NTTドコモは11月8日、2022年度 第2四半期の決算説明会を開催しました。今四半期の決算は増収増益。登壇した井伊基之社長は、メディアの質問に回答する形で、楽天モバイルのプラチナバンド再割り当ての主張について、通信障害時の対処方針について、1円スマホについて、iDの継続についてなどコメントしています。
法人領域/スマートライフ領域は順調、コンシューマ通信事業ではahamoが好調
発表された第2四半期決算では、営業収益は2兆8,998億円(前年同期比+0.7%)、営業利益は5,765億円(同+0.1%)でした。井伊社長は「法人事業、スマートライフ事業が順調に成長しております。業績予想に対して想定通りの進捗です」と説明。なお同社では2025年度を目途に、全事業の売上高の半分以上を「法人事業+スマートライフ事業」で占めるまで成長させたい考えです。
とはいえ、コンシューマ通信領域においても、「5G契約数」が前年同期比2.3倍の1,602万契約となり、また「中大容量プラン契約数」も前年同期比で30%増の1,000万契約を突破するなどの好調ぶりが伝えられました。
コンシューマ通信事業ではahamoが好調
質疑応答も基本的に井伊社長が対応しました。
コンシューマ通信領域でahamoが好調である要因について聞かれると、井伊社長は「お客様が大容量のデータプランを使い始めました。理由は、おそらく映像サービスのニーズが増えたためです。ここで『我々の映像コンテンツが売れているからです』とお答えしたいところですが、実際にトリガーとなったのはYouTubeの普及でしょう。YouTubeを見る層が広がり、上の年齢の方も日常的に見るようになってきた。YouTubeを舞台にして、企業も色んな発表を行っています。データのパケットの伸びを見ても、その状況が見てとれます。本当はドコモの有料コンテンツで伸ばしたいんですが、世の中、そう甘くないということですね」と、動画視聴の習慣が根付いたことを要因と分析します。
また回線契約の純増数が回復した要因については「ahamoがヒットしたことで、若い人たちが戻って来てくれた。そしてOCNモバイルONEもだいぶ好評です。『自分はパケットをそんなに使わないから低容量データプランでいいんだ』という方も他社に流出せず、当社の中にとどまっていただけている。全体としてプラスの要因になっていると思います」と言います。
料金値下げの影響によりここ数年、各通信事業者ではARPU(1ユーザーあたりの平均的売り上げ)が落ち続けましたが、これについても改善傾向が見られているとのこと。井伊社長は「今年度中には4,000円を底に下げ止まるのではないか」との見方を示します。その理由としては「これから利用者人口が増えるわけでもありませんから、ユーザーを取った取られたの繰り返しをしていてもしかたない。やはりARPUを上げていくのが大事な戦略だろうということで、価格勝負よりはデータ容量をたくさん使ってくれるようなコンテンツ、あるいはアプリを増やしていくのが私たちの使命じゃないかと思っています。ARPUについては4,000円が1つの目標です。今期、もう少し落ちるかなと思ったものが、実際は落ちなかった。だからこの辺で『下げ止まり』と言ってみたいなと思いまして。ええ、思えば願いは叶うんじゃないか、と思っています(笑)。先ほどお伝えした通り、中・大容量が比較的継続して伸びております。問題はそれが、我々が主導して伸ばしているのではなく、市場がその方向に動いちゃっていること。つまり、映像を見る文化がかなり進んできてるということですね」。
ドコモのエコノミーMVNOの状況については「具体的な数字は公表できませんが、価格ではなくて機能で勝負したサービスが好評です。ドコモショップでもこれを取り扱うことで、私どももお客様にオススメしやすくなった。だから販売チャンネルの影響もあると思います。サービス、機能を重視してお買い求めになる方がいらっしゃいます」とします。
楽天モバイルが求める周波数再割り当てについては慎重な姿勢
なおこの日は、総務省が(楽天モバイルが要求している)周波数の再割り当てについてのタスクフォース(第15回)が開催されており、「移行期間は5年、費用の負担は基本的には既存の3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)が行う」という報告書案の概要が公開されていました。この報告書案についてコメントを求められると「その情報は、いま初めて知りました。タスクフォースの提言がそういう形になったということで、それに対して事業者がどのように対応していくか、これからの課題だと思います。できることはきちっとやっていきたいですし、課題があるなら、こういう風に解決させてほしいと提案していきたい」と井伊社長。
