Googleが10月13日に発売した「Google Pixel Watch」のデザインはとても洗練されている。これは良いデバイスに違いないと即決購入し、数週間継続的に使ってみた。本稿では、同製品の概要をおさらいしつつ、筆者のインプレッションをお届けしたいと思う。

  • Google Pixel Watchを1カ月弱使ってみたインプレッションをお届けしたい

    Google Pixel Watchを1カ月弱使ってみたインプレッションをお届けしたい

Google Pixel Watchを改めておさらい

まず、Pixel Watchの概要をおさらいしておきたい。そもそも「Google Pixel(ピクセル)」とは、Googleが提供するハードウェアのブランドだ。

スマートフォンとしてのPixelシリーズは2016年秋に発表され、2018年秋には「Pixel 3/3 XL」が日本上陸を果たした。同シリーズは現行のラインナップで「Pixel 7/7 Pro」までナンバリングも進んでおり、すでにAndroidでは定番の選択肢の一つとなっている。周辺機器としては、ワイヤレスイヤホンの「Pixel Buds」シリーズなども展開されている。

一方、Googleは、スマートウォッチのハードウェア製品について、あまり積極的な展開をみせてこなかった。そんなGoogleがようやく初めてのスマートウォッチを発売したということで、今回のGoogle Pixel Watch(ピクセルウォッチ)は大いに注目された。

  • 筆者もPixel Watchのデザインが気に入って、悩んだ末に購入を決意

もちろん、Googleもソフトウェアに関しては、スマートウォッチ向けのOSである「Wear OS by Google(旧Android Wear)」を2014年から提供してきている。Apple Watchがリリースされたのが2015年のことなので、OSの展開だけを見ればGoogleに遅れはない。しかし、ハードウェアとしての製品展開については、Appleに対して約7年半のリードを許していることも事実だ。

そんな背景もあってか、Googleは2021年1月、スマートウォッチ市場においてAppleに次ぐシェアを獲得していた米Fitbit(フィットビット)の買収を完了した。Pixel Watchでは、同ブランドの知見が生かされているのが特徴だ。

一眼見た印象では気づきにくいものの、じっくりとPixel Watchのデザインを眺めてみると――例えばストラップバンドの構造や筐体のデザインなどに――どことなくFitbitのハイエンドモデルの面影を感じられる。

また、Pixel WatchはWear OS 3.5で駆動するが(Fitbitシリーズは独自OSで駆動)、Fitbitとして展開してきた有料サービスの「Fitbit Premium」も利用できるようになっているなど、ソフトウェア面での資産も一部活かされている。

高級感あり、外観とデザインを愛でる

Pixel Watchのケース・ディスプレイはともに円形で、ケースサイズは直径41mm。ケースの厚みは12.3mmだ。Pixel Watachの価格はWi-Fiモデルで39,800円だが、筐体にはリサイクル素材のステンレススチールが使われている。

  • Pixel Watch。製品写真でも使われている「アナログ」文字盤にするのが一格好良いと思う

例えば、同じ4万円前後の価格帯であるApple Watchの廉価モデルはアルミニウムケースが採用されている。アルミニウムケースにも軽さというメリットはあるのだが、メタリックな光沢感によってアクセサリとしての高級感を演出できる点で、ステンレススチールに魅力を感じる人も多いだろう。

より手頃な価格でステンレススチールケースを選べるという点では、Pixel Watchに部があると思う。

なお、Pixel Watchの重量はケース部のみで36g。一部ステンレススチールを使っているものの、装着感は軽やかだ。

  • 肌に触れる面には、光学式の心拍センサーなどを搭載

  • フルオロエラストマー製のアクティブバンド

一方、Pixel Watchのストラップバンドは、現状「アクティブバンド」のみが用意されている。同バンドの素材には、競合製品でもお馴染みの「フルオロエラストマー」が使用されている。

ただし、Apple Watchシリーズのスポーツバンドなどと比べると、やや硬めに調整されているのがわかる。先の平らなピンを穴に刺して固定するバックルのデザインなども含め、バンドの付け心地などは従来のFitbitシリーズのバンドに近いと思う。

