは、『怪獣大戦争』でX星人/世界教育社・波川女史を演じた水野久美。地球征服を狙うX星のスパイとして、地球連合宇宙局に所属する富士(演:宝田明)の相棒・グレン(演:ニック・アダムス)に接近する妖艶な美女・波川は、半世紀以上の時を経てもなお、多くの特撮ファンを魅了し続けている。水野は宝田と初めて出会ったときのことについて「最初は雲の上の存在でしたし、見た目だとツンとした感じの二枚目だったから、とても話しかけられるような雰囲気じゃなかったんです。でも実際に撮影でご一緒したとき、すごく優しくて思いやりがあって面白くて、ええ~!?って思いました」と、クールでスマートな外見に似合わず、ダジャレを言って相手を笑わせるなど、気さくで陽気な一面を備えていたと話し、懐かしそうな表情を浮かべた。
『怪獣大戦争』の思い出を聞かれた水野は「宝田さんよりも、私はニック・アダムスさんと一緒に演技をする場面が多かったんです。ニックさんはすべてのセリフを英語で話して、私は日本語でしたから、お互いの言葉をヘンリー大川さんに通訳してもらって、役の気持ちをつかんでから演技をしていました」と、アメリカ人俳優との「言葉の壁」に苦労したことを打ち明けた。
宝田とは『ゴジラ エビラ モスラ 南海の大決闘』(1966年)でも共演している水野は、本作でのインファント島の美女「ダヨ」役について「この役は、本来演じられる予定だった女優さんが、撮影前に盲腸になられて入院してしまったんです。そこで田中友幸プロデューサーから『水野久美ならやってくれるんじゃないか』と名指しされ、出演が決まりました」と、ピンチヒッターでの出演だったと話した。南洋美人のダヨは鮮烈な褐色の肌が実に魅力的だが、水野は「顔から足の先まで、全身にドーランを塗って芝居をするんですけれど、3時間以上塗ったままだと体が危険だということで、3時間ごとにお風呂に入ってドーランを落とし、また塗って……を繰り返していて、それが大変でした」と、画面ではうかがうことのできない貴重な裏話が飛び出し、客席を沸かせた。
ここで『ゴジラFINAL WARS』の北村龍平監督がステージに現れ、水野が地球防衛軍司令官・波川を演じた際の思い出話を語った。『怪獣大戦争』と同じ「波川」という名前の役を演じるにあたって水野は「ぜったいやりたい!と思いました。司令官役で、カッコよかったのよ」とニッコリ微笑むと、客席から盛大な拍手が沸き起こった。
途中、X星人がすりかわったニセ波川を演じたとき、俳優人生で初めて「弾着」を経験したことについて「怖かった~! 撃たれたとき、目は動かさないで後ろにひっくり返って……普通の女性なら怖がりますよ(笑)」と当時の恐怖体験を振り返った。北村監督は「いろいろな作品に出られていたので、まさか弾着が初めてだったとは(笑)。後半でのX星人との戦闘では、水野さんも宝田明さんもノリノリで、脱出するところなんて楽しそうにやられていましたね。僕は宝田さんに、台本にないセリフ『昔は100発100中の男と呼ばれていた』を言ってくださいとお願いして、怒られるかなと思っていたらすごく喜んでくださった(笑)」と、宝田の主演映画『100発100中』(1965年)を入れ込んだセリフを追加したという裏話を明かした。
続いて、『ゴジラFINAL WARS』で特撮チーフ助監督を務め、『ウルトラマンギンガ』など多くの特撮作品を手がけている石井良和監督が登場し、池袋HUMAXシネマズで12月9日から公開される新作怪獣コメディ映画『特撮喜劇 大木勇造 人生最大の決戦』のPRを行なった。石井監督は『FINAL WARS』の特撮班(特殊技術:浅田英一)時代を振り返り、「100人くらいのスタッフで、毎日毎日ホコリまみれになりながら撮っていました。今でも大好きな作品です」と変わらぬ作品への愛着を見せた。