楽天サイドに有利な提言だが不満はないのかと問われると「私どもは『10年はかかりますよ』と、そして『経費は自益者負担でお願いしたい』と、元々のヒアリングでご説明してきました。それに対して今回、このようなお答えが出てきた。ではそれが現実にできるか。これが次の課題になると思います。10年でかかるものが5年でできるのか、我々が負担して本当にできるのか。常にキャッチボールだと考えていますので、“不満”という感情的な問題ではなくて、もともと円滑に進めるためのタスクフォースですから、今後も実現可能な方法をお互いに探っていくことが大事だと思います」としました。
楽天が0円プランの廃止を発表してからドコモにどんな影響があったか、という質問には「もう随分と時間が経ったような気がしています。あのときマーケットにはかなり流動性がありました。ドコモはahamoが伸びたんです。OCNモバイルONEのような低容量サービスよりも、ahamoにシフトする人が増えた」と振り返り、現在はさほど大きな影響はないと答えました。
デュアルSIMやローミングについては前向き
大手キャリアの通信障害に端を発する、デュアルSIMに対応したスマートフォンの普及を進める動きがあることに関しては「私もデュアルSIMに賛成です。ただ『キャリアが頼りないからユーザーがSIMを2枚も持たなくちゃいけない』っていうのをどう捉えるか、というところはあるんですが……。背に腹は代えられませんし、特に法人のお客様には既に、デュアルSIM端末を提供することを始めております。IoTに関しても、どっちかが止まってもバックアップ側のキャリアで通信を継続できるというような、はじめから複数キャリアを組み込んだサービスを入れています。個人のお客様の場合は、選択になると思います。選ばれるデュアル側になりたいなと思っております」。そして補足として、他の通信事業者が連携してネットワークを融通できるローミングの取り組みとも絡む問題であり、1つのことでは全てをカバーできない、デュアルSIMで救われない部分に関してローミングという方法が出てくる、との考えを示しました。
デュアルSIMに向けた料金プランについて聞かれると「まだ、そこまでの料金プランは考えていません。いま市場には様々な料金プランがありMVNOという選択肢もあります。だから、すぐに我々が何か新しいプランを出さないといけない、とは考えておりません」としました。
Web3は本当に儲かるのか? - 「儲かるようにするのがビジネスです」
今回の四半期決算では、Web3の共通機能群を提供するプラットフォーマーを目指すという方針も明らかにしました。これについて、どういったユーザーを想定しているのか、具体的にどんなサービスを提供するのか、と質問されると「いくつかのサービスは、もうすでに始まっていると思います。NFT(Non-Fungible Token)を使ったようなものだったり、メタバースもひとつのカテゴリですね。Web3の上にたくさんのアプリがあり、様々なプレイヤーがいる状況。個人で使うものもあれば、企業のソリューションになるものもあります。我々はそこのプレイヤーにはならない、と言ってるわけではありませんが、そこに対して共通機能を提供する側の立場が大事じゃないか、ということで基盤側のサービスを考えています」。エンドユーザーが望んでいる「手続きが簡単」で「ある程度安心して利用できる」、そんな環境を構築していきたい、その上にアプリケーションがたくさん花開いていくイメージを思い描いています、と説明します。
さらにWeb3は本当に儲かるのか、5,000~6,000億円という巨額を投資する理由は、と聞かれると「様々な機能が必要になりますし、役割も必要になってきます。すでに動き始めてらっしゃる企業が(海外も含めて)たくさんございますので、そういった方々とも座組できるんではないかと思っています。志を同じくする、考え方が同じ人でないと、なかなか上手くはいかない。事業の方向性が合致する方々と座組したいと思います」と語ったうえで、投資については「儲かるようにするのがビジネスです。スタートするときに会社を設立したり、M&Aをしたり、システムを開発したり、ネットワークやセキュリティを担保したり、社員を雇ったり――と、ある程度の初期投資はかかると思います。たくさん投資するときは、それだけのリターンが期待できるとき。『最初は小さくいきますよ』というと、誰も一緒にやってくれませんので、我々としては『本気で取り組んでいきたい』ということを示すための金額としてお示ししました。儲かるようにやらないと、私はクビになります」とその姿勢をアピールしました。投資の内訳については非開示としています。
1円スマホ問題は? iDをどうしていく?
