独Cherryは11月3日、「MX Black Clear-Top」を発表した。メカニカルキーボードのユーザーコミュニティの間で「Nixie」と呼ばれる1980年代に製造されたスイッチの復刻版だ。ドイツのアウエルバッハの製造施設のみで製造し、2023年初頭の発売を予定している。
Nixieは1980年代にNixdorf Computer用に数年間だけ提供されたスイッチで、生産数が少なかった。ところが、豊かな打鍵音となめらかなスイッチング感、黒い軸にハウジング上部がミルク色という特徴的な外観も相まって、生産が終了した後でリニアMXの愛用者の間でNixieの評価が上昇。今でも1個3ドルから5ドルで取り引きされ、7ドル程度で売られていることもある。ちなみにCherry MX Blackの今の価格は1個0.69ドルだ。
MX Black Clear-Topは、Nixieの構造と設計を踏襲しながら、現在の製造工程と素材に最適化した。キー荷重が63.5cNとMX Black(60cN)より少し硬く、入力位置(2.0mm)とキーストローク(4.0mm)はMX Blackと同じ。
今日の自作キーボード愛好家やメカニカルキーボード・ユーザーの多様なニーズに対応するために、スイッチ内部に潤滑油を塗布するバージョンと塗布しないバージョンを用意する。塗布するバージョンにはKRYTOX GPL 205 GRADE 0相当の潤滑剤を使用し、音響特性に影響を与えずに低摩擦の作動を実現するように塗布する。
Cherryは10月17日に「MX Ergo Clear」というスイッチも発表している。メカニカルスイッチの愛好家の世界には、既存のスイッチの長所を利用し、異なるスイッチの部品を組み合わせる「フランケンスイッチ(frankenswitch)」という改造スイッチが存在する。MX Ergo Clearは、2011年にフォーラムGeekHackに投稿されたDIY改造にインスピレーションを受け、Cherry MX ClearのステムとCherry MX Blackのスプリングを組み合わせた。クリック感があって重いMX Clearのクリック感を残しながらより軽いスプリングで押しやすくしている。
Cherryが持っていた「Cherry MX」のメカニカル方式の構造に関わる特許が切れたことで、数多くのメーカーがMXスイッチの設計に基づいたスイッチを製造し始め、初期のMXスイッチを模倣したスイッチも競合メーカーから登場している。Cherryはそうした需要に関心を示してこなかったが、ここにきてDIYによる改造や競合メーカーでしか入手できなかったMXスイッチの需要に応え始めている。