Snap Japanは11月8日、日本国内における「Snapchat」初のオフラインイベント「Snapchat in Japan 2022 ~ソーシャルメディアの処方箋~」を都内で開催しました。イベントではSnapchatについて改めて紹介されたほか、SnapchatのAR機能を利用するソリューションを開発するクリエイターも登壇。Snapchatの可能性を感じさせる1日となりました。

  • 長谷川倫也代表と秦優氏

    プレゼンテーション後のフォトセッションにて。Snap Japan代表の長谷川倫也氏(左)と、クリエイターを代表して登壇した株式会社デザイニウム 取締役の秦優氏

“ソーシャル疲れ”を起こさせない、Snapchatのコミュニケーション

最初に登壇した長谷川氏は、プレゼンテーション画面にSnapchatのさまざまなエフェクトを映し出し、「そう、Snapchatは、こういった面白いエフェクトが豊富なフィルターアプリ……」と語り始めたかと思いきや、「……ではありません!」と、いきなり一般的なSnapchatのイメージを否定して話を始めました。

  • 長谷川倫也代表

    Snap Japan代表の長谷川倫也氏

  • さまざまなレンズ

    Snapchatといえば、の豊富なレンズ(ARフィルター)。しかし長谷川氏はSnapchatをたんなるフィルターアプリと考えないでほしいといいます

長谷川氏が強調するのは、Snapchatは日常をシェアできるコミュニケーションツールであるということ。「Instagramは、たまにいくおしゃれなレストランのような非日常を投稿するメディア。Snapchatは、毎日食べているカップラーメンのような、そういう日常のいちばん広いところを気軽にシェアできるメディアです」と言います。グローバルでは6億人のユーザーを抱え、しかも一般的なユーザーが1日に平均30回もアプリを起動しているという利用頻度の高さを誇っているのは、「Snapchatが毎日の自己表現、ありのままの自分を共有メディアだから」だというわけです。

  • ユーザー/利用頻度

    豊富なユーザーを抱えるだけでなく、その利用頻度の高さに注目

そんなSnapchatの特徴として、長谷川氏は「オーディエンスファーストでなくコンテンツファーストであること」「投稿内容が消える」「いいねやコメントのプレッシャーがない」「不特定多数の他者とではなく、親しい友人とつながる」という4点を挙げます。

  • Snapchatの4つの特徴

    Snapchatの4つの特徴

「オーディエンスファーストでなくコンテンツファースト」というのは、受け手に合わせて投稿内容を決めるのではなく、自分を表現することを優先しようということ。具体的には、アプリを起動するとまずカメラが起動し、そこでコンテンツの準備をしてから共有相手を指定するという遷移により実現しています。そしてその投稿内容は相手がいちど見ると消えてしまうという、日常の会話に近い仕組み。さらにいいねやコメントのような承認欲求の仕組みがなく、ありのままの自分を共有することを推奨しています。

そしてSnapchatは、不特定多数を含めた広い世界にコミュニケーションを広げることよりも、すでに親しくなっている相手とのコミュニケーションを強化するという思想で動いている。これらの特徴により、ユーザーはSnapchatを利用することにハッピーさを感じていると長谷川氏は言います。

  • 90%のユーザーが快適さを感じている
  • ハッピーなプラットフォーム

    Snapchatはもっともハッピーなプラットフォームであると長谷川氏

デジタルネイティブと呼ばれる若い世代は、上の世代が“ソーシャル疲れ”と言われるような状況に陥っているのを見ています。だからこそ、Snapchatのようなコミュニケーションのあり方を支持しているのではないか、というのが長谷川氏の見方。そしてこれこそが、本イベントのタイトルでもある「ソーシャルメディアの処方箋」という言葉の意味。若年層に限らず、こういったSnapchatのコミュニケーションスタイルが広がることにより、ソーシャルメディアを通じた自己実現がより身近なものになるのでは、ということでしょう。

  • ソーシャルメディアの処方箋

    Snapchatのコミュニケーションスタイルが“ソーシャル疲れ”を生むようなソーシャルメディアに対する解決策になるのでは、という長谷川氏。それを表すのが「ソーシャルメディアの処方箋」という言葉です

実は、2022年3月の日本オフィス開設時にマイナビニュースが行ったインタビューでも、長谷川氏は同様のことを話してくれていました。今回のプレゼンテーションでも、「Snapに加わったときに感じていた『Snapchatは日本にフィットする』という思いは今は確信に変わっています」という言葉があり、日本でSnapchatが目指す方向性にブレはなさそうです。

4本のプロモーションムービーを制作

そして、Snapchat初の国内向けプロモーションとして、4本のキャンペーン動画が公開されました。動画ではSnapchatを通じたコミュニケーションやARレンズ、同じ相手と毎日投稿を送りあっていることを示すストリークといった機能を紹介するものになっています(いずれもスマホからのみ視聴可能)。

ARプラットフォームとしてのSnapchatの魅力はどこに?