そして「自分も怪獣映画を撮りたいと思っていましたが、このたびチャンスをいただきまして、ちょっと昭和っぽいタイトルの『怪獣映画』を作りました。先々月、アメリカ・カンザスシティの映画祭で賞をいただき、自分自身がびっくりしています。12月9日からこちらの劇場でかかりますので、ぜひ観に来てください。映画に出てきた怪獣ヴァイラスキングも毎日劇場ロビーに来ています!」と、根っからの怪獣ファンである石井監督らしい熱い言葉で、自身が作りあげた怪獣映画を多くの人々に観てもらいたいとアピールしていた。
『ゴジラFINAL WARS』をファンと一緒に観た後、ふたたびステージに上った北村監督は、ゴジラをはじめとする東宝怪獣映画の思い出を聞かれて「幼いころにも観ているんですけど、本当に“のめり込んで”観ていたのは80年代、兵庫県に『伊丹グリーン』というマニアックな作品ばかりオールナイト上映する映画館があり、そこで改めて『ゴジラ対メカゴジラ』とか『ゴジラ対ヘドラ』を観て、すげえ面白いなと思ったんです」と、ゴジラと敵怪獣がパワフルなバトルを繰り広げる70年代怪獣映画の底抜けな楽しさを、少年時代に再確認したことを明かした。
北村監督が『ゴジラFINAL WARS』を手がけることになったいきさつについては「前年に公開された『あずみ』(2003年)の初日、今では東宝の会長職に就かれている島谷能成さんに声をかけていただいて『2本、映画をやれ。高倉健とゴジラ』と言われたのが始まりでした。そのとき、高倉健さん主演でゴジラ、というのはないですか?と言ったら『それは難しいな』と否定されましたが(笑)。後日改めて富山省吾プロデューサーから『ゴジラという特殊なリングだけど、上がってみないか』とお誘いされたので、お引き受けしました」と、ゴジラ映画にチャレンジしてみたいという強い意欲があったことを語った。
『ゴジラVSキングギドラ』(1991年)から毎年、東宝のお正月興行としてファミリー層に親しまれていたゴジラシリーズ(1996~1998年は『モスラ』シリーズ)の「最後」を飾る作品として企画された『ゴジラFINAL WARS』について、北村監督は「今までと違った戦い方をする、凶暴で強いゴジラを作りたかった」と語ったあと「でも、18年ぶりに映画を観たら、人間同士のバトルがちょっと長かったね……」と年月を経た現在の率直な感想を苦笑交じりに述べて、会場からの大きな拍手を浴びた。
松岡昌宏、ケイン・コスギ、格闘家ドン・フライといったアクション志向のキャスティングも、当時話題となった。北村監督は映画でドン・フライが演じたゴードン艦長の人選について「海外俳優や日本の大物俳優にオファーをしてみたのですが、交渉事がいろいろと大変すぎて(笑)、俳優の経験がないドン・フライがいいなと。リングに上がるときの姿を見て、あんな表情が出せるのなら芝居もできるだろうと思って声をかけました。ドンさんを中目黒の焼肉屋に連れていって、ユッケを5人前食わせつつ『俺は演技できないよ』と言う彼を『大丈夫だよ。いまユッケ食ってる顔もカッコいいんだからさ、まかせろ!』って口説きました」と語り、映画の中で強烈な存在感を示したゴードン艦長誕生の秘密を明かした。
10月28日より公開中の映画『天間荘の三姉妹』は、北村監督が『ルパン三世』(2014年)以来8年ぶりに手がけた日本映画となる。北村監督は「この映画は2011年の『東日本大震災』がきっかけとなって生まれた映画です。原作者の高橋ツトムが『こんな大変な状況になっているのに、年月が経てば被災地と関係のない人々はすぐ忘れてしまう。それじゃダメなんだ』と話していて、2年後にそういう思いのこもった作品を発表した。僕はその姿勢に強く共鳴し、絶対に映像化する!と約束しました。実現するまでに8年もの歳月がかかりました。たったひとりの人間が『震災を忘れてはいけない。人は死んでも終わりじゃない』ということを伝えたいがために、純粋な思いで紙とペンだけで作りあげた漫画原作がある。僕は彼の思いを守りながら、純粋なまま映画を作りました。僕のまぎれもない最高傑作だと思っています。ぜひ、ゴジラファンのみなさんにも観ていただきたいです」と、『天間荘の三姉妹』の製作経緯や作品に秘められた熱い思いを語り、劇場に足を運んでほしいと語った。
