お~いお茶杯第64期王位戦(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は、11月8日(火)に予選の佐藤康光九段―森内俊之九段戦が行われました。対局の結果、131手で佐藤九段が勝利して挑戦者決定リーグ進出まであと1勝としました。
■ノーマル向かい飛車の対抗形
振り駒で先手となった佐藤九段は駆け引きのすえ、角道を閉じる向かい飛車を選択しました。角交換をしない、いわゆるノーマル向かい飛車には(1)左金を左に上がって積極的に飛車交換を挑む急戦形と、(2)左金を右に上がって玉の囲いに手をかける持久戦形の2パターンの戦い方があります。後者の作戦を選んだ佐藤九段は、さらに玉をミレニアム囲いに組む工夫を見せました。
対して後手の森内九段も玉をしっかり固める方針を選びます。具体的には玉を左美濃囲いに囲ったのち、手順にこれを銀冠囲いに発展させました。
■佐藤九段の攻勢
仕掛けから数手後に森内九段が指した、飛車を相手の飛車筋に回った手が守備寄りの指し手で、この手をきっかけに佐藤九段の猛攻が始まりました。この飛車回りに代えては△7五歩と強く攻め合う手も有力でした。後手としてはこの変化の最中、先手が右桂を跳ねて攻めてくる手が気になるのですが、その場合は自陣の金を犠牲に手番を握って攻め続ければ互角以上に戦えたようです。
手番を得た佐藤九段は、敵陣に角を打ち込んで総攻撃を開始します。この角はすぐに後手の銀と刺し違えることになりますが、代償として敵陣に成桂を作ることに成功しました。局面は、駒損ながら敵陣に成駒ができていること、飛車の使いやすさに差があることの2点で佐藤九段のペースで展開していきました。
■森内九段の猛追を佐藤九段がきわどくかわす
守勢に回った森内九段は、双方の囲いの急所となる1筋から端攻めをすることで逆転の綾を求めます。78手目、佐藤玉の近くの1七の地点にと金ができた局面での佐藤九段の応手が本局一番の見どころとなりました。ここではまず▲4二歩成と攻め合う手が見えますが、それには数手後に後手から△4六角と王手する手が待ち受けています。合駒として飛車や角という高い駒を打つしかない先手は戦力不足に陥り、結局この単純な攻め合いでは勝てないことがわかります。
攻め合い勝ちは望めないと見た佐藤九段は、1時間の残り時間のうち30分以上を割いていったん受けに回る手を選びました。これは、一気の攻め合いを危険と見て、局面を落ち着けて戦いを長引かせる狙いを持っています。ここ数手の佐藤九段の指し手からは、限られた持ち時間の中で一気の逆転負けを避けつつも、わずかなリードを持って終盤戦を仕切り直そうという根気強さがうかがわれました。
この「第二次終盤戦」の競り合いを抜け出したのは佐藤九段でした。最後まで森内九段の猛攻を受けつつも、攻めが一段落したタイミングを見計らって反撃を開始。最後は一分将棋の中で、佐藤九段は森内玉に対する17手詰を読み切って勝利を手中に収めました。終局時刻は19時57分、両者4時間の持ち時間を使い果たす熱局でした。
勝った佐藤九段は予選トーナメントの決勝に進出。次局で挑戦者決定リーグ入りをかけて佐々木勇気七段―岡部怜央四段戦の勝者と戦います。
水留啓(将棋情報局)