続いてのセッションでは、SnapchatのARプラットフォームを活用したソリューションを開発している株式会社デザイニウム取締役の秦優氏が登壇。具体的なユースケースとして、観光地の現在の風景の中に過去の写真をはめ込んで表示する「AR TimeMachine」を紹介し、SnapchatのARプラットフォームを利用するメリットについて話しました。

  • 秦優氏

    株式会社デザイニウム取締役の秦優氏

  • AR TimeMachine

    デザイニウムの開発した「AR TimeMachine」

秦氏によれば、「AR TimeMachine」の開発にあたっては「スマホの物理的な課題」「位置合わせ」「提供の手軽さ」という3つの課題があったとのことですが、SnapchatのAR基盤による開発ではこれらがすべてクリアできるといいます。「スマホの物理的な課題」というのはスマホを同じ位置・角度で持ち続けるのが大変ということですが、これはARグラス「Spectacles」を使うことで解決できます。「位置合わせ」は観ている人の位置・方向に合わせてコンテンツを表示するのが大変ということですが、Snapが提供する開発環境の「Lens Studio」にその機能が用意されているそうです。最後の「提供の手軽さ」は、開発したARソリューションをどうユーザーに提供するかという問題ですが、先述のとおり多くのユーザーを抱えるSnapchatであればその心配はないというわけです。

  • 開発時の課題

    「AR TimeMachine」開発時の課題

秦氏は、コミュニケーションに「What」「How」「Who」の3つの要素を想定します。先の「AR TimeMachine」であれば、「What」は「過去映像/観光情報」であり、「How」は「AR」、「Who」は「観光客」となります。そしてARソリューションの開発にあたっては、これらの要素を少し変えることでまた別のコンテンツを作ることができます。そして「How」の部分でもSnapchatがヒントやツールを提供してくれることで、クリエイターはアイデアを中心に考えることができるようになる――と話しました。

  • 3要素

    コミュニケーションの3要素

ARはそれ自体が目的ではなく、コミュニケーションの手段

続く長谷川氏と秦氏のパネルディスカッションで、長谷川氏が「なぜSnapをパートナーとして選んでくれたんですか?」と秦氏に尋ねると、秦氏は「Spectaclesの存在」「クリエイターがたくさんいること」「いろいろなツールが提供されている」という3点を挙げました。そしてSnapに今後期待することとしては、「Spectaclesを販売して普及させてほしい」と言います。Spectaclesが普及してくると、長い時間のAR体験ができるようになってくる、そうなると今とはもう少し違うことも考えられるようになる……ということでした。

  • Spectacles

    SnapのARグラス、「Spectacles」。現時点では残念ながら一般販売はされておらず、クリエイターへの提供にとどまる

会場の参加者からは、ここまでARについての話が続いたこともあり、「冒頭に話していたような独特のコミュニケーションスタイルの話とARプラットフォームとしてのSnapchatの話はどうつながるのか?」という質問がありました。それに対して長谷川氏は、「SnapchatのコミュニケーションとARというのは別のことではなくて、自己表現として感情を乗せるひとつの手段としてARがあると思っています。文章で長々と書くこともできるけれども、気持ちをパッとありのまま載せられるようなフィルターやオーバーレイというのがいちばんいいツールなんじゃないかと」と語り、さらに「なんでコミュニケーションにこだわっているのかというと、それがいいもの、ハッピーなものだと思っているからなんです。だから、カメラとしては自分のほうに向いたインカメラだけでなく、世界のほうを向いたアウトカメラもエンハンスしていきたいと思っているんです」とそのこだわりを説明してくれました。

Spectaclesの今後の展開については、現在行っているユースケースの開発を進めていくという以上の話はありませんでしたが、会場には実機が展示されており、体験することができました。秦氏が言うように、装着時の負担は確かに少なく、少し重めのメガネをかけているくらいのイメージ。これが一般にも利用されるようになれば確かにARがぐっと身近になるように思いました。

  • 会場に展示されていたSpectacles

    会場に展示されていたSpectacles

Spectaclesは、右側面を指でタッチすることで操作できます。また左右にはボタンも装備

また、SnapchatのAR機能を利用したバーチャルでのメイク/フィッティングの体験コーナーも用意。ARの可能性を感じさせる会場となっていました。

  • AR機能の体験コーナー

    AR機能の体験コーナー

バーチャルメイクの体験

こちらはフィッティング体験