三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」シリーズから、内蔵センサーによって人の集中度や感情を推定して運転を最適化するという新モデル「Zシリーズ」が発売されます。快適な空調制御だけでなく、テレワークなどのとき集中していないと人間に気流を当てて覚醒を促す……といったユニークなエアコンです。メディア向けの体験会で取材してきました。

  • ルームエアコン「霧ヶ峰」の新モデル「Zシリーズ」

「霧ヶ峰 Zシリーズ」(以下、Zシリーズ)の発売は2023年2月、ラインナップは2.2kW~9.0kWの12機種です。価格はオープン、推定市場価格は278,000円前後~448,000円前後となっています。

Zシリーズは、新開発のバイタルセンサー「エモコアイ」を搭載。エモコアイは、2022年9月に三菱が技術発表したセンサーです。

24GHzドップラーセンサーが人体からの微弱な電波の反射をキャッチして、脈波を計測。さらに脈波の周波数や波形を解析して、独自のアルゴリズムによって「集中度」「リラックス度」「眠気度」「疲労度」といった人の感情をリアルタイムで推定します。エアコン本体からだいたい半径6m・180度の範囲にいる人の脈波を計測し、複数人がいるときは合成して推定します。

三菱電機のエアコンは、以前から室温や人間の体感温度などを検知して、快適な空調制御を行う赤外線センサー「ムーブアイ mirA.I.+(ミライプラス)」を備えています。今回、「エモコアイ」と「ムーブアイ mirA.I.+」を組み合わせた「エモコテック」によって、より快適な制御をするようになりました。

「2018年度には床や壁の輻射熱、日射熱などが体感温度に与える影響を予測して制御する機能を搭載。2019年度には、温度と湿度の変化を予測し、最適な運転モードと気流に自動で切り替える機能。2020年度には人工衛星に使われるような高性能な赤外線センサーを備えて、気流の到達点などの変化を検知して制御していました」(三菱電機の担当者)といったように、三菱のエアコンは年々「設定いらず」のエアコンへと近づいてきました。

もう少し詳しくいうと、部屋の断熱材の性能、窓などから入る日射などの影響、さらに部屋の間取りや家具の配置による温度変化などを加味しながら気流を制御し、部屋のどこにいても快適になるよう進化してきました。しかも、除湿運転がいいのか冷房運転がいいのか迷うようなときも、エアコンおまかせで最適な運転で過ごせるところまで賢くなっています。今回の新モデルではさらに、エアコンを使っている人が、リラックスしているかどうか(快適かどうか)を判断し、気流を制御します。

  • ハートマークのアイコンが光っているときは「エモコアイ」が動いています

  • 体験会の会場では、集中度や脈波などをモニターで表示されていましたが、現在のところはアプリなどから集中度や体感的な快適度といった要素をチェックすることはできません。ちょっと残念

暖房時、風をよけたり当てたりして、快適な気流を調整

従来は、赤外線センサーによって人の体表面や部屋の温度を測り、エアコンの運転を制御していました。室内の条件から判断して人が快適だと思う温度や気流制御にしていたわけですが、実際にユーザーが「快適」と思っているか、「もうちょっと調節したい」と思っているかは分かりません。

エモコアイを搭載した新モデルは、人間の脈波から感情を推定し、ユーザーが快適と感じていない(不快要素がある)ときには、気流を人に当てないようにするといった運転をして、ユーザーがより快適になるように調整していきます。気流を当てなくしても不快要素を検知するようなら、さらによける、それでもだめなら逆に風を当ててみるなど、ユーザーの脈波がリラックス(快適)状態になるまで気流をコントロールします。

  • リラックスしているとき、(スポーツ番組を見て)エキサイトしているときなど、気持ちの状態で脈波が変化します

頭をシャキッとさせる「フレッシュモード」

このほか、テレワークやリビング学習で重宝しそうな機能が「フレッシュモード」です。リモコンの「セレクトボタン」を押すと、集中しやすい空調環境にするフレッシュモードになります。

エモコアイがユーザーの脈波が早くなったり遅くなったりするゆらぎを見ることで、集中度を推定。集中力が低下? と判断すると自動で室温を少し下げるほか、スイング気流でユーザーに風を当てたりしながら覚醒を促します。気流を当ててもまだシャキッとしないようなら、さらに気流を強くするなどします。

  • リモコンの「セレクト」ボタンで「フレッシュモード」に切り替わります

近年は在宅勤務が増えてきましたが、三菱電機の調査では約6割の人がリビングで在宅勤務をしています。これまではくつろぐ空間だったリビングが、仕事のときは集中が必要な空間になったことから、新たに「フレッシュモード」を搭載したそうです。

殺伐とした雰囲気でも、部屋の空調は快適に

快適・不快といった気持ちは自律神経(いわゆる交感神経、副交感神経)と関係しており、自律神経の状態は脈波から推定できます。例えば、スポーツ観戦でエキサイトしているときや空調を不快に思っているときは似たような脈波を示しますが、それぞれどんな理由でそのような脈波になっているのかは判別していません。

そこで個人的に気になったのは、夫婦ゲンカなどで殺伐とした空間で不快になっているときは、エアコンはどのような動きをするのか……ということ。三菱電機の担当者によると、理由によらず人間がエキサイトしていると不快を示す脈波が長く続きますが、気流による快適・不快の場合は、気流を変える短時間で脈波に変化が起きるとのこと。つまり、殺伐とした雰囲気の部屋でも、空調としては快適になるよう制御していきます。(そんなときは気流なんて気にしてる場合ではないかもしれませんが……)。この辺りは最終調整中とのことですが、数分間おきに人の感情をチェックし、その都度ユーザーが快適に感じるような気流制御を行います。

ちなみに、室内に複数の人がいるときは合成した脈波で解析しており、個別には判別していません。また、ネコ、小型犬、中型犬の脈波は人間とは大きく異なるため、感情を推定するときには除外して解析しているとのこと。大型犬は人間と脈波が似ているところがあるため、現状では大型犬の脈波は解析時に分離していないそうです。

  • 赤外線センサーとエモコアイによる「エモコテック」が快適な空調制御

  • エモコテックでは、映画を見て感動したときに起きた心の変化なのか、気流によって感じたリラックスした気持ちなのかは判別しません。エキサイトしたときなども、プラスの感情によるものなのか、マイナスの感情によるものなのかを判別するわけではありません

別売りの換気ユニットも用意

このほか、別売りの「換気ユニット」を用意。換気ユニットを増設すると、リフレッシュモードとの併用によって、室内の二酸化炭素濃度が高くなりすぎないようにして集中力が持続しやすい室内環境をサポートします。

エアコンをつける機会が増えるにつれ、除湿、冷房、暖房などの設定が面倒に感じることも多くなってきたのではないでしょうか。室内が設定温度になったからといって、それで快適になるとは限らず、設定温度をたびたび変えることがあります。

今回の新モデルは、人間の気持ちを推定して気流を調節するエモコアイの導入によって、実際に使う人にとって快適な気流制御をエアコンができるようになりました。リビングでのテレワークを例に紹介されたフレッシュモードは、受験生にとってもうれしい機能。新しいZシリーズは冷房能力2.2kW(目安として6畳用)からラインナップしているので、子ども部屋や書斎への導入にも良さそうです。