駒の動かし方と基本的な戦法は分かったけど、ネット対局などで人と対戦するとなかなか勝てない‥‥なんとことありませんか? この記事では、マイナビ出版刊行の将棋に関する書籍より、対局に活かせる戦法や考え方に関する内容を抜粋して、お伝えします。

前編に引き続き本稿では、プロ公式戦で現れた三間飛車VS居飛車穴熊における、スペシャリスト達の美技・巧技をご覧いただきます(段位はすべて対局当時のもの)。

ファンをひきつける手順

三間飛車を語る上で、この方を素通りするわけにはまいりません。居飛車穴熊に三間飛車から速攻を仕掛ける「コーヤン流」を編み出し、アマチュア三間飛車党にとってはカリスマ的存在ともいえる中田功八段の一戦から、らしさマックスの手順をご覧いただきます。▲中田功八段―△杉本昌隆八段戦(第7期叡王戦段位別予選八段戦/令和3年9月10日)から。

  • 【第1図は△8六歩まで】

第1図は、有力なコーヤン流対策とされる△5五歩の突き捨てに対し、先手が8筋を放棄して果敢に▲同角と取り、ならばと後手が△8六歩と突いた局面。アマチュアならとりあえず▲同歩としてしまいそうな局面ですが、カリスマにはそんな平凡な手は似合いません。

第1図以下の指し手

▲6四歩 △同 歩 ▲2五桂 △8七歩成

▲1三桂成 (第2図)

  • 【第2図は▲1三桂成まで】

  • 第1図から、(1)▲6四歩→(2)△同 歩→(3)▲2五桂→(4)△8七歩成→(5)▲1三桂成(第2図)

8筋の歩の成り込みを許し、その間に桂馬をダイブ! 穴熊の玉頭を直撃しました。この爽快さがコーヤン流の魅力です。対局はこのあと、杉本八段の的確な対応によって先手が形勢を損ねてしまいましたが、アマチュア同士の対局であれば、王手の掛からないガチガチの穴熊が終盤まで残っているよりは、桂ダイブから角筋+端攻めで襲い掛かるのは実戦的に有力かと思いますし、何よりこの奔放な手順をぜひ見ていただきたいと思い、紹介しました。

「実戦的に」と記しましたが、この対局、最終盤に中田八段が一瞬のスキを突き、第3図の▲2二銀と打つ鋭手が出て先手の逆転勝ちとなりました。第3図は、次の▲3三桂成(△同香や△同角は▲2五金で詰み)が受けづらい局面です。

  • 【第3図は▲2二銀まで】

三間飛車による穴熊攻略60局+「本当に」ためになるエッセー24編を収録

今年の6月に発売された『三間飛車勝局集』は、プロ公式戦における「三間飛車」VS「居飛車穴熊」で、三間飛車が勝利を収めた対局のみを60局収録した実戦集となっています。書籍紹介はこちら

このコーナーで手順の一部を紹介した5局は、すべてこの『三間飛車勝局集』に収録の対局から。本書にはもちろん、初手から終局まで、すべての指し手が掲載されています。ポイントとなる指し手には解説が付き、棋譜を並べている途中で意味のわかりづらい手が出現しても、納得しながら読み進めていくことができます。

キャプション:※▲井出△中座戦の、手順を紹介した付近の解説

60局の戦型別内訳は以下の通り。

第1章 先手石田流 19局

第2章 後手石田流 24局

第3章 ▲4五銀・△6五銀 4局

第4章 コーヤン流 6局

第5章 その他 7局

石田流に重きを置きつつ、他の戦型もカバーしています。

特筆すべき点は、「エッセー」が非常に充実しているという点。棋書のエッセー、コラムというと、棋士の日常やちょっとしたエピソードなど、悪く言えば「ヒマネタ」的なものが多いのですが(それも楽しいのですが)、本書に収録されている24編のエッセーは、本当に、本当に半端ではありません。どれもためになるものばかりです。「今日は棋譜を並べる気力がないなー」という日でも、これを読むだけでもかなり良い勉強になるでしょう。ためになるエッセーのラインナップは以下の通りです。

  • 『三間飛車勝局集 対居飛車穴熊編』書籍編集部(編集) 、久保利明(推薦)、(販売元)マイナビ出版

居飛車穴熊に手を焼いている三間飛車党の方をはじめ、広く振り飛車党の方に、また逆に、プロが考えた三間飛車対策を知りたい居飛車党の方にもおすすめできる一冊です。ぜひ1局1局ご堪能いただき、棋力アップを目指してください。

執筆:富士波草佑(将棋ライター)