およそヒーローらしからぬ個性を備えた面々が、自分たちのできる精一杯のことをやりながら大いなる運命や不思議な謎にぶつかっていく「スーパー戦隊シリーズ」の超・異色作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』は、今や日曜朝のお楽しみとして幅広い年齢層から絶大な支持を集めている。
2022年10月30日放送のドン35話「おりがみのうた」では、本作のストーリーにおける大きな「謎」のひとつ「獣人(ジュート)」についての詳しい情報がいくつか明らかにされた。
1年前、恋人・夏美(演:新田桃子)が行方不明になった事件に関わっていると疑われ、どういうわけか全国「指名手配」となり、逃亡中だったイヌブラザー/犬塚翼(演:柊太朗)が、キジブラザー/雉野つよし(演:鈴木浩文)の通報により警察に捕まった。
彼の取り調べを担当したのは、オニシスター/鬼頭はるか(演:志田こはく)の叔母にあたる刑事・ゆり子(演:三輪ひとみ)だった。ゆり子はかつて、人間の姿をしていながら中身が人間以外の何者かである「獣人」に遭遇しており、警察も以前から頻発している行方不明事件にこの獣人が関係していると睨んでいた。
翼はやっとのことで再会した夏美が獣人だった事実を知るが、次の瞬間、不思議な「森」へと連れ込まれる。そこでは多くの人間たちがツルに巻きつかれ、意識を失っていた。翼はその中に、本物の夏美や狭山刑事(演:杉本凌士)の姿を確認。なんと現実世界に存在しているのは、彼女たちの姿をコピーした獣人だったのだ……。
これまで、雉野つよしとの仲睦まじい姿を見せていた愛妻「みほ」が、実は翼の恋人で1年前行方不明となっていた「夏美」なのではないか、という描写がいくつも見られたが、みほには翼と過ごしていた劇団員時代の記憶がまったくなく、翼の姿を見てもまったく無反応だった。
かけがえのない妻・みほを愛し、大切に思うつよしの心は時おり「暴走」し、これまでに二度も「ヒトツ鬼(人間の強い欲望から生まれる鬼)」に変貌したことがある。突出したところのない平凡なサラリーマンのつよしにとって、みほは「命」と同等の存在だったのだが、彼の幸せな日々は唐突に終わりを告げることになった。
ドン34話「なつみミーツミー」でみほは翼と会い、夏美だったときの記憶を取り戻し、つよしのもとを去っていった。翼にとっては1年間におよぶつらい逃亡生活の末、ようやく恋人を取り戻したことになるのだが、つよし側に立ってみると、好人物ではあるものの警察に追われている男(翼)にいきなり愛する妻を奪われたというとんでもない状況だ。
ドンブラザーズはヒトツ鬼が出現すると、各人がどこで何をしていようとドンブラスターが目の前に現れ、すぐさま「アバターチェンジ」して現場にワープし、戦うシステムとなっている。ドン35話のように、つよしと翼との間にのっぴきならない対立関係があったとしても、まったくお構いなしに2人がアバターチェンジしてドンモモタロウ/桃井タロウ(演:樋口幸平)やサルブラザー/猿原真一(演:別府由来)、オニシスターと共に戦うのも実にユニークな展開だといえよう。犬塚翼がイヌブラザーである事実をタロウ以下誰も知らないという「スーパー戦隊」としては異例すぎる設定のおかげで、メンバーのプライバシーに関わる問題が戦闘の場に持ち込まれずに済んでいるのはけっこうなのだが、その結果、問題がなかなか解決する気配を見せないという難点もあった。
登場人物同士がお互い落ち着いて、腹を割って話し合えば問題が解決するかもしれないのに、それをしないがために話がどんどんこじれていくというのは、『仮面ライダーアギト』(2001年)や『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003年)でも多く見られた、脚本・井上敏樹氏の得意とする巧みなストーリー展開。意図的に真実を告げず、策謀を図る人間が1人加わることで、他の善良な人間たちが混乱に巻き込まれてしまう「悪意のドラマ」は、井上氏の作り出すヒーロー作品の持ち味のひとつとして、いくつもの作品でファンをうならせている。
『ドンブラザーズ』では誰かをわざと陥れようとする人間の悪意は感じられず、みなそれぞれ自分の道をまっすぐ歩こうとしているだけだが、その真っすぐさゆえ時にぶつかり、対立するはめに陥ってしまう。いずれにせよ、愛すべきキャラクターたちが自分の信じる方向に向かってひたすら突き進もうとしている姿は、どんな形であっても実に魅力的だ。立場上は敵同士である「脳人(ノート)」のソノザ(演:タカハシシンノスケ)が、はるかの漫画『初恋ヒーロー』にハマった結果、はるかにより面白い漫画を描いてもらうべく厳しい注文をつけるようになり、その結果彼女から「編集長」と呼ばれるといった関係性の変化などは、シンプルな「正義と悪の戦い」といった構図から大幅にはみだしている本作ならではの出来事だといえる。
「みほ=夏美」をめぐって、つよしと翼のぶつかりあいが今後どのような状態へと発展していくのか、次のエピソードがどうにも気になるところだ。しかし、あいにく11月6日の『ドンブラザーズ』は放送休止。ドン36話「イヌイヌがっせん」は11月13日の放送となる。
翼の体をコピーした獣人は、人間世界でいかなる混乱を引き起こすのか。そして本物の翼は、獣人の翼とどのように向き合うつもりなのか? 番組後半になるまでドンブラザーズ周辺の波乱万丈の展開にほとんど関与せず、何も知らないままドンモモタロウが金色のゴールドンモモタロウにパワーアップしていて「何で金なんだ!?」と驚いていたイヌブラザー/犬塚翼だったが、ここへ来て物語の鍵を握る男へと華麗なる変化を遂げた。毎回、常に意表を突くストーリーで我々を魅了する『ドンブラザーズ』。クライマックスに向けてどのような展開が待っているのか、まったく興味は尽きない。
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