日本のバイクメーカーが主催するイベントはどんな雰囲気で、そこにはどんな人たちが集まっているのか。ヤマハ発動機のファンが一堂に介する「ヤマハモーターサイクルデー」(YAMAHA Motorcycle Day)が3年ぶりに開催されると聞いたので、若き日に「SR」や「セロー」などに乗っていたこともある筆者が現地を訪ねた。
3年ぶりのリアル開催
ヤマハ発動機が生産するモーターサイクルやスクーター、電動アシスト自転車を販売するヤマハ発動機販売では、2018年から「ヤマハモーターサイクルデー」を開催してきた。車種の垣根を超えてヤマハオーナーやヤマハファンが集い、ツーリングの楽しみを共有したりライダー同士が交流を行ったりする熱量の高いイベントだ。
初年度と2年目は東西2カ所に舞台を設定。2年目の2019年は西が熊本県の「阿蘇ミルク牧場」、東は山梨県の「ふじてんリゾート」で開催され、合わせて4,652名の来場者を集めた。その後は新型コロナウイルス感染拡大の影響で休止していたが、今回は3年ぶりのリアル開催となった。
ヤマハでは以前からファン、ユーザー向けのイベント開催に力を入れており、ヤマハモーターサイクルデーのほか、ユーザーに安全なバイクライフを楽しんでもらうための「ヤマハライディングアカデミー」や、ツーリングの途中に一息ついてもらえる場を提供する「ヤマハライダースカフェ」と名付けたイベントを実施している。地域密着型のヤマハライダースカフェ、全国規模のヤマハモーターサイクルデーという色分けになっているようだ。
参加者5,000人!
さて、3年ぶりのリアル開催となったヤマハモーターサイクルデーは、2019年の会場にもなった山梨県都留郡鳴沢村の「ふじてんリゾート」で行われた。富士五湖周辺を走る国道139号線を途中で南に折れ、5kmほど走ったところにある。
冬はスキー場として多くの人が訪れるふじてんリゾートだが、それ以外の季節はいわゆるオフシーズンであり、駐車場は大きな空き地になる。そこにヤマハファンが集結した。こうした場でのクルマやモーターサイクルのイベントは多くなりつつあるが、施設の有効活用という点でも好ましい。
中央自動車道の河口湖インターチェンジを降りて国道139号線に入ると、早くもツーリングのグループにいくつも出会うことになった。新旧大小さまざまだが、よく見るとほとんどがヤマハ車で、この日を待ち望んでいるライダーが多いことが伝わってきた。
会場に着くと、参加台数の多さに驚かされることになった。入場は列ができるほどであり、3段ある駐車場はほぼ満車だったからだ。
主催したヤマハ発動機販売によれば、参加台数は2輪車が3,200台、4輪車が600台で、入場者数は5,000人に達したとのこと。最初に紹介したコロナ禍前の実績を上回ったことになる。この数字からも、待望の開催だったことがわかる。
集まった車種はバリエーションに富んでいる。「MT」シリーズや「YZF」シリーズといったフレッシュなモデルだけでなく、1980~90年代に人気だったレーサーレプリカ「FZR」シリーズ、3気筒シャフトドライブという意欲的な設計を持つ1970年代のナナハン「GX750」なども姿を見せ、ほとんど「動態博物館」とも呼べる状況だった。
マッチョなフォルムと強烈な加速で今も根強い人気を持つ「VMAX」5台で来場したグループは2019年にも参加したとのこと。普段はSNSで交流し、イベントがあるときには声を掛け合って集まっているそうだ。このイベントはヤマハが主催なので、VMAXでも集まりやすいと語っていた。
「LMW」(リーニング・マルチ・ホイール)と呼ばれる前2輪の「ナイケン」で参加したライダーは同じLMWの「トリシティ」からのステップアップで、関東地方に引っ越してきた3年前に購入。このイベントは初参加だそうで、メーカー運営ならではの信頼感や安心感も魅力と話していた。
メーカーがイベントを開催する理由とは
メイン会場は最上段の駐車場で、最新のモーターサイクルやスクーターに直接またがれる展示や実証実験中の電動スクーター「E01」、オフロードも走れる電動車いす「NeEMO」(ニーモ)、立ち乗り型電動3輪モビリティ「TRITOWN」(トリタウン)など最新の機種も見ることができた。
周辺にはマフラーやヘルメット、ウエアなど、さまざまなアフターパーツのブースが並ぶ。多くの店舗は展示だけでなく販売もしており、限定商品や割引価格もあって、個人的にもかなりそそられた。
会場脇の斜面は冬はゲレンデだが、今回は電動アシスト自転車「YPJ」や「PAS」の試乗が行われていた。リフトに自転車ごと乗せて上まで行きダウンヒルを楽しむというもので、行列ができるほどの人気だった。エンジンとモーター、モーターサイクルと自転車という違いはあるが、来場者たちはそういう垣根を感じず、同じ乗り物として楽しんでおり、好感の持てるシーンだった。
会場の奥にはステージが設けられており、日本盲導犬協会への育成資金を募る「YAMAHA NICE RIDE募金」の贈呈式のほか、来場者が一堂に介しての記念撮影などが行われた。
現場で話を聞いたヤマハ発動機 企画・財務本部 コーポレートコミュニケーション部 広報グループの堀江直人氏は、コロナ禍でモーターサイクルに乗る人が増えた今こそ、走って楽しむ場所、リアルに会える場所を提供することが大切と語っていた。
とはいえ、最近になってバイクに乗る人が増えたといっても、1980年代のバイクブーム時と比べれば数はまだまだ圧倒的に少ない。バイクに乗り始めても、ツーリングなどに誘ってくれる人が少ないので、交流が生まれづらいという側面もあるようだ。そういう背景もあるため、メーカー側がモーターサイクルを通じて楽しめる機会を作ることが重要になる。
筆者にとっても、これだけ多くのモーターサイクルやライダーがリアルで集まるアウトドアの場はひさしぶりで、傍観者でありながらイベントの良さを満喫できた1日だった。