大好きな旧車を持っているけれど、エンジンの調子が悪かったり、維持費が高すぎたり、換えのパーツが少なくなってしまったりして、もう乗れなくなるかも……。そんな悩みをお持ちの方は、愛するクルマを電気自動車(EV)に改造すれば、今後も長く付き合っていけるかもしれない。ただ、どんなクルマでもEV化できるのか、費用はいくらくらいかかるのか、EV化したとして性能はどうなるのかなど、いろいろと気になる点もあるので、コンバートEV事業に取り組むカレント自動車に話を聞いてみた。
930型911もEVに!
カレント自動車がコンバートEV事業を始めたのは10年ほど前のこと。ディーゼル規制などもあり、「クルマは環境に悪い」というイメージが強まりつつある中で、旧車のEV化というアイデアを具体化してみることになったそうだ。
コンバートEV事業はユーザーが持ち込む車両をEVにするのが基本。カレント自動車が自らコンバートEVを作って販売することはないそうだが、客の好みに応じたベース車両を探すことは可能だという。基本的にはどんなクルマでもEVにできるそうだが、コンピューター制御の入った最近のクルマよりも、全てが機械式の古いマニュアル車の方がEV化しやすいというのは聞いていて意外だった。
EVは基本的にバッテリーの搭載量(容量)で航続距離が決まる。床下にバッテリーを敷き詰めている最新のEVはフル充電だと数百kmを走れるが、コンバートEVはどうなのか。旧車は最近のクルマよりも往々にしてサイズが小さいので、バッテリーをたくさん積み込むのも難しそうだ。
カレント自動車によれば、重くて場所をとるバッテリーを旧車に積むのは確かに大変で、例えばガソリンタンクを除去してフレームを組みなおしたり、リアシートをつぶしたりしてバッテリー搭載スペースを作り出しているという。最初の頃は鉛のバッテリーを使ってEV化していたので航続距離を伸ばしにくかったそうだが、最近ではリチウムイオンバッテリーが使えるので、航続距離は80~100kmくらいまで出せるようになった。このくらい走れば日常づかいには問題ないだろう。
費用はどのくらい?
最新のEVは性能がとても高く、テスラの各モデルやポルシェ「タイカン」などは恐ろしく速いが、コンバートEVはどうなのか。
カレント自動車では、エンジン車時代と同じくらいの性能になるよう、あえてコンバートEVのモーター出力を抑えるようにしているそうだ。というのも、古いクルマに大出力のモーターを積んでしまうと、超強力な駆動装置に対応していない部分、例えばブレーキやドライブシャフトなどが性能についていけないのだという。モーターで異次元の加速を手に入れたとしても、ブレーキのストッピングパワーがベース車のままであればかなり危険なので、これは当然の措置といえるだろう。
旧車をEV化することの利点はいくつもある。例えば税金、メンテナンス費用は安くなるし、ガソリン代はかからなくなるし(電気代はかかるが、こちらの方が安い)、部品点数が減るので故障自体も少なくなるし、エンジン関連パーツ減少により走行不可になる心配もなくなる。なにより、名車を走行可能な状態で残しておけるということ自体が旧車をEV化する最大の利点であり、「カーテックで自動車再生メーカーへ」を掲げるカレント自動車の目的でもある。
カレント自動車ではこれまで、計4台のコンバートEVを手掛けてきた。旧車をEV化したいという相談は増えているが、コロナ禍やウクライナの情勢もあってか、今は部品が入手しづらく価格も上がっているため、なかなか対応できていないという。このあたりが通常に戻れば件数も増えていくだろう。
EV化にかかる費用はクルマにもよるし搭載するバッテリーの容量にもよるが、350万円~600万円くらいとのことだ。シートのレイアウトをどうするのか(バッテリー搭載のためつぶしてもいいのか、残したいのか)、どのくらいの距離を走りたいのか、急速充電に対応させたいのかなど、ユーザーの要望を細かく聞いて計画を立ててくれるそうなので、これからも走る状態で残していきたい旧車を持っている人であれば、EV化を検討してみるのもありかもしれない。