  • 「写真」文字盤でGoogleフォトに保存してあった花火の写真を適用した様子

ディスプレイには有機EL(AMOLED)が使われていて、深みのある黒色が再現されている。ベゼル(縁)はそこそこ太く、手元で測ると4mm前後あるのだが、深みのある黒によって、ベゼルと文字盤の余白とが上手く馴染み、違和感はない。この筐体とディスプレイ表示との一体感は、かなりこだわって作られていると感じた。

また、スマートウォッチでありながらもディスプレイの色域はDCI-P3をカバーしていることも見逃せない。文字盤に映し出されるカラーはとても鮮やかだ。

  • 側面も丸みを帯びているので、2時位置のボタンは少し裏から押せる

物理ボタンは、3時位置のリューズと、2時位置のボタンの2つを備える。リューズは1度押しでメニューの一覧画面(または文字盤に戻る)、2度押しでGoogle Pay、長押しで電源オン・オフや緊急SOSなどの操作画面を表示できる。

リューズを回転させると、メニュー画面などでスクロール操作が可能だ。2時位置のボタンは1度押しで最近使用したアプリの一覧、長押しでGoogleアシスタントの起動が行える。

なお、筐体側面がラウンドしているため、2時位置のボタンはやや裏面に近い配置となっている。そのため真横からボタンを押すというよりも、少し裏面側から手前に引き上げるような角度で押下した方が滑らかに扱えた。

設定はスムーズ、Fitbit連携は悩ましい面も

Pixel Watchは、Android 8.0以上を搭載するスマートフォンと連携して利用できる。今回の検証では、Android 12を搭載するPixel 3を近づけたところ、Playストアから「Google Pixel Watch」アプリをインストールするよう促す画面が表示された。初期設定までの導線はスムーズだ。

  • Google Pixel Watch用のアプリをインストールするように促される

一方、初期設定の流れでFitbitアカウントとの連携や、Google Fitとの連携などが求められる流れはやや煩雑だ。特に、これまでFitbitデバイスを使ったことがないユーザーにとっては、Fitbitアプリのインストールやサインアップの手間も出てくる。反対にFitbitデバイスのユーザーは、接続機器をPixel Watchへと切り替える手間が出てくる。

ペアリング後には、Pixel Watchの設定変更や取得したデータの確認などを行う際に、スマートフォン側のアプリでの操作が必要になる。

例えば、ウォッチのカスタマイズは「Google Pixel Watch」アプリで、取得したヘルスケア関連データなどは主に「Fitbit」アプリで確認することになるだろう。「Google Fit」アプリにも一部項目は反映されるが、ここでFitbitアプリとの使い分けが悩ましくなる。

  • スマートフォン側では主に3つのアプリを使う

とはいえ、基本的にFitbit由来のサービスを利用しておけば、基本的な体験は揃う。筆者の主観としては、Google Fit由来の機能はシステム側から求められた項目を設定する以上のことはせず、特に放置しておいても良いように思えた。

Fitbit関連サービスがWear OS上で違和感なく滑らかに動作している点は評価できる一方で、FitbitとGoogleのヘルスケア機能がまだ綺麗に統合されておらず、ユーザーとしてはどう使用すればよいのか判断が悩ましい点は惜しい。

筆者としては、Pixelシリーズには混じりっ気のないGoogleサービスとして体験を期待していたので、FitbitとGoogle Fitでデータ管理体系が重複してごちゃごちゃになっていたのは、残念なポイントだと思えた。

  • ウォッチ側のメニューにも「Fitの~」というGoogle Fit由来の機能と、「Fitbit~」というFitbit由来の機能が混在している(ちなみに心電図はメニューにあるだけで日本では使えない)

ちなみに、Pixel WatchはiOS端末とペアリングして利用することはできない。独自のOSで駆動しているFitbit端末はiOSでも利用できたため、Pixel WatchがFitbitの資産を活かしながらもiPhoneで利用できないのはやや勿体無い気もする。

ただし、Fitbitアプリに同期されたデータ自体は、iOS端末にインストールした「Fitbit」アプリからでも確認可能だった。当然、都度Pixel WatchとAndroid端末間での同期は必要になるのだが、Androidとの2台持ちスタイルならiPhoneからでもライフログの確認はできることになる。