北村監督は「今までと違ったゴジラ映画を、と思って作った『ゴジラFINAL WARS』は公開当時、賛否両論。どちらかというと『否』のほうが多かった。あのころは自分も若くて尖っていたけど、若く尖っていないとあれだけの巨大なプロジェクトを突き進むことはできなかったと思います。あれから18年、この作品が日本のゴジラファンからこんなにも愛されているとは思っていなかったので、嬉しかったですね」と、全編怪獣と人間のバトルシーンが満載された超娯楽映画『ゴジラFINAL WARS』を愛する多くのゴジラファンの熱い視線に感激する場面が見られた。最後のフォトセッションでは、ソフビ人形のゴジラ(FINAL WARS仕様)を手渡され「これ、ちゃんとウチの子ですか? ときどき間違ったやつ持たされるんだよね(笑)」としっかり確認して客席を笑わせていた。
そして「ゴジラ誕生祭」名物のシークレットゲスト(?)、『ゴジラVSキングギドラ』のアンドロイドM11役を熱演したロバート・スコット・フィールドが「23世紀の未来」からかけつけた。2020年の「ゴジラまつり」以来2年ぶりの登場となるロバートは、アメリカのゴジラファンイベントで共にステージに立ち、親交を深めた宝田明との思い出を語り、大勢のゴジラファンを感激させた。
『ゴジラVSモスラ』上映に先立ち、『ゴジラVSビオランテ』(1989年)から『ゴジラVSデストロイア』(1995年)まで6作品連続で超能力少女・三枝未希を演じた小高恵美がステージにかけつけた。1987年に東宝シンデレラグランプリを受賞し、『竹取物語』で映画デビューを果たした小高は、今年で芸能生活35周年を迎える。これを記念して、ドキュメンタリー映画『M35』が製作された。2022年11月26日にはドキュメンタリー映画の上映とゲストを交えたトークショー「小高恵美記念祭」が池袋HUMAXシネマズにて開催。そして11月26日から12月3日まで、秘蔵写真とアイテムで小高恵美の歴史を体感できる「小高恵美記念展」が南千住の「ギャラリーHIROMI」で開催される。これら「小高恵美アニバーサリープロジェクト」は、平成ゴジラ「VS」シリーズのファンにはまたとない朗報といえる。フォトセッションでは、『ゴジラVSキングギドラ』で共演したロバートと小高が共に明るい笑顔でツーショットに収まった。
会場ロビーには、平成ゴジラシリーズ予告編ナレーションでおなじみ・小林清志のサイン色紙が飾られた。ご存じのように小林は今年7月惜しくも故人となったが、「ゴジラ誕生祭」スタッフは「2019」の時点で小林と会い、来たる10回目のイベントに備えてオープニングナレーションを収録していた。改めて、ゴジラVSシリーズを盛り上げてくれた功労者の一人である小林に、大いなる感謝の気持ちを表したい。
『ゴジラFINAL WARS』特撮班チーフ助監督だった石井良和氏が所有する、X星人宇宙船ミニチュアモデルの実物。貴重なミニチュアの展示に、ファンの誰もが目を見張った。
『ゴジラFINAL WARS』にて、地球に飛来したX星人を支持する地球の人々が掲げていたノボリ2点。伊武雅刀演じるX星人統制官が可愛くデフォルメされ描かれている。
なお、11月12、13日には大阪シネ・ヌーヴォにて「ゴジラ誕生祭10」が開催され、『ゴジラ』(1954年)と『ゴジラVSデストロイア』(1995年)を上映。スペシャルゲストとして『ゴジラVSデストロイア』で山根健吉を演じた林泰文が登場する(12日生出演、13日は前日トークVTR上映)。
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