原価高によりスマートフォン端末も高騰するのか、この先サービスの値上げもあるのか、という問いには「昨今、スマートフォン端末だけでなく、それに伴う材料や半導体など、様々なものが値上がりしていますので、会社としても少なからず影響を受けております。端末に関しては、毎年毎年、刷新されるときに価格が大きく変動する。これは仕方のないことで、私たちで端末価格はコントロールできませんので、分割払いなど、なるべく割安に買っていただく工夫をしていきます」と井伊社長。ネットワークの効率化、仮想化などで吸収できるように持っていきたいとし、原価高を理由に通信料を上げるというレベルには現時点では至っていないと話しました。
電気料金の値上げ影響については、同日に発表されたNTTの四半期決算を引き合いに出し、「NTTの決算では島田の方から上期で約300億円という数字が出たと思いますが、ドコモグループで見れば上期で100億円ぐらい、通期で200億円の影響を見込んでいます」と回答。コスト削減のためにしていることについては「基地局のスリープ機能のほか、進行中の『働き方改革』でも、オフィスをどんどん統合しています。社員の席数も3割くらいに圧縮して、オフィスでかかる電力をどんどん下げている。これを全局面で行っています」と回答。ただし、現在ニーズが高まっているデータセンターの電力は下げられず、それどころか建設して増やしていかなくてはいけない状況だと説明します。
代理店などによる「一括1円」をうたった販売方法が問題視されている件については「ドコモで値引きが許されているのは、最大2万円までです。だからiPhoneなどは1円スマホにはならない。ただ、2万円までの廉価なスマホもございまして、それは結構な、割安なお値段まで下げられる可能性がある。最終的にいくらで売るかなんですが、販売店様がさらなる値引きをかければ、その値段は下げることができます。そこは私どもとしては、独禁法上でもコントロールできない状況。販売代理店様に『利益を捨ててまで、そういう販売はしないように』ってことは申し上げられますが、『いくらで売りなさい』ってことは言えませんので……、それが実情です。私自身はスマホを1円で売るっていうことには反対の人間でして、新品価格のものを中古より安く売るっていうのは信じられない。いくらお客様を確保したいからと言っても、やっぱり健全な競争であるべきです。でも残念ながら、他社がやるとやり返すっていうのがこの業界の1つの習慣になってますので、全体として歯止めが利くような端末価格の設定を求めたい」と、他キャリア同様に極端な廉価販売には反対の姿勢を示します。
さらに「キャリアは回線とセットで端末を売るのが仕事だと思います。端末だけ売るのはキャリアの仕事では(本当は)ないと思っています」としたうえで「合理性のある値引きのしかたにしたい。昔に戻りたいっていうわけではなく、一定のルールを決めて進めるべきだという考えです。いまそうした考えを公正取引委員会なり総務省なりに検討していただいています」と話しました。
また、好調というスマートライフ領域にありながら、d払いと異なりあまり話題のない電子マネーのiDについて「今後どうしていくのか」と聞かれると、まずは個人的な意見として「iDとして続けていければよいと思っています」としつつも、「それが果たしてどれだけ収益に貢献するのか、となると確かに難しいかもしれません」と井伊社長。そのうえで「選択肢の問題になると思っています。儲かっている事業だけに寄せてしまうという方針は、私はあまり取りたくない。iDというサービスにはニーズもあると思いますが、今どうするという強い方針が打ち出せないのが正直なところです」と胸の内を語りました。