そこまでするユーザーがいるかはわからないが、iPhoneユーザーが「どうしてもPixel Watchを使いたい」という場合には、この方向性で模索するしかないだろう。

操作体系はシンプル。基本機能をチェック

Pixel WatchはWear OSで駆動しているため、操作体系はシンプルに整っている。何かしらのスマートウォッチを経験したことがある人ならば、基本機能はまず悩むことなく使いこなせるだろう。また、ペアリング時にチュートリアルが表示されるため、初めて使うユーザーもさほど心配することはないと思う。

  • クイック設定画面

  • 通知画面

具体的には、文字盤画面を下にスワイプするとクイック設定画面が、上にスワイプすると通知画面が起動する。左右にスワイプすることで「タイル」と呼ばれるアプリのウィジェット画面へと切り替えられる。また、長押しすることで、文字盤のデザインを切り替える設定画面が起動する。覚えておくべきはこのくらいだ。

例えば、歩数の達成度合いや、心拍数などのデータ、睡眠時間、スコア、天気、登録した予定などは、タイル画面で素早く確認可能。睡眠時間などをタップすると、アプリが起動し、詳細なデータを確認できる。より詳細な画面へと移りたい場合には、スマートフォンの画面を開くためのボタンを操作すればよい。

  • 歩数などを確認できるタイル

  • 心拍数を確認できるタイル

  • 睡眠を確認できるタイル

  • 睡眠のタイルをタップして表示された詳細画面の一部。睡眠の長さや質によって算出されたスコアなどがわかる。深さについてもグラフ化されている

ワークアウトの計測については、タイルとしてFitbit Exersiceのウォーキング/ランニング/サイクリングのアイコンが並んだ画面が用意されており、目的のアイコンをタップすることで、ワークアウトへと移行できる。

  • タイルからFitbit Exersiceのメニューを選べる

  • ウォーキングの計測を実施した画面

ただし、睡眠のデータを意味のある形で蓄積するには、Fitbit Premiumの利用が前提となっている点は注意したい。Pixel Watchの購入者には、6ヶ月間の無料体験期間が付帯しているものの、その後も使い続けるには有料プラン(月650円、または年6400円)を契約する必要がある。多くのFitbitデバイスと比較してPixel Watchは本体も高額なため、この点はやや割高に思える。

なお、Pixel Watchは、SpO2(血中酸素ウェルネス)やECG(心電図)のセンサーを搭載しているものの、日本国内では測定できないようになっている。また、皮膚温などの測定もできないため、Fitbitのハイエンドモデルや競合他社の上位モデルをすでに使ったことがある人にとっては、物足りない部分もあるかもしれない。

ヘルスケア関連については、ひとまず心拍数と歩数・活動量などを測定できればよいという人。そして、睡眠についての追加課金も許容できるという人ならば、満足できるだろう。

  • Googleマップのナビゲーション機能を使っている様子

  • Googleマップでは、音声入力で近くのコンビニなどと検索して、目的地を選択できる

Googleサービスとの連携については、Googleマップのナビゲーションをウォッチ画面で利用できることや、YouTube Musicの再生などが利用できることがポイントだ。

ただし、YouTube Musicをウォッチから操作するには、有料の「YouTube Music Premium」の購読が必要。Pixel Watchの購入者には3か月の無料期間が用意されているが、通常プランで1180円/月かかるので、ウォッチのためだけに購読するのはおすすめできない。どちらかというと、すでに別の目的でYouTube Premiumを契約していた人ならウォッチでも便利に使える、と理解しておいた方が自然だ。

キャッシュレス決済に関しては、Google PayでのSuicaが利用できることがポイント。筆者が検証した環境ではアカウントの連携でエラーが出て弾かれてしまったので、正しく利用することができなかったが、仕様としては利用できるはずなので、初期設定さえ上手く乗り越えれば頼りになる機能だ。

