これまでは淡々としたサブタイトルが多かった大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)だが、第41回「義盛、お前に罪はない」(脚本:三谷幸喜 演出:吉田照幸)はものすごく心情あふれるサブタイトルだった。北条と和田の酷い同士討ちと言われた壮絶な和田合戦がほぼ終結したとき、駆けつけた実朝(柿澤勇人)が発したセリフである。
坂東武者として結束が固かったはずの北条と和田の哀しい別れではあったが義盛(横田栄司)には実朝がいる……と思ってうるっとなった。でもそれが逆にまずかったようで、義時(小栗旬)と義村(山本耕史)が目配せして、義盛に大量の矢が放たれる。その衝撃たるや……。つまり、「義盛、お前に罪はない」はエモいサブタイではなくトリガーだったのだ。
義時もおそろしいが、それを書いている三谷氏がおそろしい。たくさんの者たちが見ている前で、実朝と義盛の絆の強さを見せつけたら、義時の立場がない。義盛がうっかりしていたのか、意外と野心があったのか、義時はどこまで狙っていたのか、よくわからないが、目立ち過ぎたらいけないことは、ドラマの最初から描かれていた。血縁者や優秀な人物は消される。義経(菅田将暉)が最たるもの。頼朝(大泉洋)の血縁かつ優秀だったから当然のように消された。
過酷な世界のなかで義時は常に目立たないようにしてきた用心深い人である。常に、自分から有利な方向に持っていったことには決してしないで、誰かに言わせたり、なんらかの出来事があってそうなったりというように、自分はそういうつもりはなかったが仕方なく……という流れを作るように仕向けていた。かなりの策士である。それでもやっぱり、義盛の死のあとはひとり哀しみの顔を誰にも見られないように戦場を去って行った。男は、上に立つ者はつらいよ的なムードで映っていたけど、やっていることが非情過ぎて、義時派になりにくい。
これで、北条家は安泰と思ったら、実朝が義時を遠ざけようとして朝廷に頼り、義時の思惑は外れてしまう。あれだけ酷いことをしたら実朝も義時に幻滅するのも無理はない。義時もしくじったなあという気がするが……。いや、頼家(金子大地)のときも嫌われていたっけ。策士のようでここぞというときに失敗するのが義時だ。
ここまで見てきて、物語としてはすごく凝っていて面白いのだが、人を陥れてばかりの義時も、いい年なのに熱血な義盛や、妻(宮沢りえ)に夢中の時政(坂東彌十郎)も、わかりやすくコウモリな義村も、誰も彼も単純過ぎないかと筆者は思う。これが坂東武者の個性ということだろうか。
よくいえば野性的な鎌倉の人たちのなかで急激に光ったのが、文官の大江広元(栗原英雄)。この人もまた優秀ながら、これまで目立っていなかったが、第41回で突如、武芸の腕が立つところを披露した。ここもまた三谷氏の冴えたところで、第41回は和田合戦で義盛のターンという先入観で見ていた視聴者がほとんどだろうと思うが、そこに広元の華麗なアクションシーンを入れて来て、ハッとさせた。
暗闇で敵をどんどん倒していく広元はアニメキャラみたいな感じでかっこよく、SNSでは「仕事人」に例える声もあった。広元は、義時と同じく、目立ったら消されるとわかっているのではないだろうか。この活躍、誰にも見られていない。いつの間にか政子(小池栄子)ともなんだかいい感じになっているし……。やはり目立たないことが大事なのだと『鎌倉殿』を見ていると思う。
さて。義盛の最期、広元の活躍と、この回、三谷氏の冴えはまだある。泰時(坂口健太郎)の活躍である。矢をがんがん放ってくる和田軍から身を守るために、板を集めて動く要塞のようにして前進する作戦を行う。しかもその手柄を弟に譲るというどこまでも頭がよく、善人。本当は義時もこうなるはずだったのに……というところであろう。八重(新垣結衣)の子供であることも泰時の善なる部分が絶対であるように感じさせる。この移動要塞みたいな作戦、シェイクスピアの『マクベス』のある作戦のようで面白かった。
『マクベス』はさておき、第41回は和田義盛劇場、舞台俳優・横田栄司がまるで舞台で演じているかのようなシーンがたくさんあった。まず、義盛と義村のシーン。義時と通じていることを察して、早めに裏切れと促す義盛。山本耕史もデビューは舞台『レ・ミゼラブル』で、舞台でも大活躍しているから、2人の空気感だけで満足度の高いシーンになった。
次に、巴御前(秋元才加)と義盛の2つの場面。「俺は生きて帰る、そのときに、おまえがいなかったら俺、困っちまうよ」と言う義盛。海辺で「いっそのこと鎌倉殿になっちまおうか」と笑う義盛。その時々の巴の表情はほんとうに幸せそうで、義盛が全身全霊で優しいからこそ、こんな笑顔になったのだろうなと感じた。
以前、筆者は秋元才加にインタビューしたとき義盛とのシーンがほっこりすると言ったら、秋元は「和田義盛がすごく愛に溢れていて、豪快なんだけど、そのなかに優しい繊細さがあることを横田さんのお芝居から感じて、自然に巴のお芝居が変わったのかなと思います」と語っていた(プラスアクト22年11月号より)。前述のシーンを指しているかわからないが、この言葉が心の底から納得できた第41回だった。ただし、巴が知らなかった義理の息子がたくさんいた(第40回より)義盛、どうなっているの? とも思うが、巴と出会ってからは巴一筋ということなのだろうか。三谷氏の物語は人間のいろんな面を描いていて奥深い。
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