ただし、設定過程でエラーが発生したときにその原因が何なのかわからないと筆者のように詰む。

筆者の場合、Google Workspaceのアカウントに関連したMDMの設定なのか、個人アカウントに紐づいた過去のSuicaの登録状況による制限なのか、他OS端末でのアカウント・Suicaの利用状況なのか、ペアリング中のスマートフォンやOSバージョンが非対応なのか――などなど検討しなくてはいけない可能性が多すぎた。

ぜひ登録時のエラーの原因と必要な対応までが、ユーザーにもわかるようになれば嬉しいし、欲を言えばシンプルな条件でSuicaを気軽に新規発行できるようになると良いなと願う。

弱点はバッテリー、充電タイミングが難しい

筐体デザインの完成度が高く、ソフトウェアの体験も(Fitbit由来の機能とGoogle Fit由来の機能の重複など、一部のわかりづらい部分を除けば)概ね良好な一方で、少々気になった特徴もあった。

それはバッテリー持ちの短さだ。Pixel Watchのバッテリーは仕様上、最大24時間しか持たないとされており、実使用の体験では、これとほぼ一致するか、さらに短くなる。

  • 付属のワイヤレス充電器で充電しているところ

例えば、朝に100%まで充電した状態で利用を開始したとすると、昼過ぎから夕方には半分程度まで減っている。そして、夜には大体、就寝前に充電をしなければ、睡眠の測定ができない程度の容量まで減っている。ワークアウトなどの使用状況によっては、就寝前にバッテリーが切れていたこともある。

なお、就寝時に装着していると、睡眠時間によって変動するが、概ね40%前後のバッテリーが減る印象だった。もし「おやすみモード」をオンにした状態で就寝しても25~30%は消費された。

なので、Pixel Watchを終日着用するためには、朝起床して身支度を整えている間にしっかり充電を1度行い、就寝前に軽めでも良いので翌朝まで持つ程度の2回目の充電を行う――というのが現実的だ。

ちなみに、充電スピードは50%充電するのに30分、100%充電するのに約80分かかる。朝に1時間、就寝前に30分くらいが目安だろうか。

このように日に2度の充電をしなくてはならないため、初めてスマートウォッチを使うような人では、充電管理が億劫になってしまうかもしれない。Fitbitデバイスでは1週間弱はバッテリーが持つ製品が多いし、比較的バッテリー持ちが短いと言われるApple Watchシリーズでも、仕様上は最大18時間と記載されているものの、実使用では1.5日程度持つことが多い。

こうした視点でPixel Watchの最大の弱点はバッテリー持ちだと言える。同機を購入する際には、通常使用で丸1日バッテリーが持たない可能性を理解しておきたい。また、充電器も同梱の純正ケーブルを利用する必要がある。

同様に、Pixel Watchでは4G LTEモデルも選択できるが、バッテリー持ちを考えると、単体でのモバイル通信を活用するタイミングはよく考えなくてはならない。

総評:Googleサービスに浸かっている人に

Pixel Watchの価格は、Wi-Fiモデルが39,800円、4G LTEモデルが47,800円。4万円弱の価格帯でステンレススチールを採用したデザインの良いスマートウォッチが入手できるのはお得感がある。

ただし、ペアリングできるのはAndroid 8.0以上を搭載したスマートフォンのみであり、購入を検討すべきは基本的にAndroidユーザーに限られる。

尖った測定項目はないものの、歩数・活動量の測定や、睡眠の測定などヘルスケア関連の基本機能は問題なく使える。一方で、Google FitとFitbit由来の機能がやや重複していてわかりづらいため、現状はデバイスやガジェットに詳しいユーザー向けの端末に留まっている印象もある。

また、Fitbit Premiumが有料であり、端末としてもバッテリー持ちが短いという特徴があるので、あえて睡眠測定を重視せず、昼用のウォッチと割り切って使うのも一つの手かもしれない。

一方、Googleアシスタント、Googleマップ、YouTube Music、Google Home(現状はプレビュー)など、Googleサービスとの連携は多い。例えばYouTube Premiumをすでに契約していて、さらにスマートホーム機器もGoogle Homeをハブとして構築してきた人などならば、同機のメリットを活かせる部分も増えてくると思う。